EpisodeⅥ
「やあ、おおきに」
慌てて後ろを振り向くとそこにはやたらと存在感のある不思議な女性がいた。
「とりあえずは初めましてか?イツキ君」
「……初めまして……」
「そんな緊張せんでいいよ……って言っても無理やね」
「ええっと……」
「儂は神じゃ。名前はえーっと……長いこと生きてんから忘れてしもうた」
とりあえず反応に困る。
いきなり大阪弁みたいな方言の神って名乗ってる女性が現れたら誰だってそうなると思う。
「まあ、楽にしい。
あんさんはその子のお気に入りさかい取って食ったりはせんよ」
「はあ……」
「元気がないのう。もっとシャキッとせんか」
いったいどうすればいいんだよ……。
「神様。マスターが困っていらっしゃるのでお戯れはそこまでにしていただけませんか?」
「えー!相変わらず君は固いのう。
いや、今はアイリスと言うんやっけか?」
俺の反応を見かねて神様(?)に物申すアイリス。
それに神様(?)は子供の様に唇を尖らせる。
「えーっと、アイリスと神様(?)は知り合い?」
「イツキ君。なんやか儂の呼び方だけ馬鹿にしてるような気がするのは気のせいかね?」
「知り合いというわけではありませんマスター」
神様(?)の言葉もスルーするアイリスはすごいと思う。
「無視せんでよアイちゃん。儂の繊細なハートが粉々になってしまうやないか」
「神様のハートはミスリル合金よりも硬くて丈夫だと思います」
うーん。いったいなんだろうこの光景。
アイリスは神様(?)に対してかなり冷たい口調だ。
「そんで、儂とこの子の関係やったね。
……まあ、一言でいえば神様と巫女さんみたいな?」
と、そこでいきなり話を戻す神様(?)。
この人のテンションが全く分からない。
「そうなのかアイリス?」
「ええ。まあ、そうです。お会いしたのは初めてですが」
初めてなのか。
それにしてはそんな気配が微塵もないのはどうしてだろう?
「儂は心が広いさかい、どんなに冷たい口調でも気にせいへんよ」
と、いうことらしい。
「で、君をここに呼んだ理由やね。
……と、その前に一言言っておかなきゃあかんことがあった」
神様(?)はそんなことを言ってコホンと咳払いをする。
「とりあえずは全職業カンストおめでとう。
やっぱり君は儂とアイちゃんの見込んだ通りやね」
「はあ……」
「なんや、その気のない返事。せっかく褒めてんやからもっと胸張りい」
うーん。褒められたのは分かったけど、なんで今それを?って感じなんだよねえ。
「で、ここからが本題。
君はゲームの<ユースガイア>において先にも言った通り全職業をコンプリートした。
よって、運営から新たなクエストを授ける」
「え……?」
運営?
「マスター。この方自体がゲーム<ユースガイア>の運営会社である<ジャッジメント>です」
「そうそう。君みたいなプレイヤーを判断するためにね。
運営って言った方が君達の世界にも分かりやすいやろ?」
なんだか話に付いて行けない。
つまり、ファンタジーMMOゲーム<ユースガイア>の運営はこの神様(?)?。
「……でも、なんでそんなことをわざわざゲームで?」
「ぶっちゃけ言うとただの暇つぶしー」
ろくでもねえ理由だったよ。
「……それで、ゲームで全職業をコンプリートした俺がここに来たと」
「おお。理解が速くて助かるねえ」
ほとんど理解はできてないけどな。
「そう。ゲームで全職業をコンプリートした君にはチャンスがある。
このクエストの報酬は君の願い事を叶えること。
達成条件はこれから異世界である<ユースガイア>へと君が実際に転生して、今までと同じように職業をカンストまで上げてくれればいい。
受けるかい?」
「受けないと言った場合は?」
「そん時はそん時。この話は無かったことにして、君のいる世界で今まで通りに生活するとええよ。
ゲームも今まで通り運営するし、アイリスも君のサポートキャラとして使っていい。
儂は次の人材を待ってるさかい」
「他にも転生のシステムに気付いた奴がいるのか?」
「そりゃもちろん。
職業がカンストまで行けば自動的に転生クエストが出る仕掛けやからな」
それもそうか。
カンストして各地を彷徨っていればいずれ見つかるものだろう。
「君はその最初の一人。
このクエストを受けられるのは一人までやから、君が断れば次にコンプリートした奴にその権利は移る。
ああ、ちなみに受けるチャンスは一回きりやで、今ここで決めい」
今ここでか。
このクエストの報酬は神様が言った通り『願い事』を叶える。
特に俺には願い事は無いしあまりメリットは無いんだけどなあ……。
「…………」
と、そこで不安げに瞳を揺らしているアイリスの顔が目に入る。
ああ……そうか。
断れば今まで通り。つまりはアイリスと画面越しでしか会えなくなる。
「……もし俺がそのクエストを受けたとして、アイリスはどうなる?」
「ん?アイちゃんか?そりゃもちろん君に付いて行ってもらって構わんよ。
そのために儂が生みだしたものやしね」
生みだした?
つまり、アイリスにとってこの神様は親のような存在なのか?
まあ、それは今はどうでもいいか。
ちらりとアイリスの顔を盗み見ると、心なしかその質問によってアイリスの目が期待に満ちたものになっている気がする。
(そんな顔されちゃなあ……)
もう、俺の心は決まったも同然だ。
「分かった。そのクエスト受けて立つ!」
「OK。OK。そんじゃ、決断してくれた君にはプレゼントを贈るさかい、後で確認しい」
そう言って神様は後ろに振り向き、ごく自然に腕を振るった。
するとそこには、真っ白な扉の形をした空間がいきなり現れる。
「ここをくぐれば君は<ユースガイア>に転生できる。
最初に忠告として言っとくが、この世界では君も、アイリスも、すべての生き物が生きている。それを忘れんようにな」
神様の言葉は今の俺には理解できなかったが、異世界の扉を前にして心臓が高鳴っている状態じゃしょうがないと思う。
ふと、俺の手に温かい別の手が触れる。
隣を見れば嬉しそうに微笑んでいるアイリスの姿。
俺はそれに微笑み返し、手を繋ぎながら白い空間へと一歩ずつ進んでいった。
「お熱いのうお二人さん。まあ、とりあえずは頑張れ。
――貴方が神の職業へと至ることを願って――
お二人様ごあんなーい!」
最後に聞こえた神様の言葉は、運営からのメールに書いてあったものと同じだった。
次回から第一章が始まります。
誤字・脱字・内容の矛盾・感想など、どんどんお待ちしています。