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第7話 大忙しのエイリアン


清々しい、


こんな気分は久しぶりだ。


もしかしたら、憧れの諜報部員になった時以来かもしれない。


去り際に見せたあの老夫婦達の満足げな顔…



感謝の気持ちは宇宙共通だと改めて実感させてくれた…



「おい!」

…なんだ、うるさいな…今、思いにふけっているんだ。



バシンッ!!

「うっ!」

突如として後頭部に与えられた痛みに呻く。

な、何だ!?


「なにボーっとしてんだ、これ早く向こうのテーブルに持ってけ!」

料理長のダイさんが鼻息も荒く言い放つ。



「…は、はいはい只今!」

少々自分の世界に入っていたようだ。


しかし何も叩かなくても良いのでは?

僕の頭の中には惑星間レベルの機密情報が入っているというのに…


痛む頭をさすりながら、僕は急いでお盆にのせた料理を運ぶ。






状況を説明しよう。


場所は栄林庵店内、

時刻は13時半を過ぎたところ、つまりお昼時だ。

そして僕は…


「おい!兄ーちゃん!お会計」

「はーい、今行きまーす!」


「注文いいですか?」

「ちょっと、待ってくださーい」


…忙しい。

とにかく忙しい。


ビラ配りの段階では閑古鳥が鳴くかに思えた店内は今や客であふれかえっている。

その表現は大袈裟だとしても、ダイさんと僕の2人で捌くには正直キツイ。



どうやら、地元の人やコアなグルメ達が栄林庵の復活を聞きつけてやってきたのだ。

そのおかげで平日だというのに栄林庵は、うれしい悲鳴をあげ続けている。


「頼んだチャーハンまだですか?」

「少々お待ちを…」


「水のおかわりいいですか?」

「セルフでおねがいしまーす!」


「――――!」

「―――――」


「…………!」

「……」

「――」


………………

…………

……


大繁盛の様子が客を呼び、またそれが客を呼ぶ。


結局この連鎖反応は食材が切れるまで止まらなかった。




「ありがとう、ござい…ましたー…」


最後の客を見送った僕は【営業中】の札を裏返して【準備中】にした。





はあ~~…


そのままソファーへ倒れこむ。時計を見ればもう4時だった。



先ほどまでの喧騒が嘘のようで

静かになった店内が急に広く感じられた。


…まるで嵐だ。

訪れる時も、去る時も一瞬だ。


因みにダイさんはというと切れた食材の買い出しにいって店にいるのは僕一人だ。



まさかあんなに客がくるとは…

しかし先代の頃はもっと凄かったのだろう。


そう思うと、僅かに煤けた天井や、油の跡が微かに見える白壁が、

歴戦の勲章のような気がして、なぜだか僕は誇らしい気分になった。







ガラ…

戸が開く音がする。


また客か、準備中の札が見えないか?


そう思って体を起こすとそこにいたのは彼女だった。



「ユーマさん、これは…?」

軽く驚いた様子の彼女、もといはるかさんに僕は事の経緯を説明する。


無論悲しいスルーの件は話さない。




話を終えると彼女の顔がパッと華やいだ。

「そんなことが…でも良かったじゃないですか!」



…ハイ、良かったです、貴女あなたのそんな顔が見れて…




「それじゃあ、私は着替えてきますね」

そう言って彼女は二階の階段へ消えていった。




今更な情報だが、栄林庵は二階建てで、一階が店舗、二階には従業員用の部屋が3つある。


そのうちの2つは僕とダイさんの自室兼寝室であり、余っていた一部屋を彼女に進呈したのだ。


広さは


ダイさん>僕>遥さん

の順だ。


ダイさんは一番大きな部屋を譲ってくれなかった。

おかげで僕は乗ってきた宇宙船を裏庭に隠す羽目になった。


まあ、今更部屋の交換はしたくないが…


なぜならあそこには部屋干しの悪魔(くっさい靴下)が猛威をふるっているからな!



トタタタ…


お、彼女が降りてきた。

「お待たせしましたー」


目の前に紅を基調としたエプロンに身をつつんだ可憐な少女が現れた。


くっ…学校の制服もかなりのものだったが、こっちの制服も似合うじゃないか!



っていうか服ならなんでも似合うんじゃないか?

そう思える姿だった。



「…よし、店の片づけでもしますか」

ややあって僕が固まった背筋を伸ばして立ち上がろうとすると


「ユーマさんはゆっくりしていてください、私がやりますから…」

そう言って彼女はてきぱきと割り箸を補充したり、掃除をしたりしてくれた。


僕が惚れ直したのは言うまでもない。



◆◇◆


その後ダイさんも店に戻り、栄林庵は再び営業を開始した。


夜の部は昼の比べものにならないほど混雑した。



しかし器量の良い遥さんの手伝いのおかげで僕の負担はかなり軽減された。


っていうか男性客、僕が注文に現れるとなぜ、がっかりするんだ?


中には舌うちをする輩までいる。


…僕の接客態度は完璧だぞ?




そんなこんなであっという間に時がたち、

遥さんが僕らに挨拶をして帰っていったころには時計の針が22時を指していた。





ああ、今日もなんて一日だ…

朝から晩までこき使われた。



しかし、昨日までなかった達成感が確かに自分にあることに僕は内心満足していた。

こんなハードな一日も、たまにはいいかもしれないな…




…だが、この後、ダイさんから洗い物を手伝え、という命令があることを僕はまだ知らなかった。

そして新たな看板娘を目当てに男性客が増えることも知らなかった。






















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