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第2話 続 バイトの少女にカルチャーショック!



どういう…こと…?


少女、もとい高校2年の女子高生、山川やまかわ はるかは驚いていた。


確かに自分はサイトの広告に応募し、『栄林庵』のバイトの面接に来た、その目的は言うまでもなく採用だ。


そして自分は見事、採用された。しかし、今の心情は喜びよりも不安に近かった。




なぜなら、引き戸を開けて5秒で採用。


もともと時給1050円という割の良すぎるバイトに半信半疑で応募したのだが…



大丈夫なのかな、何かヤバい仕事じゃないよね?

…偏見は良くないけど目に前の店長さんは外国人っぽいし…


そう思うと、渡された書類の中にも巧妙に隠された危険な同意文が含まれている気がする…


不安が募る彼女はどんな些細な文言も見落とさないように、手元の書類に目をはしらせた。







…なんだ、この感覚は…!


目の前で真剣に仕事内容の書かれた書類に目を通す彼女に私は焦りを隠せない。


彼女は名前を山川 遥といって、近くの高校に通う高校2年生だった。

そして見た目は白い肌に整った顔立ち、流れるような黒髪が彼女の清楚な印象を際立たせていた。




…何より…かわいい///


潜入にあたり、事前に地球人の、特に日本人の顔は飽きるほど見てきたというのに!

ここの料理人とも顔を合わせたのに、そのときは何も感じなかったのに!


胸のあたりの高鳴りが抑えようにも止まらない。


価値観が地球基準に達すると、こうも世界は変わるのか!


故郷で片思いをしていた女の存在さえ、眼前の少女の前にはただのアメーバだ!

…いや実際アメーバだったけども



こんなことは予想外だ、後で必ず報告を入れねば!

だから今はいったん落ち着こう、深呼吸だ。


スーハー、スーハー


この地球式のリラックス法は存外使える、肺と脳に新鮮な空気がいきわたり、私はなんとか平常心を取り戻した。





そして機械的に少女を見やると彼女はまだ書面に目を落としていた。


…そんなに複雑な内容だっただろうか。

エリートたる私があんなに念入りに確認した上で作成したものだ誤字や脱字があるはずもない


とりわけ契約規約のところを必死に凝視しているが…


そんな私の視線に気がついたのか彼女はびくん、と体を震わせる。

「す、すみません!はやく読み終わりますっ」



なぜ、謝るのか、……




…はっ!もしや先ほどの動揺が伝わったのか!


そういえば日本人というやつは地球人の中でも以心伝心という特殊な力を有する種族ではなかったか!?

その能力は我々のテレパシーをも遥に凌駕するものだとか。


よって彼らの前で取り乱すことは、即ち自分の内部をさらけ出すに等しいと!


このことは任務の前の講習会で嫌というほど暗唱させられたのに…





迂闊だった…今回は私の負けだ、華麗な地球人よ、


しかしエリートに2度目はない、もうあんなに動揺するものか。





私が気を取り直すとようやく彼女も書類を机に置いていた。


「何カ、質問はありますカ?」

すると彼女は複雑な顔をした。

それは地球人が言うべきか言わないべきかを迷った時にしてしまう表情だった。



…悪い予感がする、どこまで心を読まれたかは知らないがそこは空気を読んでくれ!

そういう力もキミたちにはあるのだろう!


いまこそ私の心を読め!いや、読んでくださいィ!!先ほどの決意も忘れて心の中で懇願する。


しかし無情にも少女の口は開かれた。


「あの、…書類ってこれで全部ですか?」





「…ハイ…?」

思わず疑問に疑問で答えてしまった。


一気に心の葛藤が嘘のようにひいていく



すると彼女はさらに恐縮して先ほどの質問を繰り返す。


「…書類ってこれで…全部ですか?」




2度目を聞いても同じだった。

意図が、わからない…


仕方がないので言葉通りに受け取って、そうですよと返すと、ややあって彼女は少し安心した素振りを見せた。




…やっぱりわからない

そう思った直後に教科書のある言葉がフラッシュバックされる。


【日本人と稀有な能力】

 

日本人と呼ばれる地球人の一種は非常に興味深い能力を持つ。それは相手の心や場の空気を読めるということだ。個体差はあるものの、この能力に長ける者はそれを活かしてお互いの関係を円滑にしているらしい。

つまり、不具合が起こった際に相手の心を呼んだ上で、それをいたわりフォローする。

その行為は一般的に 気を使う、と呼ばれるものである。





…っッ!!

そ、そういうことか、今まさに私は気を使われたのだ!

彼女は知らないふりをしてくれたのだ!

これが日本人の、以心伝心を用いたフォローというものか!


ならばなおさら平静を装わなければ…


そう思って再び前を向く、すると、そこにはほんの数センチ先に心配そうに私を眺める彼女の顔があった。


「大丈夫、ですか…?」



ぐあぁぁっ!

ち、近い!!、そしてもはや大丈夫などでは無い!


暴れる心臓が肋骨を激しくノックする

脈拍が、血圧が、ぐんぐん上がる。


くをぉォッ…!


またか!

しかしこれほど強いのは初めてだ!!


し、心臓が壊れそうだ!

地球人の臓器はこんなにヤワなつくりなのか!



「店長さん!?、し、しっかりしてください!!」


彼女の悲鳴が聞こえるなか、私の意識は闇に堕ちた。








その後のことはよく覚えていない。気づけば自分は店のソファーの上だった。

しかも窓の外は真っ暗だ。


辺りを見回すと、奥の厨房から白衣の大男が近づいてくる。




「相変わらず体が弱いな、新しい店主さんは」

その男が渋い声でため息まじりにそう言った。


…また紹介が遅れたな、この人こそが我が飯店の料理長、片岡かたおか 大吾だいご48歳。中華一筋28年の大ベテランだ。



…それはともかくだ、状況が理解できない。



「バイトの子なら帰したぜ、なんでもあんたが急に倒れたってんで、救急車を呼ぼうとしててな、早めに俺が戻ってよかったぜ…」

「どうせいつものアレなんだろ?」

…彼の言葉にかえす言葉がない。



まだ諸君らには打ち明けていなかったが私には深刻な問題がある。

生まれたときから英才教育を受けてきた私は才能に溢れていた、


しかしそれと同時にとても繊細な心の持ち主でもあった。

それゆえに強いショックを受けると体に何らかの支障をきたしてしまうのだ。



今回ほどではないが故郷でもそんなことは多々あった。完璧無欠な私の唯一の弱点だ。


そして片岡 大吾との面接の際も、彼が部屋に干していた靴下の臭いを嗅いだだけで卒倒してしまった過去がある。あのときばかりは物理的なショックだったが…



つまり山川 遥に刺激を与えられすぎた私はそのまま気絶してしまったということだ。

さぞ彼女を不安にさせてしまったことだろう



…そして、もう…彼女には会えないのだろう



呆然とする私に片岡 大吾は続ける

「それはともかくあの嬢ちゃんにどんな面接したんだ?」



…思い出したくもない


「仕事の安全性についてやたらときかれてな、まあ一通り説明したら安心したみたいでよ、さっそく明日からココで働いてくれるそうだ、良かったな。」


「あの子は看板娘になるぜ」


……そうか、看板娘ね……・・・・え?




「あの、片岡サン、今なんていイました……?」


「だから看板娘になるだろうなって」


「そのあとデす」

「良かったな」

「そのあと!」

「…明日から働いてくれるそうだ」

「はイ、そこォ!」

思わず指を突き付ける。


「ど、どういうコトですカ?その、明日から働いてくれるって」


「…?…言葉通りの意味だろ」

彼は不思議そうな顔で言った。




「…本当ですカ…?」

「嘘言っても仕方がねーだろ、どうしたまだ頭がしっかりしねえか?」


しかしそこから先の彼の言葉は聞いていなかった。




嘘じゃない、明日から彼女はここで働く、


…・・・・彼女にまた会える!!


私は一瞬、自らに課せられた使命も地球人でないことすらも忘れてただただ、歓喜した。













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