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2.人間―2


 それらを踏まえた上で、山を登り始めてすぐに、橘は語るように、言う。

「どうしてこんな状況になってんのかは知らないけどさ、とりあえず現状を把握して、無事にこの状況から脱出して、私達をこんな状況にした馬鹿に一発入れてやろうな」

 そう言って、橘は笑う。

 強い、女だった。自分だって何もわからず、不安しかないこの状況で、里中を、守ろうと必死に冷静でいようとしている。

 情報はほとんどない。ここがどこかもわからない。数少ない情報を記述しているメモには、悲惨で、妄想的な言葉しか書かれていない。

(メモに書いてあった文字、敵の殲滅をしろ。武器は支給した。それ以外に脱出の手段はない。敵は宇宙人だ。って文字。……単純に考えたら、敵が複数いて、そいつらを全滅させないと、ここから出られないって事だね。……で、その敵が、宇宙人だ、と……。そんな見分け着くかよ。宇宙人ってなんだ? 所謂グレイってやつしか連想できないけど)

 歩きながら、考える。

「なぁ、姫衣」

「ん? 何?」

「メモに書いてあった、違った部分……私の『敵は宇宙人だ』っていうのと、姫衣の『敵からは生き残るための力を奪える』っていうのの意味、どういう事かな」

 問う。当然、返ってくるのは、橘も連想する言葉だ。

「言葉通りの意味じゃないかな。何かの暗喩だったら、違うだろうけど、そこまで想像出来る程、情報もないし、現状も理解できてないよ」

「じゃあ、敵は宇宙人で、何かしらの力を持ってるから、私達は生き残るためにそれを奪え、って事?」

 橘のそのまとめた言葉には、里中はわからない、と応える。が、でも、と返す。

「わからないけど、言葉そのまま受け取るなら、そういう事になるんじゃないかな」

「やっぱ、そうとしかならないよな」

 そうやって考えこそするが、当然、結論は出ない。出るはずがない。

 そうやって推測や考えを言い合いながら一時間と少しの時間を掛けて、二人は何事もなく山の山頂へと登頂仕切る事ができた。

 やはり、開けた場所へと出ると、空気が違った。山頂に出てすぐ橘は空を見上げ、太陽の位置から大凡の時間を推測した。

(一三時前くらいかな。結構速くここまで来れた気がする。日が沈む前には、この山から出たいし)

 二人は当然、頂上から周りを観察して、ここが島である事、見える範囲には他の島や陸地がない事、そして、それぞれの方角に何かがあるかを把握した。

 ここが島だと分かった里中は、大して気にしないが、一応、と言った感じに言う。

「なんか、無人島って感じだね。でも、……村も建物もいくつかある」

 隣に立つ橘は、話は聴いてるよ、と、そうだな、という返事だけは返した。返事を返している間も、考えた。次は、どこへと向かうべきなのか、と。

 島である事が分かった。そして見える範囲に渡れそうな陸地がない事も分かった。泳いで陸地を捜すなんて事は無謀だと分かった。だとすれば、目覚めてすぐに考えたように、この島の『先客』を見つけて、話を聞かねばならない、と考えた。

(どこに向かう? 恐らくだけど、先に目覚めてた人はとっくに山頂(ここ)には来てるはず。目覚めたのが全員何も考えない馬鹿だってなら別だろうけど、それを考慮したらそいつに会う理由はないしね。……、だとしたらやっぱりあそこに見える村か? でも、先に目覚めた人達が私達と同様に早い内に目覚めてたら、村には既に足を運んでいて、違う場所を目指しているって考えた方が良いか? でも、それは他の建物にも言える、……けど、まず山頂についてどこに向かうかって考えたら、村だよな。どちらにせよ、一度、調べた方が良いだろうし。村、行くか)

 橘は結論づけた。と、同時だった。

「ね、楓。あっちの村の方で、何か動いたように見えたよ」

 里中が不意にそんな事を言うものだから、向かう先は当然、決まった。

「よし、じゃあ、村を目指そう。あそこなら、今日、日が暮れても寝泊り出来る場所があるだろうし」

 言って、二人は早速山を降りる事にした。山頂に留まって上がってくる可能性のある他の人間を待つ、という選択肢もあったが、メモによれば、この島には宇宙人()がいる可能性がある。敵にもし、知性でもあれば山頂の様子を伺いに来る可能性なんていくらでもある。長いは、危険だと橘は判断した。里中の疲弊もまだまだ大丈夫だろうと判断し、早急に山を降ろうとした。

 一時間強。山を村の方向へと下るには登る時よりも少しだけ時間を要した。下ってすぐには川原があり、そこまで大きくないが川が流れていて、行く手を阻んでいた。二人は少しだけ遠回りにはなるが川を渡れる浅い場所を探し、岩が並んでいる所を発見して、濡れずに川を渡りきり、その先に見えた村まで無事に到達する事が出来た。

 村へと足を踏み入れる。

 二人の第一印象は、寂れた村だ、というモノだった。

 今の時代よりも数世代前を連想させる古ぼけた村だった。アスファルトなんか敷かれておらず、それなりに数多く立ち並ぶ家も木造で古ぼけた家が多かった。一部に至っては、土作りなのではと疑う程に古い家も並んでいた。

 二人は村の中央に走る一番大きな通りを歩き、村の中心を目指していた。

 視線はあちらこちらへと移動を続ける。警戒のためでもあったが、観察のためでもあった。

 小さな村だ。人の気配があればすぐにでも気付けそうだったが、生憎、人の気配はなかった。

「人いなさそうだね」

 里中の率直すぎる感想に、橘は頷いた。

「そうだな。でも、人はいなくても何かあるかもしれない」

 そう言った橘を里中は見る。と、橘の視線がある一点に固定されている事に気付いた。その視線の先を追ってみると、一軒の平屋に到達した。それと同時、その平屋の前に、二人は到達した。

「ここに何かあるの?」

 平屋入り口の前まで来て立ち止まった二人。里中はどうして橘が数ある家の中、ここで立ち止まったのか理解できていなかった。

 それを察した上で、橘が説明する。

「この平屋、周りと見比べて分かると思うけど、やたらと、大きくない?」

 言われ、里中は辺りの今まで見てきた家も、まだ見ていない家も見回して、比べ、思う。

「あぁ、確かに」

 里中の返事を確認すると、橘は続ける。

「正直、はっきりした事は他と同じでわからないし言い切れないけど、村の様子から大体の時代は分かるだろ?」

 里中は首肯する。曖昧だったが、この村が古き良き時代、若しくはそれ以前のモノだという事は理解出来ていた。

 首肯を確認して、更に続ける。

「私の推測だけど、こういう昔の村って、大体偉い人が大きな家を持つモノなんだよ。だから、もしかすると、この現状に関係しないモノでも、村に関する書物とかあるかなーって。ないかもしれないけど」

 そこまでで説明を終えると、橘は一度辺りを見回し、自分達以外に何もいない事を確認してから、平屋の玄関扉を、横にスライドした。鍵は掛かっておらず、何事もなくすんなりと平屋の中へと進入する事が出来た。

 橘は里中が入ると、玄関扉を閉めるように指示を出した。すると、里中は扉を閉め、付属している鍵まで、しっかりと下ろした。

 そのまま、橘達は靴を脱ぐ事もなく、すたすたと歩いて奥にあった居間まで真っ直ぐに向かった。里中は探索しながら向かうモノだと思っていたようで、真っ直ぐに、他の部屋を見る事なく居間へと向かった橘を見て違和感を覚えたが、それを口にしたのは、居間について二人とも腰を下ろしてからだった。畳も古いのだろう。二人が腰を下ろすと軋む音がした。

「ねぇ、楓。探索しないの? 座っちゃって」

 言われた橘は、すぐに応える。

「探索はするけど、一応、その前に確認しておくよ」

 え、と里中が間抜けな声を出すと、橘が、さっきもだけど、と伝える。

「この村にも、誰かいたみたいだね。それも、つい最近」

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