恋心
なんだかんだで補習は何も起こらずに終わった。
今日は綾瀬は他の友達との予定があるらしく、俺は今度こそ暇になっていた。そりゃそうだよな。あれだけ可愛くて人気な彼女に友達がいない訳がない。なんなら、俺と一緒にいていいのか?と思う程だ。
暇だということはもちろん、凛介を呼ぶしかないだろう。俺はこう見えて何もしないのがあまり好きではない。いや、綾瀬と会ってからそういう体質になってしまったのかもしれない。それぐらい彼女の登場は俺の中で大きいものになっていた。
早速凛介に連絡を入れる。すると、凜介は間もなく到着した。
「yoyo、俺になんか用かyo?」
「とりあえず昼食いに行こうぜ」
「分かったyo!どこ行くんだyo!」
「ラーメンでも行くか」
そう言って着いたのはこの前綾瀬と言った二郎系のラーメン屋だ。
「ここ、凜介は来たことあるか?」
「いや、ないけど、お前こんなとこ来るんだな」
「まあな」
俺は凜介に悪戯してみることにする。
「お兄さん、ニンニクどうする?」
俺は小声で凜介に、
「全マシマシって言えばいいぞ」
「普通盛りで!」
予想してない凜介の回答に俺はちょっと驚く。
「お前、そんなのに俺が引っかかると思ってんのか?」
失敗したことに少ししょんぼりする。
「知ってんのかよ」
「知ってるも何も、知らんわけなくね??笑」
なんだよ、俺がバカなだけか?
ラーメンが届き食べ進めていると、凜介が口を開いた。
「お前、最近急に明るくなったよな」
「何を急に、気持ち悪い」
「気持ち悪いってなんだよ。前までお前、今にも死にそうな、生きる希望なさそうな顔してたのに、最近生き生きしてる」
「ふーん」
まあこれも綾瀬のお陰か。と心の中で呟く。
「何?お前、遂に女でも出来たか!?」
俺はビクリとした。頭の中には綾瀬がポンっと浮かんだ。
「いやっ、ちがっ…」
「まぁ、顔だけはいいもんなぁ。応援するぜ?」
…綾瀬はどんな思いで俺と過ごしているのだろうか。そんな疑問が俺の中には出てきた。
いや、まだ出逢って数日だろ?恋心なんて芽生える訳がない。
ラーメンを食べ終えると、俺らはゲーセンに向かった。凜介はUFOキャッチャーに廃課金して手に入れたぬいぐるみを大事そうに抱えている。俺は金欠なのであまり遊ばなかった。
その後も凜介に振り回されるようにあちこち歩いていると、聞き覚えのある声が後ろから。振り返ると、そこには綾瀬とその友達たちの姿があった。
恐らく、向こうは気づいてなさそうだ。俺は凜介といい、綾瀬の友達といい、ちょっと気まずいので気づいてないふりを突き通した。
…でも気になる。距離が離れた後も偶然を装い近くに行くと、その度にチラチラと綾瀬の方を見ていた。
しかし、敏感な凜介はそれに気づいていたようだ。
「おい、もしかして綾瀬さんのこと好きなのか?」
「いやっ、そんなことはないだろっ」
案の定、声がひっくり返った。そんな自分にびっくりする。
「もしかして、図星ぃ〜??」
「いや、それはないだろ。だって…」
「だって、なんだって〜?」
「だって…」
うまく言葉が出てこない。なんだろう、この気持ち。
「まぁ、悪くは言わないがやめとけ。あれは色んな男共が狙ってる。とやかく言われるのはお前だぞ?」
「…」
確かに、俺みたいな根暗な男と一緒にいるなんて、広まったら綾瀬にまで良くない噂が広がるかもしれない。次からは少し距離を置くか…。
「あれー?偶然だねぇ〜」
そう言ったのはさっきまで遠くにいたはずの綾瀬だった。気付かぬうちに近くまで来ていたようだ。
「あれ、お前、綾瀬さんと知り合いなのか?」
「いや、綾瀬とは…」
「そうなんだよ!仲良しこよしのマブダチなんだよ!」
「マジか!お〜い〜、やるじゃん!」
凜介はからかうように肩をぶつけてくる。
「あはは…」
「初めまして、かな?黒木凜介です。綾瀬結生さんですよね?こいつから色々聞いてます!」
「本当ですか!ありがとうございますぅ!」
「一人なの?」
「いや、友達と来てたんだけどさっき別れたとこ!」
「そうなんだ!」
ここで凜介が要らない気を利かせた。
「おっと、この後塾が入ってるんだった!」
そう言って俺にウインクをして「それじゃ!」と走って帰ってった。
「いや〜、面白い人だね!凜介くん」
「まったく、困った奴だよ」
「そういえば午前ぶりだね!君たちも遊んでたんだ!」
「そうそう、この前のラーメン屋も行ったんだ。」
「そうなんだ!ちゃんとコールできた?笑」
こんな風に今日の出来事をお互いに話し合った。
この時、俺の胸の鼓動が早くなっていることに、俺は気が付いていた。
時計はもう7時を回っており、俺らは帰ることにした。駅に向かう途中、事件は起きた。
服屋の前を通った時、綾瀬はある服に一目惚れしたのか、足を止めて眺めていた。俺は「置いてくぞ」と前に足を進めた。しかし、様子がおかしい。いつまで経っても綾瀬が来ない。声もしない。振り返ってみるとそこに綾瀬の姿はなかった。
どれほど走り回っただろうか。俺は焦った。店は明かりを消し始め、街には月明かりと不気味な街頭だけが輝いていた。
すると、どこかで俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。声を辿ると、そこは薄暗い路地だった。さらに耳を澄ますと、ドタドタという音と、男の声が聞こえる。俺は全速力で走る。
遂に俺は綾瀬を見つけた。誘拐犯であろう、男共がそこにはいた。綾瀬は無事なようだ。
「おい!そこで何してる!」
「やばい、見つかったぞ!」
幸い、男共は襲ってくることはなく、逃げていった。後を追いかけようとも思ったが、今は綾瀬が先だ。
「おい、大丈夫か!?」
綾瀬は泣いていた。そして俺の胸に飛び込んできた。
「こわかったよぉぉぉーーー!!!!!」
俺は優しく腕を背中に回し、慰めるように何度も大丈夫だと言い続けた。
そうだ。綾瀬は天真爛漫でいつも元気だからあまり意識しなかったが、一人の女の子なんだ。怖いものは怖いんだ。
そういう当たり前のことに気付いたのと同時に、もう一つ、気付いた事があった。俺はこの子を一生をかけて守りたいと思ってしまったんだ。騒がしいけれどつまらない日々に光を当ててくれ、俺を振り回すけど楽しませてくれる綾瀬のことが、俺は、どうしようもなく好きなんだ。
こんにちは!こんばんわ!詩姫です!ep.4を読んで頂き、ありがとうございます!これからもぼちぼち投稿していくので、楽しみにして頂けたら嬉しいです!では!