仄暗い檻の中の出会いと幼馴染1
てなわけで牢屋にやって来ました。
そこにいたのは何人もの貴族の子供と第二王子&王女、そしてそいつらに囲まれ、泣きながらボロボロの女の子を抱き抱えている第一王女。
「リオール卿、今日の催しというのはもしや…」
「気付いたかね、そう的当てだ。君たちも魔術を覚え出しているが、動かない的や獣相手では退屈だろう?
だからこうして生きたヒト型の的を提供したのだよ」
「その的というのはあの第一王女に抱き抱えられている女の子ですね。そして奴隷として売却を検討しているのも」
「ああ、そうだ、君も参加するかね?」
「いえ、その前に品定めをさせていただきます」
そう言うとオッサンから離れ、第一王女のもとへ歩き出す。
…離れたはずだがオッサンもついて来てる……査定が気になるのか?
まぁいいか、とりあえず、第二王子&王女に軽く挨拶しておくこう。
「これはガラハド様にエリス様、あなた方もいらっしゃったのですね」
第二王子がガラハドで、第二王女がエリス。
聖杯の騎士とギリシャ神話の女神と同じ名前……といえば聞えがいいかも知れないが俺はどちらもいい印象は持ってない。
女神エリスは不和の女神でトロイア戦争の原因だし。
ガラハドはランスロットの息子で最も偉大な騎士と言われ、聖杯を見つけ出すが、俺がガラハドと言われて真っ先に思い浮かぶのはアーサー王のガラハドではなく、アイスソードのガラハドだからだ。
……理由はガラハゲでググればわかると思う。
動画のガラハゲは笑えすぎる。
ガラハドは地球で言う赤毛のオールバック……将来禿げないことを切に願う。
今の段階でも油断するとうっかり笑いそうになっちまうからな……しかも氷属性だからさらに将来が不安だ。
第二王女のエリスは金髪の巻き毛で勇者(笑)の取り巻きにいそうな感じの女なんだよな…。
困ったことにこの国には勇者召喚の儀ってが伝わっていて王城の地下にその魔法陣があったりする。
召喚適性があるのは『王家の清らかなる乙女』ってことらしい。この所為で代々王女は嫁き遅れが多いらしいが…。
最近、南の大陸の政情が不安定だし天界や魔界もキナ臭くなってるから勇者(笑)を召喚するような事態にならないといいが…。
「ぼくたちはおじさまにしょーたいされて来たんだ。あの『けがれたち』って生き物にまじゅつをぶつけて遊んでたんだ」
「でも、ねーさまがジャマするのよ、ひどいでしょ」
…どっちかと言うとお前らの方がひどいんだけどな。
「あさ見かけたからついでにつれてきたけど、つれて来るんじゃなかったなぁ~。
おまえは何しにきたんだ?」
「ぼくも招待されてきたのですよ」
大人の前では一人称は私だが同年代のガキの前ではぼく、理由はその方が○フォイっぽいから。
「ふーん、でも遅かったな、ぼくたちのまじゅつで、もうあいつ死ぬところだぞ」
「ねーさまがいっしょうけんめいなおしてるけど、むだよね~」
相変わらず言葉の端々に第一王女を見下してる感があるな……本人たちは無意識なんだろうけど…。
コイツらはもう諦めた方が良さそうだな、嫌々とか周囲に流されてとかならともかく、嬉々として的当てに参加してやがったみたいだし。死にかけても気にも止めてない。
周りを見ると何人かは反省してたり、そもそも参加してないやつもいるみたいだが、ほとんどはもう終わりかよ、とか女第一王女邪魔、って感じだ。
はぁ、コイツらも腐れ貴族確定だな。
「そうですか、それは残念、それではぼくは別に用事があるので失礼します」
腐れ王子とゲロ王女との会話をとっとと切り上げて再び第一王女の方へ歩き出す。
さて、目の前には第一王女が居るわけだが……治癒魔術に夢中で俺に気付いてない。
治癒されてる女の子はこっちに気付いているのに。
ん~?こいつホントに同い年か?王女に抱き抱えられてるから詳しくは分からないけど明らかに小さい、身長が俺の肩にも届いてないっぽいぞ。
俺の身長は特別高いわけでもないし、五歳くらいだと男女に身長差もないはずなのに。
着ている服……って言うかボロ布もだいぶサイズが大きくブカブカでピンク色のナニかが見えてる。
……別に幼女の胸に興奮なんてしてませんよ。
いや、まぁ冗談抜きでしてない。あんな傷だらけで軽く抉れてる(貧乳という意味ではない)胸では興奮できないわ。
……ピンクのナニかや傷が見えてるってことはこの薄暗さに目が慣れてきたみたいだな。
改めて女の子を見てみる。
髪はボサボサで全身傷だらけで薄汚れてる……傷や汚れのない場所なんてないんじゃないかって思えるほどに。
これだけでこの娘がどんな扱いを受けてきたか想像するのは難しくない。
髪の色は黒、瞳は……よくわからないな。薄暗さには慣れたが、肝心の目がほとんど開いてないので判別できない。
そして白い獣耳と尻尾が生えている……尻尾が長くて細いから猫の獣人かな?
黒髪なのに獣の部分の体毛は白か…。通常、獣人の体毛は一部の例外を除けば髪の毛と同系統の色がベースとなっていて、猫はその一部の例外には含まれない。
黒と白、これほど分かりやすい真逆の色なんて普通はあり得ないが、この色のアンバランスがこの娘の第一世代亜人としての歪みなのだろう…。
体毛の色がアンバランスなのは歪さで言うならかなり軽い。
歪みのほとんどが生活に支障をきたすレベルだし、支障をきたさないものでも身体の一部だけ毛だらけだったり、常時鳥肌だったりと地味に嫌なものばかりだからだ。
しかも配色自体はおかしなものではないので、言われないと第一世代の獣人とは気付かれないんじゃないか?
ちなみにおかしな配色ではラメ入りとか、ドブみたいな色などが確認されている。
ふむ、これなら成長不良と差し引いても相場より高めの値段で買い取らないと……そういや付加価値がつくんだったな。
確か手足を切り落としてもまた生えてきたとか、飯を食べなくても生きているとか。
その辺りはどうやって確かめるか…パパンが言いくるめられなかったから適当に流すこともできないっぽいし。
オッサン自信満々でアピってたもんな…。
もうちょい詳しく確かめようにも第一王女ががっちり抱き抱えているから無理……って退いてもらえばいいか。
「これはこれはサティア様、貴女もいらっしゃったのですね」
とりあえずこっち気付いてない第一王女、サティア・クァン・アストライアに声をかける。
「あ、あなたは……今は邪魔をしないでください!
この娘が今にも死にそうなんですから!」
……声をかけただけでこの反応はひどくない?
俺どんだけ嫌われてんだよ……敬語対応も地味に傷つく。
言葉の最中も必死に魔術をかけ続けるが、先ほどよりも魔術の光が弱くなっている。
おそらく魔力が尽きかけているいるのだろう。
治癒魔術は難易度高めで魔力消費が激しく、まだ子供なサティアは魔力は少ないし魔力制御も拙い。
魔力に長けたエルフの血を引いていなくては制御力も魔力量も足りずに治癒魔術の発動すらしなかっただろう。
今もなお弱々しいとはいえ発動し続けているのが不思議なくらいだが、それもここまでのようだ。
「いや、だめ……待って!まだ消えないで……」
サティアの必死の懇願もむなしく魔術光は消えてしまった。
「いや、いやぁぁぁああ!!!」
サティアは悲痛な声をあげる………けど、何でもう死んだみたいなリアクションなん?
まだ生きてますよ、その子……と言うか、死にかけてすらない。
確かに全身ボロボロで傷だらけだけど、傷はどれも浅く命にかかわるような怪我ではない。結構な血が流れてるから失血死ならあるかもしれないけど、それは詠唱魔術ではどうにもできないしな
「僕がなんとかしましょうか?」
泣きじゃくるサティアに声をかける。
サティアは普段はわりかし気が強いから正直見てらんないんだよな…。
「グスッ……何とか…できるの?」
ゴフッ
美幼女エルフの涙目上目遣いは反則だろ、思わず赤い忠誠心や吐血を吹き出しかけたわ!
「…えぇ、ぼくはその子を買い取りに来たので、ぼくとしてもその子に死なれると困ってしまいますしね」
「ヒック…最低です!」
自分でも最低発言してる自覚はあるけど今回はちゃんと買い取りのために傷を癒したって言い訳が必要なんだよな…。
「…そもそも…あなたに……けがを…治せるの……?」
この世界の魔術では光と水の属性が治癒魔術の適性が高く、サティアがさっき使っていた治癒魔術は光属性。
ハーフエルフで魔術適性がヒト族より高い自覚があるサティアが自分の光の治癒魔術で治せなかったのに、ヒト族の俺が治せるのか疑問を持つのは当然だろう。
……五歳児の思考では当然じゃないような気もするが……種族の違いとか奴隷とか普通五歳くらいじゃ理解できないよな。
「ぼくには無理ですね。
ぼくの属性は大嵐、水の魔力も含まれるので治癒魔術を使えないこともないですがあまり向いてません」
実際には魔属性だから十分治癒できるけどな。
「…な、なら…」
「しかしこれがあります」
サティアが何か文句を言ってこようとしたが、それを遮り懐から容量50ccほどの小瓶を取り出す。
「そ、それは?」
「治癒の魔法薬ですよ」
異常魔力で奴隷として売られて来る子供は大抵虐待されてボロボロなので一応持って来ていたけど正解だったな。
この魔法薬が買い取りに来たと言い訳しないといけない理由だったりする。
魔法薬は基本的に高い。
この魔法薬はお値段なんと小金貨3枚、日本円に直すと約3万します。
しかもこの値段、魔法薬では中の下程度だったりする。
ちなみに通貨は
小銅貨1枚1円
小銅貨10枚(10円)=大銅貨1枚
大銅貨10枚(100円)=小銀貨1枚
小銀貨10枚(1000円)=大銀貨1枚
大銀貨10枚(10000円)=小金貨1枚
小金貨10枚(100000円)=大金貨1枚
つまり小貨10枚で大貨1枚で板は大貨5枚分の価値がある。
銅板=50円、銀板=5000円で金板=50万円
な感じ。
この魔法薬の効能は傷の治療と造血、それにわずかだが体力と魔力の回復。このうち造血と体力回復は詠唱魔術では不可能とされている。……実はできないこともないけど。
ぶっちゃけ魔術での治療は治療されている本人の体力やら魔力を消費するので、この手の魔法薬は治療に際して必須アイテムだったりする。
そしてその体力や魔力を回復させる効能がかなり値段が掛かる……具体的には値段の3/4がこの効能に掛かっている。
なぜなら材料費はそれなりだが、材料のほとんどが毒物なので調合が難しいからだ。失敗して命に関わる毒が完成してしまうことも珍しくない。
ちなみに材料の毒物の毒性が強ければ強いほど回復の効能も強くなる傾向がある。
「おい、大丈夫か?」
とりあえず意識を確認する。さっきまで視線を感じていたから大丈夫だとは思うが…。
「……あ…なた…が…私の…王子……さま…?」
王子?それはあっちにいるが?
……いや、私のって頭についてたから比喩表現か…。ってことは危ないところを助けに来た『白馬の王子さま』って意味かな。
「まぁ、似たようなもんだ…」
助けに来たことに違いはないからとりあえずうなずいておく。…何気に優先度は高くないけど王位継承権があるから王子というのもあながち間違ってないし。
ちなみにサティアよりも継承順が上だったりする辺り、サティアの宮中での冷遇具合がよくわかる…。
まぁ、これはサティアがハーフエルフってこと以外にも理由があるんだけど…。
まぁ、貴族社会のあれこれはどうでもいいので置いといて。(ノ-ω-)ノ =□
「さぁ、これを飲め」
「…こ…れは……?」
「治癒の魔法薬だ、飲めば傷が治るぞ?」
薬を渡そうとするが。
「……い………いや……」
はい?何で拒否るの?
「…あ…なた私の王子さま…なら……」ガシッ
声を出すのすらやっとなくらい衰弱し、眼をほとんど開けないくらい力なく倒れていた女の子が……
体を起こして
俺の肩に掴みかかり
キスできそうなくらい顔を近づけ
先ほどまでほとんど閉じていた瞼を大きく開き、その蒼い瞳で見つめながら
「……私を殺して…」
死を懇願してきた。