0.生死
0.生死
木々が乱立する森の中を駆けていた。足音が木々に反響しているのか、それとも、追っ手の足音なのかはわからないが、複数鳴っている様に聞こえていた。足元は思いのほかしっかりとしているが、時折地から這い出ている巨大な木の根が邪魔をする。
季節が秋なのは好都合だった。これが夏だったら間違いなく、熱中症で倒れていたか、体力が尽きて、追っ手に追いつかれていただろう。
右手に握る、今日受け取ったばかりの、理不尽な存在に視線を落とす。
刀だ。太刀に見える。が、打刀の可能性もあり、そして、見た目以上に、軽い。初めて持った割に、片手にぶら下げながら走りきれるくらいだ。発泡スチロール程、とまではいかないが、鉄を持っているという感触はなかった。
この刃で既に三人の追っ手を殺してきた。どいつもこいつも違うモノの癖に人間の形に化けて不意をつこうとしてくるものだから、斬るその時までは人間を殺す覚悟をする事になる。だが、刃が肉を断ち、血管を斬った時に吹き出す緑色の鮮血を見ると、そいつらが追っ手なのだと改めて認識できて、人間を殺すのとは違うのだと実感出来る。
連中の本当の姿は、まだ、見ていなかった。死んだら溶ける様に消失してしまうし、今まで見てきた連中はどいつもこいつも、不意を突くために人間の姿をして登場してきていた。
誰もが、その姿を知りたいと思っていただろう。それ以前に、この島から脱出したい、元の生活に戻りたいという気持ちの方が先行しているが。
俺も、そうだった。
理解が未だ、及んでいなかった。
突然過ぎたのだ。こんな設定の映画を見たよな、と実際に仲間と話したばかりだ。
実感はわかなかったが、生物を殺すという独特の、体験した事のなかった感触が俺にこれが現実なのだ、と押し付ける様に教えた。
追っ手は振り切ったか。足音は俺のそれ一つになっていた。気付くまでに時間を要したのは、森の中の雑音が酷いからだろうか。
足を止めて、辺りを見回し、何も存在しない事を確認すると、俺は剣の鋒を地面に突き刺した。
荒れた呼吸を整え、再度辺りを見回す。少なくとも、見える位置に何かはいない。隠れている可能性はあるだろうが、連中であれば、タイミングを図って自ずと出てくるだろう。
連中について、把握出来ている事は少ない。
まずは、変装だ。どういうわけか、姿を変える事が出来る。それは、あいつに化けた姿が証明した。そして、次に、連中は、複数いる、という事。そしてその全てを殺さないと、俺達はここから出れない、という事。
最後に、そして、一番最初に証明されたのが、連中は、宇宙人である、という事。