肉体矯正
「うむ、大分形になってきたのぅ。今日のところはここまでにしておこう」
着替えて訓練場に到着すると隊形練習が始まり、一時間ほど終了。
内容は、まず基本的な並び方。全体での並び方や男女別の並び方を横隊や縦隊など様々なバリエーションを覚えた。
覚えた後はロリババァが素早く移動して、その前に指示された隊形に並び直すといった感じだ。
ただ、ロリババァは高速移動や短距離転移を駆使しながらかなり離れた位置に移動し、尚且つ急かしやがったので参加した奴らの大半はバテバテだ。
ちなみに参加したのはクラスの約半数。残りはサボったようだ。
いくらロリババァがサボってもいいつったからって本当にサボってどうするんだか……。最初の一回くらい参加しとけよな。並び方だけでも知っておかないと色々まずいのに。
「次は肉体矯正じゃ。イスカンダルよ、前に出て横になるのじゃ」
「……はい」
ロリババァが自分の《ボックス》から寝台を取り出しながら俺を呼んだので、嫌々ではあるが前に出て、その上で仰向けになる。
堂々と横になれるからか、バテバテの奴らから恨めしそうな、あるいは羨ましそうな視線を感じるが…………これから起こるのは、そんないいもんじゃないぞ。
「うむ。……何じゃ、つまらんのぅ、あまり歪みがないではないか」
「……それは良いことなのでは?」
誉められこそすれ、詰られるのは理不尽だろ。
「まぁよい、あまりないとはいえ、全くない訳ではないから、のっ!」
ゴリ、ゴリッ。ゴリ、ゴリッ。
ロリババァの言葉が終わると同時に両肩の関節と股関節が外される。
「どんなに気をつけても利き手足と逆の手足では使用頻度や筋力が異なるからの。どうしても身体のバランスは狂うものじゃ。
ふむ、背骨も少し曲がっておる、のっ!」
コリッ。
続いて身体をひっくり返され、背骨を矯正される。
「背骨は身体の中でも最も重要な部位の一つじゃから、わずかな歪みも見逃さぬ方がよいの。ある程度は腹筋や背筋で支えられるが、腰痛の原因にもなりうる。
まぁ、こんなもんじゃな」
コキ、コキッ。コキ、コキッ。
背骨が矯正された後は再び身体をひっくり返されて仰向けになり、外されていた関節を嵌め直される。
「さて、どんな感じじゃ?」
「ええ、まぁ、楽にはなりましたね」
痛かったけどなっ!
いくら慣れてるとはいえ、わざと痛い外し方で関節を外されて痛くないわけがない。
ロリババァは痛くない外し方ができるので、たぶんうめき声の一つでも出させようとしたんだろうが……その手にはのらん。
「うむ。
手足のバランスはともかく、背骨の方は気を付けるべきじゃな。ここ最近で急激……とまでは言わぬが、集中して負荷がかかったような歪み方をしておったぞ」
「……まぁ、少し忙しかったので……」
ここんところは入学に際しての仕事の引き継ぎや、学業との両立に合わせたワークスタイルへの移行でいろいろ忙しかったからな。
「まぁ、あまり歪みのない身体じゃったから注意すべき点は他にはないの。戻ってよいぞ」
「はい、ありがとうございました」
ロリババァに礼を言って、列に戻る。
「さて、次は誰が……使命するのも面倒じゃな。肉体矯正を希望する者は並ぶがよい。ちなみにしゃが、骨格の矯正は美容にも良いぞ。ボディバランスが良くなり、スタイルにも影響があるのじゃ」
その途中、ロリババァが目隠し用の衝立を出しながらそう言うと、授業に参加していた生徒のほとんどがベッド前に並び始めた。特に女子生徒が我先にと並んでいるのは……うん、何も言うまい。ロリババァの近くにいた死亡フラグが一番になったのを凄い目で睨んでたりするが、気にしない。
男が並んでるのはロリババァの見た目が少女だからだろうな。
「……ねぇ、一瞬だけ顔が歪んでたけど、痛い方だったの?」
「ええ、まぁ……」
列のあった場所に戻るとサティアが声を掛けてきた。
ロリババァの肉体矯正を受けたことがあるので、あれの痛みはよくわかっているサティアは並んでいない。……スタイル云々も、成長ではなくボディバランスという意味だからサティアの琴線には触れない……と言うか、サティアの場合、矯正を受けた発育であの胸だしな……。
教室での発言はよく考えたら、頭が回っていなかったのがよくわかるな。
「……ということは……」
「サティアの思っている通りかと」
そう言った次の瞬間、
「ギャァァァァァアアア!!!」
一番手で肉体矯正を受けた死亡フラグの悲鳴が訓練場に響き渡った。




