EpisodeⅠ-Ⅶ
依頼の完了報告をし、宿屋に戻った俺とアイリスだが、あの奴隷商人との交渉のあとからアイリスがご機嫌斜めだ。
「あ、あのさ、アイリス。さっきの事なんだけど……その、悪かった」
「私もすみませんでした……」
意を決して謝ってみたのだが、同時にアイリスからも謝られてしまった。
「……なんでアイリスが謝るんだ?」
「私はマスターの奴隷という立場なのに、マスターに対して失礼な態度を取ってしまいました」
少し不機嫌だったことか。
「いや、別にそれは俺が悪かったんだし。さっきは見るだけって言ったのに結局商人の口車に乗せられてさ」
「……それに、あの方がマスターの奴隷になったら私の居場所がなくなってしまうのかと思ってしまって……」
不安もあったのか。
アイリスの言葉に俺は思わず頬を緩めてしまう。
「大丈夫だ。俺とアイリスの付き合いは三年もあるんだぞ?そんなことで俺はアイリスを捨てたりしないし、俺の方こそアイリスがいなくなったら困る」
「マスター……」
「絶対に俺はアイリスを捨てない。嫌いになったりもしないし、どうしても嫌だと言うのならさっきの話は無かったことにしてもらってくる」
商人には悪いことをしてしまうが、アイリスが嫌だと言うなら諦めよう。
ハーレムも諦めるしかない。
戦力の問題だって引きこもりだった奴の対人能力でどこまでやれるかは分からないが、他の冒険者たちと一緒に依頼をこなせばいい。
「いえ……大丈夫です。ありがとうございます。マスター」
うん。不安にさせた分今夜は思いっきり可愛がってあげよう。
俺の決意を知ってか知らずか、アイリスもその夜はいつもより積極的だった。
森の開けた場所。
そこに俺は一人で立っていた。
近くでは茂みが風に揺れる音や鳥の鳴き声が聞こえる。
その中に明らかにこちらへと向かってくる集団の足音も、獣人種になって強化された俺の聴覚にははっきりと聞こえてくる。
もうそろそろ時間か。
俺は種族を人間種に変更して頭に思い浮かんだ呪文を紡ぐ。
「我が行く手を阻みし敵に火の手を……」
「マスター!連れてきました!六体です」
茂みから飛び出したアイリスの報告を確認する。
六体。結構多いけど、まあ、大丈夫だろう。
手に持っていた剣の切っ先をアイリスから一足遅れて出てきた先頭のゴブリン三体へと向ける。
「ファイアーボール!」
轟と音を立てて飛んでいく火球。
初歩魔法であるファイアーボールは二体を屠ったが、一体は倒しきれなかったようだ。
「ちょいと弱いか」
「ハッ――!」
と、威力の低さにぼやいていたら、その一体をアイリスの剣が一閃し、とどめを刺した。
そのままアイリスは止まらずに残りの後列にいた三体へと迫る。
俺も杖を剣に持ち替えてゴブリンの一体へと駆け寄る。
敵に近づいても速度は緩めずに剣を身体の横に構えて力を籠め――一閃。
そのままゴブリンは倒れて消えた。
アイリスの方を見るとすでに他の二体も屠った後だった。
「うーん。やっぱりアイリスは強いな」
「そうですか?」
「そりゃ、俺が一匹仕留める間に二匹仕留めてんだからそうだろう」
やっぱり俺よりもアイリスの方が動きが巧みで速いからなんだろう。
俺もアイリスから体術を教えてもらって少しはマシになっているがまだまだだ。
「マスターだって十分お強いですよ」
「でも、それはほとんど職業の補正だからなあ」
ステータス上昇があっても、もう少し強い相手なら多分かなり手こずるだろう。
「今日の特訓はいつもより多めにしますか?」
「そうだなあ。これからはもっと特訓の時間を増やした方がいいかもしれない」
幾度かの戦闘で検証したのとアイリスの証言で、この世界の攻撃スキルは使ったら使った分だけ強くなるようだ。
例えばさっき使ったファイアーボール。
あれも最初はゴブリン一体ぐらいしか倒せなかったのだが、使っているうちにどんどん強くなっていくのが分かる。
練習を重ねれば、それだけ強くなると言うこと。
ゲームで言えばスキルの修練値を上げると言うことだろう。
「グッ……ガァッ……!」
今度は七体いたゴブリンをファイアーボールで二体、アイリスが剣で四体の俺が最後に単発剣技スキルであるスラッシュで仕留める。
剣技スキルはうまく予備動作をしないと発動しないから難しい。
これも体術と一緒に練習で体に覚えこませるしかない。
久我一季
人間種
職業・英雄王 Lv3
おっ。試しに鑑定を使ってみたらレベルが上がってる。
アイリス
獣人種・フォ族
血統・銀狐
職業・近接 Lv6
アイリスのステータスもついでに見てみたがさっきより上がっていた。
やっぱり俺の職業は普通のよりも要求経験値が多いらしい。
金はゴブリン達のドロップアイテムを見る限りまずまずな結果だ。
奴隷商人との交渉からすでに二日が経っているからぎりぎり間に合うか間に合わないかと言ったぐらい。
「他の種族も試してみたいけど、時間がちょっと少ないかもしれないからやめといたほうがいいか」
「そうですね。マスター」
とりあえず今日はここまで。
転移と念じて世界地図から場所を指定。
場所はクレイ周辺の街道っと。
先日は気付かなかったが、冒険者ギルドには魔法職の冒険者が使える転移の劣化版といったテレポート用の転移場所がある。
だが、それは使えない。
何故なら、俺はすでに表向きとはいえ近接職でギルドに登録しているのだ。
魔法職も連れずにそこへ転移したら目を付けられる恐れがある。
故に一旦街道へと転移してそこから街へと走るのだ。
歩くのではない走るのだ。
なんでもアイリスが言うには足腰の筋トレとか。
多少は舗装されてるとはいえ結構でこぼこなんだよなあ、あの道。




