墓参りと前髪
さて、獣人の娘を寝かせたしママンの墓参りに行くかね。
「サティア様、ぼくはこれから用事があるので外しますがサティア様はいかがなさいます?」
「わたしはこの娘を看てるわ」
「そうですか、それならこちらの座布団をお使いください。あと何か用事があればこのベルを鳴らしてくださいね」
「ええ、わかったわ。ありがとう」
しばらく来てないとはいえ、サティアにとってうちは勝手知ったる他人の家、あとは特に言っておくことないかな。
「それでは失礼します」
和室を後にし、色々準備をし終えたので予定通りママンの墓参りに向かう。……と言ってもママンの墓はうちの敷地内にあるからすぐに着くんだけどな。
まずは墓の清掃をするが、普段から小まめに手入れしてあるので軽く拭くだけいい。
ある程度綺麗になったところでママンに挨拶。墓参り自体は折に触れてしてるから話すことはあまりないけど、今日のことを報告する。
ママンとの話を終えたのであとは桜の苗木をママン墓の隣に植える。ママンの好きだった花なので今年のこそは根付いてほしいな……。
もう夕方か。苗木植えるのに結構時間かかったな。もうすぐ飯の時間だけど、汗かいたから先に風呂に入ろうかな。
……あ、そうだ。出る前にサーシャに頼んだ件はもう終わってるか確かめてからにしよ。
そう考え、足早に俺の部屋へ向かう。
部屋に入り玄関で靴を脱ぐ……あ、メイド用の靴があるってことはメイドの誰かが来てるな。
サティアが呼び出したか、サーシャに頼んだ件をやってるかだな。
「あ、ぼっちゃま。 良いところに帰って来ましたね、ちょうど今終わったところですよ」
和室に入ると作業を終えたとおぼしきサーシャが振り返り出迎える。まだ色々散らばっているから後片付けは残っているが、本作業は済んだみたいだな。
「ふむ、それなら見せてもらえるか」
目的のものはサーシャで死角になっていて見えないので、サーシャに退くように促す。
サーシャに頼んだこと、それは……
「ふん、なかなか見れるようになったじゃな……いか?」
獣人の娘が起きたら貞子状態の髪を切り揃えること。後ろから見た感じは肩のあたりでまっすぐ切り揃えて、ちょっと髪の長い禿って感じだったのだが……前に回ると前髪が目を覆い隠している。
「なぜ前髪は伸びっぱなしなんだ?」
まるで昔のギャルゲーの主人公みたいだぞ。まぁ、これはこれでありだと思うが。
とはいえちゃんと理由は聞いておかないとな。
「それはこの娘が前髪を上げた時に眩しがったからですね~。しばらく陽の光を浴びてないのではないですかね?」
半年もあの地下牢で生活してたから、光に対して過敏になってんのか。
「私も経験がありますし、こういう子は多いですからね」
ああ、そういやサーシャも獣人の娘と似たような境遇で元奴隷だったっけ。奴隷身分から解放されたあともうちで働いていて、今ではメイド長になってるけど。……ん? もしかして奴隷教育所は前髪キャラだらけなのか?
「そうか、ご苦労だったな。片付いたら下がっていいぞ」
「はい」
墓参りしているうちに目を覚ましていた獣人の娘に話し掛ける。サーシャなりサティアなりが説明しているとは思うが話の取っ掛かりとして聞いてみる。
「うん……わたし、この家に売られた……」
ふむ、大まかにだが状況は理解しているか。まぁ、買った時この娘は起きてたからわかってるか。
「ふん、それは正確ではないな。この家ではなくぼくに買われたんだ。
それと返事は『うん』ではなく『はい』だ」
細かい違いだがイスカンダル家の奴隷と俺の奴隷では立場がかなり変わる。
イスカンダル家の奴隷だと主人は俺ではなく当主のパパン、そして奴隷として欲しいと申し出があった場合交渉に応じなければならないのだ(実際に売るかどうか別として)
……なんか意味がわからないみたいな顔されてるな。まぁ、こんな話、五歳の子供に理解できないか。
「……細かい話は追々するとして、今日からお前はぼくのペットだから言うことを聞け」
「…………そう、わかった……」
うっわ~、めっちゃ無気力な返事。これ絶対髪の下の目は死んでるだろ。地下牢にいた時の方がまだ気力があったぞ……死ぬ気力だけど。
「…………わかりました、だ。サーシャ、こいつの教育は任せた」
とりあえずメイドとして使うので教育はメイド長のサーシャに任せよう。幸いまだ片付けが終わっていないため部屋にいたので説明しなくていいし。
「はい、わかりました~。 この娘の体調を整えるため……そうですね一週間後から教育を始めますね。それではぼっちゃま、私はこれから食事の支度をして来ますね~」
……ん?
「なんでサーシャが食事の支度をするんだ?」
料理人がいるだろ。
「あれ、ぼっちゃまは知りませんでした? 今日は私と執事長以外は休みをとっているので今日の家事は私がするんですよ」
何でそんないっぺんに休暇出してんの?
「この娘とサティア様の入浴を任せたかったんだが……」
「申し訳ありませんがそれはぼっちゃまにお願いしますね」
はい?
イマナンテイッタ、コノメイド?
「主筋のぼっちゃまの手を煩わせるの心苦しいのですが……別によろしいですよね~。王女様と一緒にお風呂に入るのは初めてではないのですし」
いや、よろしくない。今日は理性をガンガン削られてるから。それに親バカ王とシスコン王子に知られると本気でめんどくさい。あと、前に一緒に入ったときだってサティアの世話係はちゃんといたから。
「ぼっちゃまのお風呂はもう沸いていますのですぐに入ってくださいね~、出る頃には食事の支度を済ませますので。それでは失礼します」
サーシャはそう言うと部屋を出て行った。
……ちょっとこっちに反論させろよ。




