EpisodeⅠ-Ⅷ
あれからさらに三日が経った。
商人との交渉から合計で五日経っているから、期限までは残り二日。
けれど、一昨日ぐらいからモンスターがほとんど見つからないという状況に俺達は陥っていた。
見つかったとしても二、三体ぐらいが関の山で、もちろんドロップアイテムも少なく、金がぜんぜん貯まりそうにない。
機動力を上げるために俺は魔人種へと種族を変更して、カラスの様な黒い翼が背中から生えている。
久我一季(クガイツキ)
魔人種・有翼族
職業・魔王 Lv1
スキル・魔王の覇道
魔人種の全ての職業のスキルを使える(装備により一部のスキルは使えない)
体力・筋力・魔力大上昇 対象・パーティ全体
これが今の俺のステータスだ。
勇者に倒されてしまいそうな職業だが仕方ない。
大が付かなかっただけマシだと思おう。
アイリスを抱えながら森の気よりも少し高いぐらいのところを飛んでいけば、歩くよりは速く動けるのだが、成果はなし。
それにしてもアイリスは軽いなあ。
「この辺でいいか?」
「はい。もう一度探ってみます」
そう言って手近な森の開けた場所へと降りる。
「…………ダメですね。モンスターの気配が全くしません」
目をつぶりながらピクピクとキツネ耳を細かく動かして、辺りの音からモンスターを探知しようとしていたアイリスだが、今回も不発だったようだ。
「この森はゴブリンしかいないんだったよな?」
「はい。スライムもこの森にはいません。ゴブリン達が捕食してしまうので」
そう。モンスター同士もこの世界では捕食し合うのだ。
モンスターは自然の魔力が集まって形成したものだと言うのは前に言ったと思うが、モンスターが人や農産物など襲ったり奪ったりするのは、なんでも魔力を求めているからなのだそうだ。
魔力が集まって命を得たモンスターは生きているだけでも魔力を消費する。
そうするとその分だけ魔力を補給しなければいけなくなる。当たり前だ。人間だって生きてるだけでエネルギーを消費する。
魔力は生き物すべてに宿っており、そこら辺の雑草だって魔力を少なからず持っている。
魔法を発動するのには関係ないが、魔力は数種類あり、動物性や植物性なんかがいい例だ。
主にゲームでノンアクティブなんて言われるモンスターは植物性の魔力を好み。アクティブと呼ばれるモンスターは動物性の魔力を好む。まあ、例外もあるが。
そんでもって人間も動物性の魔力を多く保有し、魔力が集まって生まれたモンスターもまた、同じく動物性の魔力を多く持っているのだ。
モンスターの世界は弱肉強食。強きものが弱きものを食らう。
この森ではゴブリン達が強く、スライムはゴブリンの捕食対象になるほど弱い。というか、あんなゼリー状のもの美味いのかね?
先にも言った通りこの森にはゴブリン一種だけだが、力の拮抗しているモンスター同士ならば同じエリアに出現することもある。とのこと。
いやー、設定細かいね神様。
「……それにしてもおかしいな」
「マスターもそう思いますか?」
「アイリスもか?」
「はい」
ゴブリン達はわずかにだが知性があるモンスターだ。
それは実際に確認した。
ゴブリンは何体かでパーティを組み、棍棒や石などを削ったナイフを持っていたり、前衛や後衛。陽動なども仕掛けてきた。
それが、ここ数日姿を見せないとなれば何か大掛かりな罠のようなものを仕掛けていてもおかしくはない。
「ゴブリンの奴ら何か企んでるのかな」
「分かりません。けれど、用心に越したことはないと思います。いざとなったら狩場を変えることも検討しなければいけません」
「そうだよなあ……」
少しずつ慣れては来ているものの、まだまだ駆け出しといったレベルの俺じゃあ他の狩場でうまくやれるか分からない。
できればもう少し基礎をゴブリン相手に練習したい。
今日のところは依頼の達成に必要だった数のゴブリンをやっとのこと見つけて屠った。
「やっぱり厳しいか……」
日も暮れて、宿屋に戻り、今日の分の報酬を確認して独りごちる。
現在の所持金は金貨16枚ほど。ギルドに預けているのでカード裏に記入された数字を見た。
依頼の報酬で少しは稼げているものの、やはりドロップアイテムからの収入がないのは辛い。
ゴブリンのドロップアイテムは奴らが持っている棍棒や小さいナイフ、薬草などだが、薬草は必要な分だけを残して他全てを売っていたのでそれなりに稼げたのだ。
元からギリギリ期限内に届くか届かないかの範囲だったが、戦闘の減少によって絶望的になってきている。
「なんか稼げる依頼ないかなあ……」
ちなみにアイリスは宿屋の近くにある共同浴場。つまりは銭湯のような場所へと行っている。
この世界では風呂と言うのは一般家庭にはあまりないらしく。街にもよるが、昔は魔法職だった人達が格安で銭湯を経営しているのだ。
何故魔法職かと言うと火属性の魔法で水を温めた方が効率がいいからだそうな。
ご高齢の方たちばかりなので、加減を間違えて時々お湯が熱くなりすぎる事があるそうだが、同じく入浴するご高齢の方はそれぐらいがちょうどいいんだとか。
茹であがるのだけは無いことを祈りたい。
まあ、アイリスは熱いのでも平気と言っていたから大丈夫みたいだ。
「ただ今戻りました」
と、噂をすれば影と言うのか、いや、この場合は考えたら影か?
アイリスが戻ってきた。
「どうだった?」
「今日もいい湯加減でしたよマスター」
「そうか、それはよかった」
うん。外を歩いたとはいえ、それほどの距離はないのでいまだに湯上りの上気する肌がやけに色っぽい。
あるのかは分からないが、いずれ浴衣を着せてみたいものだ。
「マスターは入られないのですか?」
「うん。今の時間は混んでるからね」
主に仕事で汗をかいた筋肉隆々のおっさんたちで。
だから俺は大体朝方に共同浴場へと行く。
早起きのお爺ちゃんたちに感謝だ。
まあ、その時はアイリスも入口までは一緒。
夜中に汗やらを思いっきりかくし、アイリスは朝も風呂に入るのだ。
「……えっと、今日もお願いします……」
「ああ……こちらこそ……」
頬を赤らめたアイリスとベッドに入る。
今夜も大量に汗をかきそうだ。




