EpisodeⅠ-Ⅱ
「……これは、思った以上にきついな……」
「大丈夫ですかマスター?」
とりあえずは経験を積むために辺りを探索して数時間。
白い空間をくぐる前に言っていた神様の言葉を俺はようやく理解した。
全ての生き物は生きている。
全くその通りだ。
ゲームとは違う。
かろうじて基本ルーチンは覚えているので攻撃を読むことはできるのだが、それも気休めにしかならない。
この森にはおなじみのゴブリンがいるのだが、あいつらは多少知性を持っているらしく、お粗末とはいえフェイントを使ってきた。
俺一人ではステータス補正で死にはしないが、かなり苦戦しただろう。
アイリスと言えば。……うん。俺なんか比べ物にならないくらい強い。
武器はグレードEの最低ランクであるショートソードを俺とアイリスは装備していたのだが、アイリスはそれでも巧みな身のこなしやしっぽによる防御と打撃で敵を追い詰めていった。
「アイリスはほんと強いな」
「ま、マスターも頑張ればきっとすぐに強くなります!」
アイリス。それは俺にとってちょっとした追い打ちだから……。
「それにしても、その身のこなしはどうやって覚えたんだ?ゲームでか?」
「あ、はい。ゲームもありますが、サポートキャラの時は自由にインターネットへと入ることができたので、格闘技などの事も勉強しておきました」
あれは格闘技を元にしてるのか。
「えーっと、よければそれ、俺にも教えてほしいんだけど……」
「いいですよマスター。マスターがそう言ってくれてうれしいです」
あっさりOKがでたよ。
「元はと言えば、マスターがこちらの世界に来た時に少しでも役に立てればと思い勉強していたんです」
そうなのか。
アイリスの気遣いに涙が出そうだよ。
「あとさ、さっき神様に訊いたんだけど、アイリスが俺の……その、奴隷って本当?」
「はい。ゲームでのサポートキャラは、この世界へ来た時に自動的にマスターの奴隷となります。
この世界にはサポートキャラという概念はありませんから」
うん。それは神様からも訊いた。
奴隷……アイリスが俺の奴隷……。
いかんいかん。変なことを考えてしまった。
「それじゃ、その格闘技を教えてもらうのと一緒にもう少しだけモンスターを狩ろうか」
「はい。マスター」
邪な思いを振り払うために俺は慌ててその場を後にした。
ちなみに言っとくと、アイリスは結構スパルタだった。
「うう……辛い……これは絶対明日筋肉痛になるよ……」
「すみませんマスター。私も少し張り切り過ぎました」
現在の場所は近くの町の宿屋。
しょんぼりと反省しているアイリスを見たらそれだけで体力が回復しそうだが、そんな補正は無かった。
「でも、この世界に筋肉痛という概念はありません。回復アイテムを使えばすぐに治ります」
「それを早く言って!」
急いでアイテムボックスからモンスターの落とした薬草を飲む。
やや苦い渋みが口の中を通り、筋肉痛の辛さが和らいだ。
変なところがリアルで、変なところがゲームっぽい。
とりあえず戦闘で新たに確認できた要素は多かった。
まずは先にも言った通りモンスターも生きているところだ。
ゲームにしたら凝り過ぎてんだろっていうクレームが何件も来そうなくらいリアル。当たり前だが。
それぞれに意志もあり、知性のあるモンスターは戦略まで使ってきた。
とはいっても今回はゴブリンくらいだったが。
現れたモンスターはスライムやゴブリン。ゲームではおなじみのザコキャラだ。
しかし、それに手間取っている俺。
身のこなしなんかの体術はかなり大事なファクターらしい。
体力なんかのステータスは感覚によるものが大きいらしい。
当たり所が浅ければちょっと痛いぐらい。深ければかなり痛かったりと、当たり判定もリアルだ。
よく言うMPなんかは魔法を使ってみたところ、使った分だけ気が重くなった。
魔法なんかのスキルはレベルが関係するらしい。
初歩の魔法は簡単に使えるのだが、強い魔法はほぼ失敗。
アイリスによると、『使える』というだけでレベルが上がらないと成功はしないらしい。
「無駄にゲーム要素があって、無駄に現実的なんだな。この世界は」
「そうですね。マスターはそう感じるかもしれませんが、この世界の人にとってはそれが当たり前です」
一番驚いたのはモンスターを倒したとき。
モンスターは自然にある魔力なんかが集まって形を成したものであると言うのはゲームの時からある設定らしいが、実際に倒したあとに消えると言うのは驚いた。
しかも、ご丁寧にアイテムや銅貨などを残して。
「この銅貨の単位ってどうなってるの?」
「銅貨一枚が1ガルド。銅貨百枚で銀貨になり、銀貨が百枚で金貨。さらに金貨が百枚で白金貨になります。価値としては、銅貨一枚がマスターの世界での百円とほぼ同じです。物価もゲームと同じになります」
分かりやすい様な分かりにくい様な……。
つまり、今日手に入れた資金は売り払ったアイテムも含めて銀貨五十枚と銅貨八十二枚。
日本円にして……五十万八千二百。
かなりの額だ。
宿屋の代金も二人で銀貨一枚。つまりは一万。
この部屋でそれはちょっとしたぼったくりだと思う。
簡素なベットが一つに家具がほとんどない部屋。
灯りは銅貨二十枚で借りたランタン一つだ。
どうも、時代的には中世のヨーロッパあたりらしい。よくは分からないが。
何故ベットが一つなのかというと、アイリスがそれでいいと言ったからである。もしかしてそう言うこと?
今もベットに腰かけている俺の隣に一緒に座ってるし、そう言うことと捉えていいのかな?
「あ、あのさ、アイリス。やっぱり俺は床に寝るからベットはアイリスが使ってくれて構わないんだけど……ダメかな?」
「……えっと、ダメです。……せっかくこうやってマスターとお会いできたんですから……その……」
うん。やっぱりアイリスも恥ずかしいみたいだ。
頬を染めて照れているアイリスの可愛さは言葉にできない程だけど、今はちょっと……抑えが利かなくなりそうだ。
ゲームでアイリスと話していた時も、俺は早い段階からアイリスをAIだとは思わなくなって、一人の女の子として見ていた。
その女の子が一緒の部屋。しかも同じベットで寝ることになっているのだ。嫌でも意識する。意識をしない奴は男じゃないと断言できる。
「……つまり、そう言うことだよな?……アイリスは良いのか……?」
「……は、恥ずかしいので言わせないでください……」
コクンと小さく頷き、消え入りそうな声でそう言うアイリスに俺の理性は限界まで来ていた。
まずは触り心地のいい耳やしっぽから撫でていく。
今夜は長い夜になりそうだ。
ハーレムにはまだまだ行きませんがとりあえず一人目。
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