腐れ貴族
マルス Side
はぁ……鬱だ。
今日はママンの命日だから家でゆっくりしたかったのに…。
リオール家に行くのは最初から決まってたけど、何で王様まで呼び出しかけて来んだよ。しかも今朝になってから急に。
いや、まぁ理由はわかってんだけどな。
第一王子と第二王子、それと第一王女と第二王女(全員俺とタメ)もリオール家のパーティに招待されてて第一王子は行かなかったけど他が行ったらしい……王様が知らん間に。それで要らんことを覚えないうちに連れ戻せってさ。
そんなことなら呼び出さずに念話で伝えろよ、確実に間に合わねえよ。
だいたいパパンに別件の用事があったからって俺を一緒に呼び出す意味なかっただろ…。
パパンが間に合わないってツッコんだらたらかなり凹んでたな。
まぁ、いくら焦ってたとはいえ、この判断ミスはかなり痛いわな。
不幸中の幸いは嗣子の第一王子は行かなかったことくらいか?
第一王女はうちの表向きの裏稼業(おかしな表現だけど)を知っていて、俺のことをめちゃくちゃ嫌ってるから大丈夫だろうけど。
ちなみに第一王女は母親がエルフのハーフエルフで少し青掛かった銀髪で水色の瞳の美幼女だからガチ凹み。
第二王子&王女はあきらめた方がいいかな?
あいつら腐れ資質があったもんなぁ…。まったくいらん仕事を増やすなよ。つーか、なんで行ったんだよ?
王様曰く王子たちには招待状が来たこと自体伝えてなかったらしいが……誰かが手引きでもしたのか?
……あ、そういえば第二の二人(双子)の母親の第三王妃はリオール家の出身だったけ。確か政略結婚を捩じ込まれたんだよな…。
実家からの用事ってことで王様の頭越しに話を進められたってとかな…?
たぶんリオール家は自分たちに都合のいい王族を手に入れる為に今回のパーティを開催したんだろう……自分たちの価値観を植え付けるために。
できれば嗣子の第一王子を呼びたかったんだろうが、第一王子はがっちりガードされてるから他の王子と王女を狙ったんだろうな。第二王子&王女は自分たちの血筋だから呼び出しやすいし。
第一王女は……なんで一緒に行ってるんだろ?…ついでに連れて行かれたのかな?
第一王女は王宮や貴族社会での立場はかなり低い。王様が他種族との融和政策の象徴としてエルフの王女と政略結婚して生まれたけど、結局、他種族とのハーフって理由で。だから味方にする意味はあまりないはずなんだが…。
ちなみに他種族との融和政策で政略結婚ってのはただの言い訳で、実際には大恋愛の末の結婚らしい。そんな政策でもでっち上げないと結婚できなかったとか。
まぁ、この政策の所為で第三王妃の政略結婚を捩じ込まれたんだけど…。
第一王女はエルフ族に対する交渉カードにはなるけど、味方につけるよりは人質とかに使った方が効果的だよな……。
王女たちのことはひとまず置いといて(ノ-ω-)ノ=□、
次はリオール家の娘のことだ。
やっぱりパパンの元に奴隷売買の話が来たらしい……が、交渉がうまくいかなかったらしく今日オイラに任せるって。
…パパン……いくら将来のことを見据えてとはいえ、五歳の子供に人身売買なんてやらせんなよ。
ちなみに交渉がうまくいかなかった理由はリオール家にふっかけられたから。
将来の練習のためにいくらでも使って良いし、俺が任せられてる権利もいくつかは渡してもいいとは言われてるが買えるかな?
うちってリオール家とあまり仲がよくないからな…。
もともとキャラが被ってる上に、うちの前当主のグランドパパンがリオール家の権勢を削りまくったから。…なんでもリオール家の先代はペド野郎でその辺りから攻めたらしい……。
っと、そうこう考えているうちにリオール家に到着したようだ。
馬車から降りて目の前の屋敷を眺める。なんと言うか無駄に豪勢な成金趣味丸出しな品のない屋敷だ。
ここは王都近郊にあるリオール家の別邸、秘密パーティとやらはここでやっているらしい。
いつまでも成金邸を眺めても仕方ないのでとっとと中に入るか。
「ここはリオール家の屋敷である!子供が何の用だ!?」
なんか興味本位で来た近所の子供を追い払うみたいな言い方してるけど……俺が馬車から降りて来たのてた筈なのになんでこの対応なんだ?乗り合いじゃない馬車なんてそれなりの身分の者しか乗れないのに…。
門番がこれって問題あるだろ、うちなら即クビだぞ。
「イスカンダル家の者だ、今日は招待されて来たのだが?」
招待を差し出しながらやや傲慢に答える。
「あぁん、お前みたいな生意気なガキががイスカンダル家だと?」
イスカンダル家の者と名乗っても信用してないのか、それともイスカンダル家の『遣いの者』と勘違いしているのかかなりぞんざいな扱いだ。
「……ちっ、招待状は本物みたいだな、ちょっと待ってやがれ!」
そう言うと門番は近くの詰所らしき建物に入って行った。
……いや、門番が持ち場離れんなよ、勝手に中に入られるぞ。
つーか、あいつ本当に門番か?その辺のチンピラの間違いじゃないのか?
そもそも何で門番が一人しかいないんだよ…。
しばらく待っていると門番と見るからに高そうな服を着たオッサンが歩いてきた。
リオール家の当主だ。名前は……何だっけ?
……まぁどうでもいいか、髪の色はくすんだグレーで腐れ貴族にしては珍しくピザではないが中年太りし始めてる。
「君がイスカンダル家の者かね?まだ子供のようだが…」
「はい、イスカンダル家次期当主のマルス、マルス・フォン・イスカンダルと申します。今日はお招き頂きまことにありがとうございます」
「ほう、遣いの者ではなく次期当主か…。そういえば幾度か見かけたことがあるな」
オッサンはそう呟きながら門番を睨み付ける。
やっぱりただの遣いの子供と思ってて、そう報告してたな。
「よく来たな、少し遅れたようだが。
もう催しは始まっているから案内しよう」
そう言うとオッサンは歩き出した。
……オッサン、こっちが名乗ったんだからあんたも名乗れよ……まぁ、いいかこのあとはオッサンしばらく出番ないし。
「そういえばイスカンダル卿はどうしたのかね?」
オッサンの後をついて歩いているとパパンのことを聞いてきた。
「父は今朝早く陛下に城に呼ばれてそちらにおります。私が遅参したのも一緒に呼ばれていたからなのですよ」
「ほう、どういう要件だったのかね?」
「私のことを確認したかったようですね、10日前の魔力検査で稀少属性と判断されましたから」
「稀少属性か…、それは羨ましいな。君は五歳とは思えないほど頭がいい。
噂によると既にイスカンダル家の内務をいくつか担っているそうじゃないか」
オッサンうちの事情に詳しいな、隠してる訳じゃないが、喧伝もしてないんだが…。
「イスカンダル家の次期当主としては当たり前のことです」
「謙遜することはない、だからこそ君とは縁を結びたかったのだがな…」
お、あっちから娘のことを切り出してきたな…。
「そういえば、亡くなった娘さんを私の許嫁に、という話があったそうですね」
「あ、ああ……実を言うとだ、娘は死んでいないのだよ」
「……やはり、父に持ちかけたという奴隷売買の話は…」
「なんと!イスカンダル卿はそこまで君に話していたか…」
まぁ、普通子供にする話じゃないわな。
「ええ、まぁ、その交渉を今日、私にするよう言付かりましたし…」
「そ、そうなのかね…。あの出来損ないは君の母君と同じ東方の女に産ませた子供なのだが…」
出来損ないねぇ、それに……
「私の母と同じ東の…」
「ああ、闇を象徴する黒、東方の者は黒の瞳と髪を持つものが多い。君も瞳にその色を継いでいるように、我が家の血にもその色を取り入れようとしたのだよ」
俺の瞳はオッサンが言ったようにママンと同じ黒で、髪はパパンと同じ金髪、正確にはプラチナブロンドだ。
ちなみにパパンはプラチナブロンドの髪と蒼い瞳でママンは黒髪で黒い瞳。
パパンの色はこの国では珍しくない、現にこのオッサンの瞳も青いし…濁ってるけど。
「だから見た目の良く、魔力も優秀な女に子供を産ませたら……まさか穢れた血の失敗作になるとはな」
確か穢れた血っていうのは異常魔力の蔑称だったな。
「同じ東方の血を継いだ君とは大違いだ」
「まぁ、今回は運が悪かったと諦めて次の子に期待してはどうでしょうか?」
「そうもいかないな、何せ出来損ないを産んだ母親は実家に送り返したのだから。
あのような出来損ないを産むような者など妾として囲っていても仕方ない」
うわ~、オッサンまじ最低だな。
つーか妻じゃなくて妾かよ。この国では一夫多妻が認められてるのに…。
「あの出来損ないには死んだと説明しているのだがな」
「それは何故でしょうか?」
「あの出来損ないは奴隷にするつもりだったからだよ。奴隷に心なんて必要ない。
クククッ、死んだと説明したら出来損ないの心が壊れて大人しくなりおったわ。そういえば、それからは餌を口しなくなったな」
このオッサンまじ最低だな。
「そういえば父の話では交渉が難航したようですが何かあったのですか?」
「ああ、最初に話を持ちかけた時にはわからなかったのだが、つい最近あの出来損ないに付加価値があることがわかったのだよ。
ちょっと信じがたい事なのでイスカンダル卿には理解してもらえなかったのだがね」
付加価値ねぇ…。
「それはいったい…」
「あの出来損ないを息子達の魔術の的にしていた時にわかったのだが…」
ちっ、予想通り的にしてやがったか。
「私も時々参加していたのだが…ついうっかりあの出来損ないの腕や脚を切り落としてしまったのだよ。
イスカンダル卿には申し訳なかったのだが、まぁやってしまったものは仕方ないと思い一晩放置して翌日死体を処理しようとしたら」
このオッサンどこまで最低なんだ?
「なんと、切り落とた手足が再生していたのだよ」
……確かにそれは信じられんな。
「にわかには信じらないだろうから催しのついでに見せてあげよう、そうすればわかってもらえるはずだ」