EpisodeⅠ-Ⅵ
「ん……?あれは……」
ギルドで受けた依頼のゴブリンを近くの森で規定数倒した俺達は、街に戻ってきた。
ついでに身体が悲鳴を上げるくらいまでアイリスとの特訓もしたが、回復薬を飲んだら回復したので問題なし。
アイリス、せめて回復薬を飲みながら特訓してくれ……。
「どうしました?マスター」
「いや、あれは何かなって」
目の前にある人だかり、結構な人数がいるようでその中心は見えない。
「奴隷商人の様ですね、周りの人がそう言っています」
可愛いキツネ耳をピクピクとさせながらそう言うアイリス。
獣人種は耳や鼻がとってもよく利き、モンスターを探すのにも重宝している。
それにしても、この喧騒の中でも内容を聞き分けるとは恐れ入った。
「奴隷商人?」
「はい。定期的に露店もやっている商人の様です。今日はたまたまその日だとか」
奴隷か。
神様の言葉が頭の中に蘇る。
……いかんいかん。俺にはもう、アイリスがいる。
けれど、見ていくだけなら……いいよな?
「何人くらいいるんだ?」
「興味があるんですか?」
「い、いや、まあ」
うーん。アイリスの目がちょっと怖い。
「今はまだ大丈夫だろうけれど、仲間は多いほうがいいだろ?」
「そうですが……」
というか、女の子の奴隷という前提ですか。
まあ、前の世界で集めていた秘蔵の画像集は即アイリスに見つかったから疑うのも無理じゃないんだけど……。信用はないのかなあ。
「今回は見るだけ。それに今夜も、その……な……?」
「……はい……」
うん。やっぱり照れてるアイリスは可愛いな。
恥ずかしげに伏せてるキツネ耳もチャーミングだ。
よし。早く見て、早く帰ろう。
人ごみをかき分けて前の方へと出る。
そこにはアイリスの言った通り、奴隷商人と思われる男と鎖に繋がれた数人の男女がいた。
「ん……?」
ふと、目に入った白い翼。あれは……。
「お、兄ちゃんお目が高いねえ。あれは今日の目玉商品の天人種の女だってよ」
人ごみの中にいたおっさんが話しかけてくる。
「あれが天人種……」
「なんだ兄ちゃん。天人種を見るのは初めてかい?まあ、俺もそうなんだがあれは結構いい商品だねえ。金さえあって嫁さんがいなければ俺が買いたいくらいだ」
がはは、と豪快に笑うおっさんは冷やかしに来ただけの様だ。
うん。まあ、男としてそう言う気持ちは分かる。
一言で言うと彼女は天使……いや、女神か?
天人種なんだから当たり前だが、その言葉がぴたりとはまるような容姿をしている。
アイリスもスラリとしていて、出ているところは出ているメリハリボディなのだが、彼女はなんというかアイリスよりもありそうだ。主に胸囲が。
顔も綺麗で整っており美人。
みすぼらしい服を着ていても彼女と一緒に見ると、それが一級品のように思えてくる。
「すごいですね。あの方」
アイリスまでもが彼女のことを褒めている。
「いくらくらいなんだろうな」
「あの奴隷は金貨40枚だってよ」
まだいたのかおっさん。
それにしても、金貨40枚か……全然足りないな。
「兄ちゃんも好きだねえ。そんな可愛い子がもういるのにあの奴隷を買おうとするなんて」
うるさい、おっさん。その顔やめろし。
あ、アイリスもそんな顔でみないで……怖いから。
「そこのお方、どうです?今ならこの天人種の奴隷を金貨35枚で売りますが」
と、そんなことをしていたら奴隷商人が俺達の方へと近づいてきた。
「おい、あんた。さっきは40枚って言ってたじゃねえか。あれは嘘かよ」
「少々見積もりを高くし過ぎたようでしてね。誰も買ってくれないんですよ。それにそこの冒険者さんは立派な奴隷を連れていらっしゃる。いい商売になると思いましてね」
なるほど。この商人なかなかやるようだ。
「なんで俺が冒険者だと?」
「いえね。うちと冒険者ギルドとは懇意にさせてもらってましてね。今日登録した冒険者さんの情報も入ってきてるんですよ」
この世界では個人情報は保護されないのか?
「マスター。その情報は商人がお金を払って手に入れたものです」
「正当だと?」
「はい」
そういうもんなのか。
「新しい冒険者さんには新しいお仲間が必要でしょう。彼女は名前をリリーと申しまして、魔法に秀でておりますのでお役にたちますよ」
リリー。百合の事か。
確かに百合のように白い翼にはその名前はぴったりだ。
しかも、魔法職か。
リリー
天人種
職業・魔法 Lv7
特殊アビリティ
天界の光
効果
光属性の魔法の威力増強・闇属性耐性弱化
彼女を見ていたらステータスも出てきた。
商人の言う通りらしい。
レベルは魔法職の7か。アイリスよりも高い。
「どうです?お気に召しましたか?」
「いや、まあ、気になるけど値段がなあ」
「そうですか……」
商人も残念そうにしているが、それだけは現実的に無理なのだ。
「せめてもう少し安ければな……」
「それなら……ここだけの話。金貨25枚でどうでしょう?」
途中から小声で耳打ちしてくる商人。
どうしてそんなに値切ってくれるのか。
「どうしてそんなに俺に?」
「言ったじゃないですか。あなたとはいい商売になると思いましてね。今後ともご贔屓にされるよう初回特別サービスでございます」
ふむ。商人の顔を見るに嘘は言ってないだろうが、どうしよう?
金貨25枚。まだ多いな。
ここ数日の戦闘で得たドロップアイテムなどを含めると所持金は金貨10枚。
それはこの街までくる途中の森でかなりの数の戦闘をしたからなんだが、あそこに行って稼げばいけるか?
「これ以上は引けませんが……そうですね。さらに特別です。一週間は他の方に売らずにお待ちしております」
一週間。それだけあれば何とかなるだろう。
「OK。それで乗った」
「ありがとうございます」
「おい商人。贔屓が過ぎんだろうが!」
「あんたッ!やっと見つけたよ!こんなところで油売ってないでさっさと働きい!」
「か、母ちゃん……!」
俺達の交渉に異議を申し立てたおっさんは、そのせいで奥さんに見つかり連行されていった。
仕事中に来るなよ。
ともあれ、俺達はそれでその場を後にした。




