非日常の幕開け
補習後、帰ってもどうせ暇なので近所のファミレスで時間を潰していた。今日が土曜日ということもあり、ファミレスは子連れの家族や近所の高校の生徒で賑わっていた。その雰囲気が俺はあまり好きではない。静かにして欲しい。
隣には茶髪で左耳にピアスを付けている、いかにも頭の悪そうな不良少年が座っている。
「7月は結構バイト代入ったからな、たらふく食え!」
「我が校はバイト禁止な気もするが、遠慮なく。これとこれと、あっ、これも…」
「少しは遠慮する姿勢を見せてくれてもいいだろ」
こんな見た目だが、こいつは補習に来るような奴ではない。こいつ、黒木凛介はかなりの優等生だという噂は結構有名だ。実際、一緒に過ごしていて知的だと感じる事は度々ある。
今日も次の補習に備えて勉強を教えてくれという理由を付けて呼んだ。もちろん、建前だ。本音はただの暇潰し。
「お前、期末でまた赤点取ったんだって?真面目な顔してんのに案外バカなとこあるよな」
「うるせぇよ。凛介こそなんで勉強してないのに点数取れるんだよ。」
「俺は勉強してない訳じゃないもんね〜」
凛介はベーっと舌を出して挑発的な顔でこちらを見てくる。
こんな風に、凍らせたスポーツドリンクの最後の方くらい薄い内容の話をしながら時間は過ぎ、時計は8時を回った。
「ふぅー、もう腹いっぱいだ〜。お前はもういいか?」
「俺もお腹いっぱいだ。ありがとな、凛介。」
「いえいえ」
辺りは薄暗くなり始めたので、暗くなる前にと俺らはファミレスを後にし、駅へと足を進めるた。
その途中、見覚えのある、踊り出しそうな少女の姿を見た。しかし、あの太陽のような顔には少し、雲がかかっているように見えた。
「どうした?おっ、あれって、綾瀬結生じゃね?」
「なんだ凛介、知ってるのか?」
「知ってるも何も、学年一の美少女だぜ?サッカー部エースとか野球部のキャプテンとかが告白してもこっぴどく振られたんだとか…」
「ふーん」
驚いた。顔は整っていると思っていたが、学校では結構有名人なのか。そんな人を知らなかった俺ってどんだけ人に興味無いんだよ。まぁ、無いけど。
「頭は結構バカらしいけど、それが彼女の明るくて着飾らない感じとマッチして愛嬌がありすぎなんだよなぁ〜」
「なんかあまり元気そうに見えなくないか?」
「ん〜?そうか?」
気のせいか?…まぁ、いいか。
そんなこんなで駅に着き、凛介とは別れた。
家に着くと、母が晩御飯を作っていた。
「おかえりー、遅かったね」
「ただいま母さん、ちょっとね」
「まったく、そんな遊び回って。あまり人間には関与し過ぎないようにしなさいね」
「分かってるって」
そう言い、俺は自分の部屋がある2階へ上がった。
非現実的なことに、俺の家族は皆、吸血鬼の血を引いているらしい。とは言っても、コウモリになったり出来ないし、太陽が弱点な訳でもなく、その能力のほとんどを失っている。強いて言うなら、不老不死ぐらい。つまり、死なない。まぁ、不老と言っても40歳くらいまでは普通に老化するけどな。
その事を知ったのは俺が小学6年の修学旅行の時だ。
旅行先で俺は事故った。が、不思議なことに俺の身体は瞬時に再生、死ぬことはなかった。その時に母からその事実を教えられた。
それとは別に、こんなことも言われた。
「他のお友達にこのこと言ったらダメだからね。それともう1つ、あまり深く人間に関与しないようにね」
「分かったよ」
後者のことは、何故そう言われたのか分からないが、母はいつも「そのうち分かる」と言う。
…とりあえず明日は朝から部活があるから早めに眠るか。
俺は晩御飯を食べた後、やるべき事をやってからベッドに入った。
ふとスマホを見ると綾瀬から一通の「よろしく!」の文と可愛げなスタンプが。とりあえず、「よろしく」とだけ送って今日は眠った。
翌朝、スマホを開くと画面には9と3と0の文字…9時30分だ。俺は遅刻を悟った。ヤバい、部活に遅れる…!急いで支度をし、全速力で学校に向かう。
先輩に怒られる!…と思ったが、部員は俺1人だったと思い出し、ちょっと虚しくなる。
「遅れました!」
と勢いよく言ったは言いものの、顧問の先生は居ないようで、膝を着いた。が、そこにはとんでもない人物が。
「遅いぞ!」
びっくりして顔を上げると、そこには綾瀬の姿が。
「なんだ、またあんたか。こんなとこで何してる?ここはオカルト研究部の部室だぞ。」
「そんなこと知ってるよ〜。あと私の名前はお前じゃなくて綾瀬結生な???笑」
「はいはい、綾瀬。何でここに居るんだ?」
「何でって言われても、何を隠そう、今日から私もオカルト研究部員なのだよ!」
「は?」
何言ってんだ?そんなの一言も聞いてないぞ?
すると部室のドアが開き、部顧問の高橋先生が入ってきた。
「あっ、高橋先生〜、おはよーございます!」
「おはよう、綾瀬さん。」
「あの、先生!今日から綾瀬がオカルト研究部に入部するって本当ですか?」
「本当だよ!笑言い忘れてた笑」
そう言って先生は舌を出してウインクする。いい歳してんのに何してんだこの先生。
「ということで、今日からオカルト研究部は部員2人で活動していきまーす!綾瀬さんの面倒見てあげてね?」
そう言って先生は「仕事があるから!」と部室を後にした。
「やっ!昨日ぶりだね!改めまして綾瀬結生です!よろしくお願いします!」
綾瀬はそう言って深くお辞儀をした。
「こちらこそ、よろしく」
俺は軽く活動の方針について説明をした。簡単に説明すると、ネットの記事や図書室にある本を用いて各々好きなオカルト系の話を調べ、自分なりに好きな方法でまとめていくというものだ。
「ところで、なんで綾瀬はオカルト研究部に入部したんだ?」
俺はこんな質問をした。するとその回答はあまりにも…バカらしかった。
「どうしたらずっと死なずにいられるのかな〜なんて思ってぇ〜」
「バカか、死なないなんて無理難題だろ。」
「うっさいなぁ〜、理由なんて人それぞれでいいんだもんね!」
そう言って、ふんっとそっぽを向く。子供かよ。
「そういう君は何で入部したの?」
綾瀬の質問の回答に、俺は一瞬躊躇った。
理由がない訳ではない。理由は単純だ。別に知りたいとかではないが、吸血鬼について何か知ることが出来るかもしれないと思ったからだ。
だが、それを言うわけにはいかない。母さんとの約束だ。
「うーん、何でだろうなぁ。何となくだな」
「何だそれ?つまんないのぉ〜」
そう言い綾瀬は口を尖らせる。
「まぁ、そういうことだから、綾瀬も好きなの調べていいぞ」
「ちなみに君は何について調べてるの?」
「俺は吸血鬼についてだ」
「へぇ、じゃー私も吸血鬼について調べよー」
「好きにしろ」
そう言い綾瀬は俺が図書室で借りてきた古そうな本を読み始めた。
何分かして、綾瀬が急に叫びだした。恐らく、吸血鬼が不老不死ということについての記載があったのだろう。
…そんな大層な事言ったって別に驚きはしない。しかしこの女、オーバーリアクション過ぎるだろ。
「えぇぇぇぇ!!!!吸血鬼って不老不死なの?!」
「馬鹿かあんた、当たり前だろ」
「確かに、言われてみれば…そんな気がしなくもなくもなくもなくもない」
「どっちだよ」
少女は悪戯な笑みを浮かべながら呟く。
「永く生きられるって、どんな感じなのかなぁ」
「それはそれで大変だと思うぞ」
「それはそうなんだけど、やっぱり永生きっていいじゃん?」
「そうでもなくないか?」
「そうでもあるよ!命ってね、呆気ないけど、それでいて尊く儚いものなんだよねん」
「…そうか」
俺はこうとしか言えなかった。今までで一度も身近な人の死を体験したことがないからだ。俺の家族は皆死なない。
「でもそんなこと考えるのに綾瀬はまだ早いと思うぞ?今にも踊りそうなくらい元気に見える」
「ほんとにそう見える?」
「ほんとにそう見える」
「…うれしいなぁ」
まただ。いや、今度は何となくだが、また雲がかかったような気がした。晴れてるのに曇っている、そんな感じ。
なんだかんだで綾瀬にとっての初オカルト研究は無事に終わった。
ここで、綾瀬はこんな提案をした。
「ねぇねぇ、この後ご飯食べに行かない?」
「ご飯?俺ら昨日知り合ったばっかりだよな?」
「別に友達であることにいつ知り合ったかなんて関係無くない?笑一度でいいから学校帰りにラーメン食べに行って見たかったんだよね〜」
…正直、ラーメンは好きだ。
「ラーメンか、いいな」
「でしょ!じゃー、行こう!」
家族と凛介以外の人とご飯を食べに行くのは初めてだ。それに、凛介以外に友達(?)が出来たのも初めてだ(凛介って友達なのか?)。
とりあえず、行くか。
こんにちは!こんばんわ!詩姫です!ep.2を読んで下さり、ありがとうございます!これからもぼちぼち投稿していくので、楽しみにして頂けたら嬉しいです!では!