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月夜譚 【No.401~】

梅雨の読書時間 【月夜譚No.405】

作者: 夏月七葉
掲載日:2026/06/07

 ページの端にインクの染みがある。それを何に気なしに指先で撫でてから、彼女はほうっと息を漏らした。

 雨が降る中散歩に出かけて、立ち寄った古書店で偶々手に取った一冊。小説ではなく哲学書を選んだのは、ただの気紛れだった。

 内容は難しくて、きっと半分も理解できていない。それでも、折角買ったのだからという意地も手伝って、どうにか最後のページを捲り終えた。

 ふと顔を上げると、窓から見える夜の景色の中から雨音が聞こえてくる。それに耳を傾けていたら、本の中ほどにあったインクの染みを思い出したのだ。

 前の持ち主は、勉強熱心だったのだろうか。ノートにペンを走らせながら文章を目で追い、読むのに夢中になるあまりインクを垂らしてしまった。

 顔も知らないその人の慌てる様子を思い浮かべて、思わずふふっと笑いが零れる。

 読むのは大変だったが、これはこれで楽しかったように思う。偶には、いつもとは違うものに手を出してみるのも悪くはない。

 彼女はテーブルに頬杖をついて、暫く雨音を堪能した。

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