梅雨の読書時間 【月夜譚No.405】
掲載日:2026/06/07
ページの端にインクの染みがある。それを何に気なしに指先で撫でてから、彼女はほうっと息を漏らした。
雨が降る中散歩に出かけて、立ち寄った古書店で偶々手に取った一冊。小説ではなく哲学書を選んだのは、ただの気紛れだった。
内容は難しくて、きっと半分も理解できていない。それでも、折角買ったのだからという意地も手伝って、どうにか最後のページを捲り終えた。
ふと顔を上げると、窓から見える夜の景色の中から雨音が聞こえてくる。それに耳を傾けていたら、本の中ほどにあったインクの染みを思い出したのだ。
前の持ち主は、勉強熱心だったのだろうか。ノートにペンを走らせながら文章を目で追い、読むのに夢中になるあまりインクを垂らしてしまった。
顔も知らないその人の慌てる様子を思い浮かべて、思わずふふっと笑いが零れる。
読むのは大変だったが、これはこれで楽しかったように思う。偶には、いつもとは違うものに手を出してみるのも悪くはない。
彼女はテーブルに頬杖をついて、暫く雨音を堪能した。




