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「ねぇ、あれが噂の……」
「あぁ、大口叩きの……」
翌日には話は回るところまで回ったようですっかりララは身の程を弁えず大口を叩いた自惚れ屋という認識をされていた。
なにも分かっていない。
事態はもっとシンプルだ。シンプルに頭がおかしいだけなのだ。
「ねぇハイト、お腹が空いたわ。パン買って来なさいよ」
それ故に、当人はまるで気にしていないような素振りを見せる。
向けられる視線も嘲笑も気づかないようにいつものように手首を引いて不適な笑みを浮かべて横暴に興じる。
そうして小さな世界だけを見る。
「土地勘がないので少し待ってもらえますか?」
「……じゃあいらない」
「分かりました」
ムッとした顔をして不機嫌さを隠そうともせずにララは言う。
ある程度予想のついていたその返答に答えると会話は途切れた。
会話が途切れてしまえばどうしたって周囲から向けられる好奇の視線(悪意を伴った視線とも言える)や会話(悪口とも言える)が肌にささる。
直接自身に向けられたものではないとはいえさすがに鬱陶しいなと感じていると、どうやらそれについては同意見だったようで視線を向けられている張本人は一瞬俯くとキッと顔を上げてこちらを見て言った。
「ハイト、ちょっと行くわよ」
「……どこにですか?」
「決まってるでしょ。魔王をぶっ殺しに行くのよ」
「えぇ……」
何がどうなってそうなったのかは知らないがいつにもまして血の気が多すぎる。
ちょっと血抜きとかしてもらった方がいいんじゃないだろうか。
「うるさいバカ共も、私の実力が分かれば黙るでしょ?」
「……まぁ。たしかにそれはそうですけど……」
なるほど、どうやらララにはララなりの考えがあったらしい。
まるで何の考えもなしにストレス発散で魔王を血祭りにあげようとしているのだと思ったのはさすがに失礼だったかもしれない。
「で、魔王はどこにいるのよ」
「えぇ……」
やっぱり血抜きはしておいた方が良いかもしれない。
「えっと、魔王は魔王城にいます。でも、結界が貼られているので行ったところで入れませんよ。まずは魔王軍の四天王を倒さないと」
「なによそれ。めんどくさい。結界なんて壊せばいいじゃない」
「話聞いてました?」
いや、分かっている。
聞いていてこれなのだ。これがララという化け物なのだ。
そして、これが言い出したらもう止まることはない。
魔王城、行きたくなさすぎる。
「ところで、せっかく王都に来たのだからどこか美味しいお店でも──」
無駄と知りながらもなんとか話を逸らせないかと口を開いたその時──爆音が響いた。
「……っ!?」
突然のそれに反応すらろくにとれず、音の原因を探ろうと周囲を見渡す。
原因はすぐに分かった。そして、分かるべきではなかったと後悔した。
「……貴様が聖剣に選ばれた勇者か。小娘」
筋骨隆々の大男。ただ一点、人間にあるはずのない山羊のような角が生えていることを除けば。
それがララに向かって言葉を投げる。
理屈よりも先に本能が理解した。
目の前の男が魔王軍の幹部であると。
「我が名はガルド。魔王軍幹部にして魔王軍最強の戦士。厄介な勇者が育つ前に刈り取らせてもらおう」
自身の本能が正しかったことを理解して、無意識のうちに手は隣にいたララの腕を掴んでいた。
逃げようとしたのか、あるいは供物として差し出そうとしたのか、自分の行動の意味が分からない。
ただ、覆しようのない事実として一つ起きたのは──
「ふーん、あっそ。邪魔よ」
聖剣の一振りが目の前の最強を名乗った戦士を胴体から真っ二つに切り裂いたという事象だった。




