再誕
? Side
「頑張れ、もう少しだ」
「…はぃ、うぅ……はぁ…はぁ。あ、うううううぅ、はぁっ」
「おぎゃあああ、おぎゃあああ」
「よく頑張ったな、元気な男の子だ」
「…はぁ、はぁ。…私の……私たちの、赤ちゃん。
良かった……無事産まれたのですね」
「ああ」
「あなた、こんな私を母親にしてくれてありがとうございます。私が子供を産めるだなんて…
。
坊や、私をお母さんにしてくれてありがとう、ママはすぐにいなくなってしまうけどあなたを愛していますよ」
「やはり君はもう…」
「ええ、もって一週間でしょうね」
「一週間か……短いな」
「えぇ、ですが精一杯の愛情を注ぎます」
「ああ、そうだな」
「この子と……あなたに」
「な、何を言ってるんだ…。そ……それよりもこの子の名前だ。君の生きた証だ、しっかりとした名前をつけなくてはな」
「もう、照れちゃって、相変わらずまっすぐな愛情表現に弱いんですから。
もう名前は考えてありますよ。
男の子ならマルス、女の子ならリセと。
だからこの子はマルスです」
「そうか、マルスか。
息子よ、今日からお前はマルス、マルス・フォン・イスカンダルだ」
───────────────────10日後───────────────────
「もうすぐですね」
「そうか…」
「ふふふ、思っていたよりも3日も長生きできました」
「3日も…か」
「ええ、3日もです。
未練はたくさんあります
この子の成長を見たいですし、あなたともっと愛し合いたいです。
でも、大人になることができないと言われた私があなたと愛し合うことができました。
この子を産むことができました。
そして10日もあなたとこの子と過ごすことができました。
それだけで私は満ち足りています」
「10日前、君は『私を母親にしてくれてありがとう』と言ったね。
あの時は言えなかったが、私を父親にしてくれてありがとう。
私を愛してくれてありがとう。
イスカンダル家に生まれた私は家の役柄上人を愛し、愛されるとは思えなかった。私に愛という感情を教えてくれてありがとう」
「あら、今日はずいぶんと素直なのですね、いつもは回りくどい言い方ですのに」
「今日くらいは自分に正直にならなくては一生、いや何度生まれ変わっても後悔し続けることになる」
「最期に素直なあなたを見れて嬉しいですね」
「ふっ、これが私の最後の素直な姿だろうな」
「この子のことよろしくお願いしますね」
「ああ、君と私の愛の証だ。
次、君に会うときに自慢出来るような息子に、君が向こうで自慢の息子だと胸を張れる息子に育ててみせるよ」
「あまり早く来ては行けませんよ」
「この子を育て上げたらすぐにでも追いかけて行きたいんだがな…」
「ダメです、あんまり早く来ちゃうと離婚しちゃいますよ」
「それは嫌だな。仕方ない、天寿を全うするまで待っていてくれるか?」
「ええ、もちろん。何年でも何十年でも待ち続けますよ。
神様に後がつかえているから早く転生しろと言われても待ち続けちゃいます。
あ、離婚しちゃいますと言っちゃいましたが、あなたは再婚しても構いませんよ。もし愛する人が現れたなら私に気兼ねなんてしないで再婚しちゃってください」
「君のように私を愛してくれる人なんて現れないよ、何せ君に出逢えたのだって奇跡のようなものだからね」
「奇跡だなんて言い過ぎですよ。あなたは素直じゃないだけで、優しい人なんですから」
「君こそ言い過ぎだ、素直に生きることを許されない家系ではあるがな。
もしもう一度奇跡が起こるならそれはこの子に起きることを願うよ。
私にとっての君のような存在がこの子に現れることを」
「もう……お別れの時間が…来たようです…ね」
「そうか…。
マルス、私は十分お母さんと話した、あとの時間は――お母さんの最期の時間はお前のものだ」
「マルス…本当に……短い間だったけれど…あなたに会えて嬉しかったわ。
私のところ…に来てくれて……ありがとう。
もう…会うことはできないけれど……私はいつもあなたを見守…っているわ。
これは………その……おま………じない。それ………じゃ…あ、バイ…バイ…」
「逝ってしまったか…」
「おぎゃああ、おぎゃああ」
「お前もお母さんが逝ったのがわかるか…」
マルス Side
重い、重過ぎるよ両親の愛が。
生まれた瞬間とてつもなく重い会話が聞こえて来たよ、転生って赤ん坊かよ!?って驚くひますらなかったさ。
いきなりママンと死に別れなんてヘビーなイベント発生って…。幸い一週間くらい猶予があるけどよ。名前はマルス・フォン・イスカンダルって無駄に立派過ぎるし。イスカンダルって第4次ライダーかよ…。
生まれてから10日、最初の見立てより3日ほど過ぎているがママンは今日死ぬようだ。
たった10日だったけど精一杯愛してくれたママンが死ぬのは悲しいな。
両親は最期の会話をしているみたいだ、ほとんどはのろけ話だけど。
こんなに素直に気持ちを口にするパパンは初めて見るわ、ママンとの話を聞く限りめちゃくちゃレアなことらしいが…。
ただ聞き捨てならないことに家系的にモテないみたいなこと言われてんだが…。ママンは否定してるけどパパンがママンと結婚できたのは奇跡とか。
パパンの性格も家系の役柄の影響があるとかどういうことなんだ?
どうやら母さんとのお別れの時間が来たようだ。声も途切れがちになり、しゃべるだけでも苦しそうだ。
父さんが俺を抱き上げ、母さんに渡す。どうやら母さんの最期の時間を俺にくれるらしい。
俺のことはいいからもっと母さんと話せよ…
母さん、たまたま母さんの子として転生しただけなのに、なんでこんな俺にお礼なんて言うんだよ。
最期に魔法なんで使ってるんだよ。
どんな魔法かはわからないけどかなりの魔力が込められている、そんな魔法なんか使わなければもう1日くらい生きられただろう。何で…。
母さんは逝ったらしい。
もう泣いてもいいよな、たった10日だったけど紛れもなくあなたは母さんだったよ。
これから先、母さんに顔向けできないような生き方はしないと約束するよ。
だから今日だけは泣いてもいいよな?