第二十一話 一対二の絶体絶命
(…フン。…ついに着いちまったか…)
アビスは、リディアの背中のリュックサックの中で、顔を上げた。
目の前には、この大地の迷宮の最深部、モルフェとバザルトが待ち受けるであろう玉座の間へと続く、巨大な石の扉がそびえ立っている。
長かった道中。
あまりにも長すぎた。
(…チッ。…この、脳筋勇者め…!)
アビスは、忌々しげにリディアのうなじを睨みつけた。
彼の計画は、道中の罠でリディアを適度に「ピンチ」に陥らせ、魔人形態へと戻ることだった。
だが、その計画は、リディア本人の常識外れな「幸運」と「脳筋パワー」、そして「食欲」によって、悉く完璧に粉砕されてきた。
(…おかげで、俺様は、この屈辱的な犬コロの姿のまま、ラスボスの目前まで来てしまったじゃねえか!)
もはや、猶予はない。
この扉の向こうには、あの陰湿なモルフェと、脳筋のバザルトが、二人揃って待ち構えている。
犬の姿のままでは、リディアのナビゲートはできても、戦闘にはならない。
(…くそっ…。…こうなったら、もうアレしかねえ…!)
アビスの、卑劣な思考が、最後の手段へとシフトする。
リディアの幸運が強すぎて、道中の罠でピンチにならないというのなら、本物の四天王二人の殺意のど真ん中に、この脳筋を放り込むしかない。
(…フン。…そうだ。それしかねえ。この小娘の正義感を利用して、敵の懐に真っ正面から乗り込ませる!)
アビスの脳裏に、完璧な(そして彼にとっては最低の)計画が浮かび上がった。
リディアは、勇者の隠れ里でアビスがついた真っ赤な嘘――「四天王を倒して『鍵』を集めれば、アビスの封印が『完成』する」――を、今も、心の底から信じ込んでいる。
ならば、その勘違い(という名の正義感)を利用する。
(…フハハハ! そうだ! この小娘、どうせ『アビスさんを完全に封印するため、私が鍵を集めます!』とか喚き散らして、あのバカ二人相手に真正面から突撃するに決まってる!)
一対二。
相手は、四天王の中でも最も厄介なコンビ。
いくら、この小娘の幸運が異常だろうと、聖剣のオートガードが優秀だろうと、あの二人の完璧な連携攻撃を前にすれば、ひとたまりもあるまい。
(…そうだ! それでいい! それでこそ、この小娘は「生命の危機」になる! …フハハハ! 待ってやがれ、モルフェ! バザルト! テメエらの目の前で、この俺様が、完全復活を遂げてやるぜ!)
アビスの、新たなる卑劣な計画(リディアを生贄に捧げる計画)が、今、完璧に完成した。
「…アビスさん…。…この扉の、向こうですね…?」
リディアが、ゴクリと、唾を飲んだ。
彼女の若草色の瞳には、これまでにない緊張の色が浮かんでいる。
(…ああ。…そうだ)
アビスは、あえて冷徹に思考を飛ばす。
(…いいか、小娘。この先にいるのが残る二人の四天王。…あいつらを倒せば、お前のその忌々しい『勇者の使命』とやらも終わりだ。…俺様を完全に封印できる。…そうだろ?)
「…はい!」
リディアの、若草色の瞳に、決意の光が宿った。
そうだ。
この長かった旅も、これで終わりなのだ。
父の言いつけを破り、家を飛び出してしまった罪悪感。
イグニスの領地での、あの後味の悪さ。
リュミエールの領地で、自分が引き起こしてしまった、あの混沌。
その全てが、この最後の戦いで報われる。
自分がこの手でアビスを完全に封印し、世界に平和を取り戻すのだ。
(…フン。…乗ったな、この脳筋が)
アビスは、その、あまりに単純な正義感に、内心、嘲笑を浮かべた。
(…いいか、小娘。あの二人は、イグニスやリュミエールとはワケが違う。…二人で、組んでやがる。…俺様が、完璧にナビゲートする。だから、テメエは、俺様の言う通りに、一寸の狂いもなく動け。…いいな?)
「は、はいっ!」
リディアは、コクリと頷いた。
そして、リュックの中にいるアビス(犬)を守るようにぎゅっと抱きしめると、リュックを背負い直した。
(…アビスさん、私が、必ず、あなたを、封印してみせますから…!)
(…フン。…せいぜい、俺様を復活させるために、派手に、死にかけてみせやがれ!)
アビスの、その邪悪な本音は、リディアの脳筋な正義感には届かなかった。
リディアは、深呼吸を一つすると、その巨大な石の扉に両手をかけた。
「…行きます!」
彼女は、勇者の末裔としての、そのありったけの怪力を込めて、その扉をゆっくりと押し開いた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ…!
重々しい、石が擦れる音。
開かれた扉の向こう側。
そこは、この大地の迷宮の最深部、玉座の間だった。
天井からは、巨大な鍾乳石がシャンデリアのように垂れ下がり、壁は、磨かれた黒曜石で覆われている。
その広すぎるほどの空間の中央。
そこには、玉座が二つ、並んで置かれていた。
一つは、ねじくれた流木のような悪趣味なデザインの、禍々しい玉座。
もう一つは、巨大な岩盤をそのまま削り出したかのような、無骨な玉座。
そして、その玉座には、アビスがよく知る二つの影が鎮座していた。
「…お待ちしておりましたよ」
流木の玉座から、ねっとりとした蛇のような声が響いた。
病的なまでに白い肌。
片目を隠した、黒檀のような黒髪。
策略家、モルフェ。
彼が、その薄い唇に、三日月のような笑みを浮かべていた。
「…まさか、私のあの完璧な迷宮を、こうも早く突破してくるとは。…さすがは、我らが主、アビス様ですね」
モルフェの、その蛇のような瞳が、リディアの背中のリュック――その隙間から顔を覗かせている小さな黒い犬――を正確に捉えていた。
「なっ!?」
リディアが、息をのんだ。
(…チッ! やはり、気づいてやがったか、この陰湿野郎が!)
アビスは、忌々しげに思考を飛ばす。
モルフェの隣、岩盤の玉座から、地響きのような声が響いた。
「…フン。…本当に、犬コロになり下がっていたとはな。…見るに堪えんわ、アビス」
その声の主は、玉座に座ってはいたが、人型ではなかった。
玉座と一体化した、巨大な岩の塊。
その岩盤の表面に、無骨な嘲りの顔が浮かび上がっている。
大地の、バザルト。
彼が、その岩の瞳で、アビス(犬)を、心底軽蔑したように見下ろしていた。
「ア、アビスさん!? この人たち、アビスさんのことを…! 犬だって知って…!?」
リディアが、パニックに陥る。
(うるせえ! 聞こえてる! …フン、好都合じゃねえか!)
アビスは、あえて、傲慢に思考を飛ばした。
(…そうだ! この俺様こそがアビスだ! テメエら、元・部下の裏切り者どもを直々に粛清しに来てやったぜ!)
アビスは、リュックの中から、精一杯の威嚇を込めて吠えた。
「キャンキャン! ワンワン!」
「…フフフ。…なんと、勇ましいお声だ」
モルフェが、口元に手を当てて、上品に(?)笑う。
「…ですが、アビス様。…あなた様は勘違いをなさっておられる。…我々は、裏切り者などではありませんよ?」
(…ほう? …今さら何を言い出す気だ、この陰湿野郎が…)
モルフェは、玉座からゆっくりと立ち上がった。
「…我々は、ただ、あなた様のお戻りをお待ちしていただけ。…そして、この数百年で我々がどれほど『成長』したかを、あなた様にお見せしたかった。…ただそれだけですよ?」
(…フン! 成長、だと…?)
バザルトの岩の玉座が、ゴゴゴ、と音を立てて動き出す。
「…そうだ、アビス。もはや我々は、お前の言いなりになるただの駒ではない。我々は、お前を超えた!」
(…ほざきやがって、この脳筋が!)
アビスが、怒りに毛を逆立てた、その時。
「…アビスさん! …分かりました!」
リディアの脳筋な思考が、この絶望的な状況を、彼女なりの「正義」で解釈した。
「…この人たちは、アビスさんの元・部下なんですね! …そして、アビスさんがいない間に、悪いことをしてしまった! …だから、アビスさんがお説教をしに来たと思っているんですね!」
(…………はあ?)
アビスは、その、あまりに斜め上すぎる解釈に絶句した。
(…お、お説教、だと…!?)
「…はい! ですが、アビスさんは、今、そのお姿です。だから、私が、アビスさんの代わりにお説教してあげます!」
(…はあああああああ?)
アビスが、絶句する暇もなく。
リディアは、一歩、前に出た。
「アビスさんは、私が、守ります!」
彼女は、聖剣(呪いの鍵)を抜き放つと、二人の四天王に向かって、真正面からそれを突きつけた。
「…お二人とも! …あなたたちが、アビスさんの、元・部下だということは分かりました! …ですが、アビスさんがいない間に、人々を苦しめるなんて、間違っています!」
「「…………」」
モルフェと、バザルトの、動きが止まった。
彼らは、目の前のこの勇者の末裔が何を言っているのか、理解できなかった。
「…私が、アビスさんに代わって言います! …あなたたちの、その間違った行い! この聖剣(呪いの鍵)で私が正します!」
(…よし。…理由はちょっとアレだが、予定通りだ!)
アビスが、リディアにバレないように、ほくそ笑む。
一方、リディアの脳筋な正義感は、すでに暴走していた。
「…アビスさんは、黙って見ていてください! 私が二人を懲らしめてあげますから!」
アビスの計画(リディアがアビスを守るために突撃する)は、ある意味、完璧に達成された。
だが、その理由が、あまりにも間抜けすぎた。
「…バザルト」
モルフェが、その薄い笑みを消した。
「…どうやら、あの小娘。…アビス様の新しい『お気に入り』のようですね。…我々の論理が通じる相手ではなさそうだ」
「…フン。…ならば、潰すまでだ」
バザルトの岩の玉座が、完全に立ち上がり、それは、身の丈十メートルはあろうかという、巨大な岩のゴーレムへと変貌した。
「…モルフェ。予定通り、あの犬コロは、お前にくれてやる。…俺様は、あの生意気な小娘を潰す」
「…フン。…いいでしょう。…では、アビス様。まずはあなた様から『教育』し直して差し上げますよ」
モルフェの姿が、ふっ、と掻き消えた。
(…チッ! 消えた! 幻術か!)
アビスが、周囲の魔力の流れを探る。
だが、それよりも早く。
「…まずはお前からだ、小娘!」
バザルトの巨大な岩の拳が、リディアめがけて振り下ろされた。
「きゃあっ!」
(…小娘! 避けろ! 右だ!)
アビスが絶叫する。
リディアは、聖剣(呪いの鍵)を構えたまま、その拳を、必死に右へと跳んでかわした。
ドゴオオオオオオオン!!!
凄まじい轟音。 玉座の間の黒曜石の床が、粉々に砕け散る。
(…くそっ! …イグニスの比じゃねえぞ、このパワーは…!)
アビスが戦慄する。
(…おい、小娘! だから言っただろ! ああいうデカブツは後回しだ! 先に、モルフェを探せ!)
「で、でも! この、大きな人が私を…!」
リディアが、体勢を立て直そうとした、その時。
彼女の足元の床が、突如として、粘土のように歪んだ。
「え!?」
彼女の足が、床に、吸い込まれるように固定されていく。
(…チッ! バザルトの拘束か!)
「…フン。ネズミが。そこから、動くな」
バザルトが、その岩の拳を、再び振り上げる。
「あ…! 足が抜けません!」
(…くそっ! …聖剣で床を斬れ!)
リディアが、慌てて、聖剣で足元の岩を叩き斬ろうとした、その時。
「…無駄ですよ」
冷たい声。
彼女の背後に、いつの間にかモルフェが立っていた。
「えっ!? い、いつの間に…!」
(…しまった! 幻術か!)
アビスは、気づいた。
モルフェは、最初から、リディアではなく自分を狙っていたのだ。
モルフェの、その病的に白い指先が、アビス(犬)の小さな首筋に触れた。
「…まずは、あなた様の、その、うるさい『ナビゲート』から黙らせていただきましょうか。…『思考監獄』」
モルフェの指先から、冷たい魔力が、アビスの脳へと流れ込んでくる。
(…ぐ…! …あ…!?)
アビスの意識が、急速に遠のいていく。
(…こ、の、陰湿野郎が…! …俺様の思考を、読み、そして、封じ込める気か…!)
アビスの、リディアへの思考伝達が、プツリと途絶えた。
(え…? アビスさん…? …アビスさん!?)
リディアが、脳内で必死に呼びかける。
だが、アビスからの返事はない。
リュックの中のアビス(犬)は、まるで意識を失ったかのように、ぐったりと動かなくなっていた。
(…そ、そんな…! アビスさん!)
リディアの顔が、絶望に染まった。
唯一のナビゲーターを失ったのだ。
「…フフフ。…これで、耳障りな雑音は消えました」
モルフェが、満足げに笑う。
「…さあ、バザルト。心置きなく、その小娘を潰したまえ」
「…フン。言われるまでもない」
バザルトが、その、巨大な岩の拳を、三度、振り上げた。
リディアの足は、拘束され動けない。
アビスの、ナビゲートもない。
リディアは、絶体絶命だった。
「…い、いや…!」
リディアは、ヤケクソで、聖剣(呪いの鍵)を振り上げた。
(…聖剣さん! お願いします! 動いて…!)
―――キィィィン!
聖剣の自動防御が発動した。
黒いドーム状の結界が、リディアの全身を覆う。
ドゴオオオオオオオオオオオン!!!!
バザルトの渾身の拳が、その黒い結界に叩きつけられた。
凄まじい衝撃波が、玉座の間に響き渡る。
「…きゃあああああああっ!」
リディアは、結界の内側で、その、あまりの衝撃に、意識が飛びそうになる。
結界が、ミシミシと音を立てている。
(…だ、ダメです…。…防ぎ、きれない…!)
バザルトのパワーが、聖剣の自動防御の許容量を超えようとしていた。
「…フン! …その、忌々しい勇者の力も、ここまでだ!」
バザルトが、さらに力を込める。
結界にヒビが入った。
(…だ、ダメ…! …このままじゃ、潰され…!)
リディアが、絶望に目を瞑った、その時。
―――ゴゴゴゴゴゴゴ…!
突如、リディアが立っていた、その足元。
バザルトが、拳を叩きつけていた、その床全体が、崩落を始めた。
「え!?」
「…なにっ!?」
バザルトの岩の顔が、驚愕に歪む。
「…モルフェ! …貴様、何を…!」
「…私ではありませんよ、バザルト」
モルフェが、その、蛇のような目を細めた。
「…どうやら、あなた。…あなた自身の力で、この玉座の間の床を支えていた地盤ごと、破壊してしまったようですね」
「…な…!?」
そう。
バザルトの、その、あまりの脳筋パワーが、モルフェが仕掛けていた幻術の罠(リディアをこの一点に誘い込むための、脆い床)を、破壊してしまったのだ。
「きゃあああああああっ!」
リディアは、聖剣の結界に守られたまま、その、崩落した床の瓦礫と共に、奈落の底へと落ちていった。
「…チッ! …あの小娘…!」
バザルトが、忌々しげに舌打ちをする。
モルフェは、その、ありえない結末を、ただ静かに見下ろしていた。
「…フン。…自滅、ですか。つまらない幕切れでしたね」
彼らは、知る由もなかった。
その崩落こそが、アビスが心の底から望んでいた「リディアの生命の危機」の始まりであることを。
◇
暗闇。
凄まじい落下感。
そして、全身を襲う衝撃。
「…う…! …ぐ…!」
リディアは、全身の痛みで目を覚ました。
聖剣の、自動防御が、最後の最後で作動し、彼女を、瓦礫の直撃からは守ってくれたようだった。
だが、ここはどこだ?
真っ暗で何も見えない。
そして、何よりも。
(…はあ…! はあ…! …く、空気が…!)
リディアは、息苦しさに気づいた。
彼女は、大量の瓦礫と土砂の中に、生き埋めになっていた。
聖剣のバリアが、彼女の周囲にわずかな空間を確保してくれてはいる。
だが、その、わずかな空間の酸素が、急速に失われていこうとしていた。
「…だ…だれか…! …た、助けて…!」
彼女は、必死に、聖剣で周囲の岩盤を叩いた。
だが、バザルトが作り出したこの大地の迷宮の、土砂に埋まった岩は、彼女の力でも、びくともしない。
(…アビスさん…! …アビスさん!)
彼女は、リュックの中に、意識を集中させた。
だが、アビス(犬)は、モルフェの呪術によって意識を封じられたまま、ぐったりとしている。
(…あ…。 …ああ…)
絶望。
酸素が、薄くなっていく。
思考が、朦朧としていく。
(…このままじゃ…私…、死んじゃう…!)
圧死は、避けられた。
だが、今度は、酸欠だ。
これこそが、本当の「生命の危機」。
(…ア…アビス…さん…。…ごめん…なさ…)
リディアの、若草色の瞳から光が消えかけた。
彼女の手が、だらりと落ちた。
彼女の生命活動が停止しようとした、まさに、その瞬間。
彼女のリュックサックの中で。
意識を封じられていたはずの、アビス(犬)の黒い瞳が、カッと見開かれた。
(…ククク…!)
モルフェの『思考監獄』が、内側から破られていく。
否。
破られるのではなく、侵食されていた。
今、あの忌々しい勇者の呪いが、自らその鎖を解き放ったのだ。
リディアの、「生命の危機」。
その、絶対的なトリガーが、引かれたことによって。
(…フン。…フハハハハ!)
アビスの脳内に、あの懐かしい全能感が戻ってくる。
失われていた魔力が、まるで堰を切った激流のように、その小さな犬の器へと逆流してくる。
(…やっと、来たか…! …この時を、待ってたぜええええええええっ!)
玉座の間。
モルフェとバザルトが、その後始末をしようとしていたその時。
彼らが立っていたその床全体が、凄まじい地響きと共に震え始めた。
「…なっ!? …なんだ!?」
バザルトが、驚愕の声を上げる。
リディアが落ちていった、あの崩落の穴。
その瓦礫の奥深くから。
ありえないほどの膨大な闇の魔力が、まるで火山の噴火のように、噴き出してきていた。
「…この魔力は…!」
モルフェの蛇のような瞳が、初めて、本気の「驚愕」と「歓喜」に染まった。
「…フフフ…。…そうか…。…そうだったのですね。アビス様。…あなた様の本当の狙いは…!」
―――ドドドドドドドドオオオオオオオオオオオン!!!!
玉座の間の床全てが、爆発四散した。
凄まじい魔力の奔流と共に、宙に舞う瓦礫の中から、一つの人影がゆっくりとその姿を現した。
銀色の長髪。
血のような赤い瞳。
その手には、意識を失ったリディアを、小脇に抱えている。
最恐の魔人、アビス。
彼が、ついに、その真の姿を取り戻したのだった。




