EpisodeⅠ
俺、久我一季は今年で高校二年になるはずだ。
はずだ、というのは現在俺は引きこもりの真っ最中。
中学から続いていたイジメが高校に入ってもずっと後を追いかけてきていたのだ。
だが、それも今年の新年を迎えるころには我慢をしなくてもよくなった。
決してイジメがなくなったわけでは無い。
先にも言った通り、引きこもりになったのだ。
理由は簡単。両親が五か月ほど前に事故に遭って他界したのだ。
父方の実家へと帰省していた両親は、帰りの道で交通事故に遭い二人そろって逝ってしまった。
幸いにも保険は俺が生きていくには十分にあったし、保護者代理となった父親の弟である叔父さんは、ひどい話だが俺には全く興味を示さず完全な放任だ。
けれど、そんな待遇にはすでに学校で慣れていたし、俺にとっては都合がよかった。
全く持って親不孝なことだが、おかげで俺は自由な引きこもり生活を手に入れた。
イジメが横行する学校にも登校せずに日夜、PCの前にべったりとしている。
何をしているかというと、俺が両親とともに事故に遭わなかった理由がこれにある。
ファンタジーMMOゲーム<ユースガイア>
――三年前――
当時ふと目に入ったβテスター募集の広告に興味を抱き、すぐさま登録申請を出した。
結果は見事当選。テスター用のクライアントも配布日に即ダウンロード。
初めてログインしたその日に俺は、その世界に引き込まれた。
圧倒的なまでのクオリティがそのゲームの売りだ。
かなりグラフィックなどに拘っているはずなのに処理落ちなどの不具合が全くと言っていいほど出なかった。
それ以来オンラインゲームは<ユースガイア>一本に絞り、他のゲームはすべて切った。
学校でイジメを耐え抜き、家に帰ると即ログインした。
その甲斐あってか、公式オープンしてから半年で最強と言われるまでのトッププレイヤーまで上り詰めた。
けれど、このゲームでも俺は一人。最初の方は仲間もいたのだが、いつの間にか俺からみんなが離れていく。
なんでそうなったのかはいまだに分からない。呪われているのか、ただ単に対人能力が低すぎるのか。
けれども俺はめげずに一人で頑張った。学校でイジメられても耐え抜いた。
「それ」に気付いたのは最初の職業がカンストまでいき、何か適当なクエストでもないかと各地の街を彷徨っていた時だった。
当時のアバターは人間種の近接職。
その街は人間種の首都である<ジパング>の教会。
クエスト名は<転生の儀>。
今まで一度たりとも見たことがないクエストだった。
試しに受注したら意外なことに簡単な納品クエスト。
内容は店売りしているなかで最も性能の良い武器の納品。
種類で言うと片手銃・杖・教典のどれか一つを納品すればいいだけの話だ。
早速、片手銃を買ったらいきなり今まで見たことも訊いたこともないエリアに飛ばされた。
<転生の間>
なんともまあ、クエスト名とともにそのまんまなネーミングだったなあと今は思う。
そこはどこかの祭壇の様なエリアで、他のプレイヤーは誰一人としていなかった。
とりあえず、購入した片手銃を祭壇の上にドロップしてみるとそれは起こった。
俺の使用しているアバターが光のエフェクトに包まれたのだ。
エフェクトが収まると同時に姿を現したのは装備していた防具がすべて外れた状態のアバター。
特徴のないインナーは装備をしていないことを示す。
不思議に思いながらも所持アイテム欄を見ると案の定。装備はすべてインベトリへと入っていた。
胴装備にカーソルを合わせてクリック。そうすればその装備品を装備できる――はずだった。
『現在のレベルでは装備できません』
『現在の職業では装備できません』
は?
チャット欄に表示されたシステムの二つのメッセージに俺は目を点にした。
装備できない?
そんなことは無いはずだ。
確かに先日、俺はこのアバターをカンストまで上げたはずだし。
それに、現在の職業では装備できない?
一体どういうことなんだ?
と、思ったところに一通のメールが届いた。
確かめてみるとそれの差出人は運営からだった。
<件名>『初の転生者』様へ
<内容>
『おめでとうございます。貴方は<ユースガイア>おいて初の転生者となりました。
今回転生していただいたのは人間種・遠距離物理職でございます。
ささやかではありますがこの転生を記念して遠距離物理職のグレードE装備一式、パッシブスキル<転生者の知恵>、サポートキャラ、をお送りいたします。
サポートキャラについてはインベトリから<使用する>を選択した後の説明をご覧ください。
それでは今後もファンタジーMMOゲーム<ユースガイア>をお楽しみくださいませ。
――貴方が神の職業へと至ることを願って――』
そんなことがメールには書かれていた。
つまりそう言うこと?
<転生の儀>というクエストは文字通りアバターを転生させて新しい職業にし直すこと?
それなら装備品が装備できないことも納得できる。
転生ということは99あったレベルが今は初期の1。それも職業すら違うときた。
装備できなくて当たり前だ。
最後の方に書かれていた『――貴方が神の職業へと至ることを願って――』と言う一文はなんだかわからないが、多分運営の決まり文句みたいなものだろう。
俺はメールに付属されているアイテムを見る。
ゲーム内のメールにはアイテムを付け加えることはできるが、それはあくまで回復薬などの小物だけ。
装備品は付け加えることはできないはずなのだが、そこは運営だからということで納得した。
装備品のグレードはEで、レベル1~19の中では一番性能が高いものだった。
このグレードというものは装備品などについているレベル規制で最低ランクのEから順に、D・C・B・A・AA、という六段階表記だ。
細かく言えばスキル付きはその横にスキルの数だけ+が付き、スキルではない特殊能力が付く場合はSが付くようになっている。
パッシブスキル<転生者の知恵>というものもステータスを開いて見てみたが、どうやら経験値二倍・プレイヤーの受ける状態異常確率&効果時間減少・商売繁盛・レアアイテムドロップ率上昇。というものだった。
効果時間はもちろん永続。チートだ。
残りの一つはサポートキャラ。
インベトリでカーソルを合わせ説明を見てみるが、どうやら最新式のAIで名前の通りプレイヤーのサポートをしてくれるようだ。
種族はプレイヤーが最初に選択できるものと、モンスターから一つだけ選べて、転生はできないようだ。
どうしようかと悩みぬいた末に獣人種の近接職に決定した。
性別はもちろん女。だって女の子の獣耳とかよくね?
まあ、サポートキャラの容姿はランダムだけど……。
名前は少し考えて頭に浮かんできたアイリスという名前にした。確かアヤメの英名のはずだ。
年齢設定というものまである。うーん……俺より一つ下にしとくか。
すでに誕生日は過ぎて14だから13っと。
残りの項目は部族について。
獣人種はこのゲームでは竜人や魚人と一括りにされていてそれぞれに部族名がある。
とりあえず竜人の部族と魚人の部族をチェックから外しておく。
魚人の女の子だったら人魚と言う可能性もあるが、とりあえず人魚は近接職に向かないと言うことなので外した。
後は決定ボタンをクリックするだけだ。
さてさて、どんなキャラの子が来るのやら……
一抹の不安を感じながら俺はマウスをクリックする。
カチッとな
設定を読み込み、容姿や性格をランダムに選ぶためか『少しの間お待ちください』というメッセージが流れている。
数時間にも思える数秒間。何故こんなに緊張しているのか自分でも分からない。
ようやく『完了しました。決定を押してください』というポップアイコンが出てきた。
じっくりとカーソルを合わせ、深呼吸をしながらクリックする。
画面に出てきたのは可憐な獣耳の少女。
さらに画面の端へとウィンドウが開いて、少女の顔をアップにする。
その瞳は閉じられているが、それ故に神秘的な要素を少女に与える。
綺麗と言うよりは可愛いだろうか?
どの部族かは分からないが、髪の色と同じ、ピンと立った銀色の耳が余計に可愛さを増している。
顔立ちはまだ幼さを残していて、それも少女の可愛さを引き立てる。
そして、このゲームの人気の理由の一つ。まるで現実のようなグラフィックが、一本一本、銀糸のごとく細い髪や、長いまつ毛をはっきりと画面に映す。
見れば見るほどに目を離せなくなる。
そんな少女に見惚れていると、不意に少女の目がピクリと震えた。
そしてそのままゆっくりと少女は目を開けていく。
まずは寝ぼけたようにきょとんとした顔、大人びた顔でそんな表情をするとやけに可愛く見える。
今度は辺りを確かめるようにきょろきょろ。
その途中でハッとしたように正面を見る。
僅かにその顔が赤くなった。
慌てて少女は頭を下げて――
「は、初めまして! マスター!」
誤字・脱字・内容の矛盾・感想など、どんどんお待ちしています。
年齢に矛盾があったので17→14、16→13に変更しました。