第4話 続 スーパーでカルチャーショック!
私は驚いた、とにかく驚いた。
あまりの衝撃に、気を失うことすら忘れて。
我が目を疑う光景だ。
だが、目の錯覚ではない、あの赤い体色、八本の触手、そして大きな頭ッ…!
眼前のそれ、もとい水槽の中には同族が捕えられていた。
それも大きさからするとまだ年端もない赤ん坊だ。
なぜだ…!
なぜこんなところに我が種族が!?
地球に送られたのは私だけではなかったのか?
そして追い打ちをかけるように私の目にさらなる衝撃が襲いかかった。
水槽の前の陳列棚にはなんと、切られた上に茹でられた無残な仲間のなれ果てがパック詰めで並んでいた。
~~~~っッ!!!
私は全て間違っていた、
地球人は平和な種族ではなかった、
そしてここはスーパーではなかった
ここは、ここは…公開処刑場だ!!
今まで感じたこともないような戦慄が走る
諜報云々言ってる場合ではなかった、早く逃げねば私の命も危ない!
だがせめてお前だけは救ってやる!
目の前の命も救えずしてなにがエリートだ!
気づけば足が動いていた、そして眼前のそれに拳を叩きつける
「☀△@σ、#;*◎~!!(聞こえるか、返事をしろ!!)」
思わず母語が口から飛び出す。
するとスーパーの女性店員が飛んできた。
「お、お客様!それは商品ではありません!!」
来たか悪党、そんなことは百も承知だ、これは尊い生命だ!!
「やめてください!」
彼女は必死で止めようとする、
だが私だって必死だ…これだけは、譲れん!
「ちょ、警察呼びますよ!」
それはこっちのセリフだァ!
もしここに通信機があったならば今すぐにでも、宇宙 警察を呼んでいるところだぞ!
しかし堂々と警察の名を口にする辺りに余裕が感じられ、私は動きを止める。
…これは脅しだ、
呼べるものなら呼んでみろ……ただし…人質の命はないと思え
っと言うパターンだ!
それはマズイ!既に非道の限りを尽くしている奴らだ、きっと脅しだけでは済まないだろう。
「お、落ち着け、話をしよう、…いくらだ、いくらなら引き渡してくれる」
下手に刺激しては駄目だ、落ち着け自分。
「それは…あのそんなに欲しいんですか?それより加工済みなのがありますよ」
そういって彼女は例のパックを差し出す。
…なんて卑劣な奴らだッ!!
どこの世界に死体を救おうとする連中がいるというんだ、
「ば、バカにするな!」
「ひッ…!?」
「で、ではちょっと店長に聞いてきます…」
私が怒鳴ると彼女は困った様子でこう言ってその場を去った。
…ボスを呼びに行ったか下っ端め。
しかしよもや交渉人になろうとはな…
人質救出の要は身代金の受け渡しの瞬間だ。ここからは一秒たりとも気は抜けない。
催眠装置があればこんな状況打破できるんだが、あいにくそれは宇宙船の中だ。
取に戻っている暇もない。
暫くして店長と呼ばれる男、もとい犯罪組織のボスが現れた。
「お客様、どうなさいました?」
その40代の男は顔に笑みを浮かべてやってきた。
んなっッ!
笑って……いやがる、この状況で
周りの客も騒然と見守るこの条件下で。
しかも、要求ではなく、どうなさいましたかだと!?
…これは…私の出方が試されている?
なめられる訳にはいかない、せめて対等に交渉しなければ…
引ける腰をなんとか伸ばすと私は口を開いた。
「頼む、私が払える額なら、いくらでも出す、だから…その命を譲って欲しい」
私は頭を下げる、もはや対等ではなかった。
訪れた沈黙が永遠にも感じられた。
「分かりました、いいですよ」
彼の言葉が一瞬信じられなかった。
「え…?」
慌てて顔を上げる
「ですからお譲りすると言っているんです」
「き、金額は…?」
「あなたの熱意に負けて、198円でいいですよ」
彼は仕方がないという顔で首を軽く振った。
「生きたままでいいんですよね」
そう言って彼は赤ん坊を水の入った袋に入れて差し出した。
彼の気が変わらないうちにその場で1000円札を捨てるように置くと、私は袋を持ってその場を駈け出した。
「お、お客さん、お釣りとレシート!!」
後ろからボスの声が響いていたがそんなものは私の耳には届かない。
なんと…私は勝利した、凶悪な拉致集団から見事人質を奪還したのだ。
しかも身代金を値切ることに成功した。
…はっ!
勝利に酔っている場合ではない、一刻も早くこの現状を本部に伝え、
この子と共に故郷へ帰還せねば!!
袋の口を強く握りしめ、私は通信装置のある栄林庵へと駆け戻った。
お気づきかと思いますが、悠馬が救ったのはタコです。
悠馬たちの本来の姿がこれに良く似ていたために、今回の騒動が起こりました。
次回はその真実を知った悠馬が大きなショックを受けることに!