EpisodeⅤ
「……ター…………スター……マスター。
起きてくださいマスター」
どこか遠くて近い様な曖昧な声に俺は意識を取り戻しつつある。
えっと、確か俺はやっと全職業をカンストまで上げて、そしてそれから更新の間まで寝ることにしたんだっけ?
と、するとこの声はアイリすのものか。
でも、俺の身体を揺すっているこの温かい手はなんだろう?
スマホのバイブでは決してないな。
重い目蓋をゆっくりと上げると、そこには見慣れた。けれどもいつもドキリとするような美貌を持ったアイリスの顔が間近にあった。
「おはようございますマスター。
よくお眠りになられましたか?」
うん。いつものアイリスだ。
顔が近いのは寝ぼけて幻覚でも見えているのだろう。
とりあえず
「……あと五分……」
そうすれば完全に目覚めるかもしれない。
確率は低いが……。
「ダメです。起きてくださいマスター」
けれどもアイリスは俺を起そうと声を掛けてくる。
身体を揺する力もどんどん強くなっていく。なんだ? 地震か?
ならば早く起きないと。これだけ大きい地震だと危険だ。
重い目蓋をもう一度開いてテレビのリモコンを探す。
まずは地震警報を確認して……って、あれ?
そこにはテレビのリモコンは無かった。
というよりテレビのリモコンだけではなくも何もない。
辺りは一面黒い。けれども暗くはなく、自分の姿ははっきりと見える。
そして、もう一人の姿も。
「おはようございます。マスター」
「アイリス……?」
あれ? パソコンは待機モードにしてるはずだし、それよりも顔だけじゃなくて全身まではっきりと見えて……。
「……痛い」
「大丈夫ですか?マスター」
夢の続きかと思い頬を抓ると、当然のごとく神経が痛みを脳に伝えてきた。
そんな俺の行動を心配したアイリスが抓った個所に優しく触れてくる。
アイリスの指、温かいな……。
この温かさはさっきまで俺を揺すっていた手と同じ温かさだ。
「ま、マスター?」
とりあえずアイリスの頭を撫でてみる。
念願のキツネ耳は毛がそれなりにふさふさで手触り抜群だった。
いつまでも撫でていたい。
「えーっと、いったいこれはどういうこと?」
「……今更ですか、マスター」
時間にして数分間、思う存分アイリスのキツネ耳を弄り回した俺は、ようやく状況の確認へと移る。
ずっと撫でられていたアイリスは、ちょっとだけ潤んだ瞳になりながらも抵抗はしなかった。
うん。その目は反則。ものすごく可愛い。
「何でかは分からないけどようやく念願だったアイリスの頭を撫でることができたからね。
そっちを優先しちゃった」
「……う、ん……」
やっぱり照れてるアイリスは可愛いな。
これが夢だとしてもあの耳の感触は忘れない。
「……えっと、まず、状況の説明ですが。
マスターは今、神域にいます」
うん?
気を取り直したアイリスの言葉にきょとんとする。
「えーっと、神域って確かクエストで転生するときに移動するとこだっけ?」
「少し違いますが、大体その認識で合っています」
えー、なに?
夢にまでゲームの設定が出てきてんの?
やばいな。ゲーマーの末期症状か?
「ちなみにこれは夢ではありません。
マスターも先ほど確認したはずです」
うん。現実逃避してました。
さすがはアイリス。伊達に長い付き合いじゃないな。
「俺って確かゲームの更新時間まで寝るはずだったよな?」
「……すみませんマスター。
更新してからというのは嘘です」
え?嘘?
アイリスの言葉に俺は驚く。
「どういうこと?」
この状況。俺が神域というところにいる理由を訊くためにアイリスへと訊ねる。
「それは儂が答えるで」
が、それに応えた声はアイリスのものではない。
女の声が俺の後ろから響く。
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