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第6話 ガラスのハートと2人の老人


昨日は僕にとって散々な一日だった…


タコなる存在を仲間と勘違いし、連れ出して、玄関開けたら数秒で

意識が彼方にフライアウェイ!


あまりのショックに夢だと思い、ほっと一息つくもつかの間


あろうことかそれを食すハメに…




美味しかったけどね!


日本語のトラウマって何?って思ってたけど、こういうことだったのか…みたいな


まあ、僕の場合はタコウマなんだけども

…タコが美味しかっただけに。




あ、一人称が私から僕に変わっているのにお気づきかな?


これにはちょっとした訳があるのだ、昨日の食後にあの男が言いだしたのが始まりだ…


◆◇◆



「私はなんということを…」

後片付けをしていた片岡さんが、いまだグロッキー状態の私に話しかける。


「そういやおめぇさんよ、その私ってのなんとかなんねーのか」


…?



「えらく他人行儀でムズムズすんだ、せめて僕、とかじゃ駄目なのか?」


そうなのか?

私というのが地球で最も当たり障りのない一人称だと教わっていたのだが。


しかもなんか…こう、エリートの私にはふさわしい雰囲気があったし…



なあ、遥ちゃん、と洗い物をしていた遥さんにも彼は意見を求める。

偉い、さっそく店の手伝いだ。


「まあ、私は…。でも、僕っていうのも割と好きかな」



……………………………





ピシャーーーン!!(心に雷が落ちる音)




…す、すすす、好き!?


マジか、マジでか!



「分かりました、僕でいきましょう!!」

勢いよく立ちあがる。



即決だ、私なんか糞くらえだ!


◆◇◆


…とまあこんな具合である。


案外、自分は単純なのか…。




そうそう、この話にはちょっとした続きがある。


僕が一人称を改めた後に、またも片岡さんが言いだしたのだ。



「それと、遥ちゃんも俺たちのことを料理長だの、店長だのと呼ぶが、もっと気楽でいいんだぜ?」

「たとえば…?」

彼女は小首をかしげる。

そんな動作もかわいらしい。


「そうだな俺は…ダイさんとでも呼んでくれ」

確かにあんたはデカイからな


「分かりました、ダイさん、」

そして彼女はこちらを向いた、動くたびに流れる黒髪の軌跡が私、…ゲフン!僕の心を惑わせる。


「店長さんはなんて呼べばいいですか?」


え、僕も?



「コウさん、それともユーマさん?」

彼女が笑顔で聞いてくる。



…後者に何かがビビっときた。


「じ、じゃあ、ユーマで」


「そのまんまだが、いいね、ユーマ!しっくりくるねぇ」

片岡、もといダイさんが渋い声で言う。



…さんを付けろ、さんを!

一応、僕はアンタの雇い主なんだぞ。

こうして僕はユーマと呼ばれるようになった。


UMA?

くどいぞ、そんなものは知らん!





さて、現在に話を戻そう。


今僕は店員の制服に身を包み、昼の開店に向けて店内の掃除をしている。



なぜ店主なのにこんなことをしているかって?

それは僕も同感だ。しかしそれをダイさんに訴えると


「何ぬかしてんだ?こっちは絶賛人手不足なんだ」

「遥ちゃんは昼は学校があるし、俺は料理の仕込みで忙しいんだ、オメーが働くのは当然だろ!」


と怒られた。


完全に立場が逆転している。どこで間違ったのだか…





テーブルを全てキレイに拭いた。

ふう、一通り終わったか、時計を見るとそろそろ良い時間だ。



店の前に出て、栄林庵の暖簾のれんをかけ、営業中の札をだした。


後は客が来るのを待つだけだ。




と思っていたのだが…




どさっ



目の前に紙の束が置かれる。


「店先でこれ配って、呼びこみ頼む」


なんで僕が…



…ギロリ。




…い、イエス、ボス。



客引きをすることになった。



◆◇◆



暑いな…

照りつける太陽に汗がにじみ出る。


これも地球人であるがための弊害だ。

私の故郷に比べれば、ここは凍え死ぬほど気温が低いはずなのに。



お、通行人だ

「あの、本日新装開店しました、栄林庵でーす。よろしければ来てくださーい」

そう言って笑顔でチラシを差し出す。

が、




スッ…


すたすたすた…



…え?……


僕は一瞬なにが起きたのか理解できなかった。






…す、スルーだとぉぉォ!?


え、なに?受け取ってもくんないの?



じゃあせめて、いらない、ぐらい言えよ!




いや、落ち着け、彼は考えに熱中していただけかもしれない。

僕にもそんなことはままある。

一つのことに集中するあまり、周りが見えなくなってしまうことだ。




よし、次の通行人だ…

「あの、本日新装開店しました、栄林庵でーす。よろしければ来てくださーい」

同じ文言をいってチラシを渡す。


サッ


すたすたすたすた…



……


気を取り直してもう一度…

「あの、本日新装開店しました、」

すたすた



「あの、栄林庵で」


すたすた

「あの…」

すたすたすたすた




・・・・・……………………





「いい加減にしろよォォ!!」

思わず天にシャウトする。


普通に傷つくじゃないか、

いったい何人考え事をしてるんだ、何を必死に考えているんだ、


少しは僕のことも考えろ!!



空気が読める人種の名が泣くぞ!…ついでに僕も泣くぞ!

あれ?

汗とは違う水滴が、頬から一粒滴り落ちたぞ?


それに、それに…前が霞んで見えねーや…




もう駄目だ、これ以上は持たない

…心が。


そう思って店に戻ろうとすると背後から声がかかった。


「お兄ちゃん、ここの店員さんかい?」


?、

振り返ると、そこには一組の老夫婦がたたずんでいる。



「名古屋から来たんだけどね、お昼をどこで食べようか迷っててね」

とお婆さん。


「ここも料理屋さんみたいだけどうまいんかね」

とお爺さん。




一瞬の沈黙、そしてはっと気づく。

彼らは客だ、念願の!


「そ、それなら是非、ウチで!」

慌てて僕は彼らを店に案内した。



「ダイさん、二名様はいりまーす」




「ヘイ、らっしゃーい!」

ダイさんの声が響く。


カウンター席に着いた彼らにおススメは何かと聞かれたので、栄林庵ラーメンを推しておいた。

僕があれを食べた時に感動を覚えた逸品だったからだ。



「ヘイ、お待ち」

具が大盛りのラーメンが2つ、彼らの前に置かれる。


箸を割る2人。

いただきますと合掌した後、麺をズルズルとすする。



…どうだ?

店内が静まり返る


すべてが2人の言葉を待っていた。

そして…



「う」

う?


「う、うみゃー!うみゃーよこれ」

お婆さんが体に似合わず大声をあげた。


「こんなラーメン初めてじゃ!」

お爺さんも賛辞の言葉を次々述べる。



「ありがてぇ、お言葉です」

料理長のダイさんが少し照れる。




その後も彼らは、うみゃーを連発していた。

うみゃーというのは方言で、美味しいということらしい。

そして汁まで飲みほしてくれた。


あの年代にこのスープは、少々、血圧に悪いかと思ったが…




「また、食べたいもんだねぇ」

そう言って会計を済ませ、出口に向かう彼らの満足そうな顔を見ていると、

僕の傷ついた心が癒される気がした。



「ご来店、ありがとうございました!!またのお越しをお待ちしております!」

僕は心の底から頭をさげて、2人を見送った。













自信がないので感想くださーいm(_ _)m



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