綾瀬結生
ーー中世、ヨーロッパ。人々は皆、恐れているものがあった。「ヴァンパイア」、いわゆる、「吸血鬼」だ。そして、そう呼ばれる者達は不老不死、すなわち死なない。
…そんな大層な事言ったって別に驚きはしない。しかしこの女、オーバーリアクション過ぎるだろ。
「えぇぇぇぇ!!!!吸血鬼って不老不死なの?!」
「馬鹿かあんた、当たり前だろ」
「確かに、言われてみれば…そんな気がしなくもなくもなくもなくもない」
「どっちだよ」
少女は悪戯な笑みを浮かべながら呟く。
「永く生きられるって、どんな感じなのかなぁ」
紫苑が咲き始める前の8月、今日から高校最初の夏休みだというのに俺は期末テストの補修を受けに学校に来ていた。まったく、めんどうだな。
「失礼しまーす」
そう言って教室のドアを開けると、端の席に先客が。…この人もか、可哀想に。
教科書を開いてどのくらい経っただろうか。少し小腹が空いてきた頃、目の隅に人が立ったのが見えた。いいなぁ、もう帰れるのか。
「ねぇねぇ」
……ん?
「ねぇってば」
……俺??
一時の沈黙が続き、俺じゃなかったと思った瞬間、弾けるような声が教室に響いた。
「わっ!!!!!!!」
「っ!!!」
顔を覗き込んできた。びっくりしたな、誰だ?
「よかったぁ〜、眠ってるのかと思っちゃった〜」
「すまない、俺じゃないかと思って」
「ここのクラス、私と君しかいないじゃん笑」
そう言って、この女はケラケラと笑っている。なんだ?この今にも踊りだしそうな女は。
「ちょっとここの問題教えてくれないかな?」
なんだ、そういう事か。
「ここはこの式をxに代入して…それでこうすれば解けると思う」
「なんだ簡単じゃん!ありがとね!」
一息ついたのも束の間、
「よいしょっと」
「どうした?」
「せっかくだし隣に座ろうかなと思いまして」
「…まぁ、いいか」
どうせ教えてもらうもん教えてもらってすぐにどっか行くだろ。そう思っていた。が、この女、ひっつき虫かよ。
そうして、ずっと隣にいるまま、申の刻を迎えた。片付けをしている頃、先に口を開いたのは彼女だ。
「そういえば君、名前は?」
俺は軽く自己紹介を終えた。今度は俺が聞くのが性だろう。
「あんたは?」
「私は綾瀬結生。ゆいちゃんって呼んでね♪」
「わかった。綾瀬、よろしくな」
「もぉぉ、ゆいちゃんって呼んでよ〜…まぁ、よろしくね!あ、そうだ!せっかく仲良くなったし、LINE教えてよ!」
…こいつ、距離感バグってんのか?それとも最近の若者はこんなもんなのか?正直教えたくはなかったが、俺は押しに弱いのか、流れでLINEを交換してしまった。そういうところだよな、俺。まぁ、連絡することも無いだろうけど。
「ありがと!…もうこんな時間か、病院行かなくちゃ!バイバイ!」
風邪でもひいているのか?そうは見えないが、まぁ、いいか。
「あぁ、またな」
綾瀬は見えなくなるまで手を俺に振っていた。すると、途中で壁にぶつかった。前見ろ。
…まったく、騒がしい女だったな。教室には蒸し暑い夏特有の匂いと外で鳴く蝉の声だけが残っていた。
彼女のようないわゆる「陽キャ」とは無縁だと思っていた。しかし、今日の出来事は綾瀬との関係の第一歩であった。
紫苑が咲き始める前の8月、俺とこの女、綾瀬結生の短いようで永い、呆気ないようで儚い31日が始まった。
初めまして、今回初めて小説を書く詩姫です。まずは読んで頂きありがとうございます!よくある恋愛小説っぽい感じですが、1味、いや、0.7味くらい違う感じに仕上がる予定なので、今後の連載を楽しみにしていただけたら嬉しいです!(笑)そんなに沢山は連載しないと思いますが、ぼちぼち投稿していくので、是非、読んでください!