1
「ハイト!今日も付き合いなさい!」
高圧的な声が響く。
声の主の少女、ララは堂々とした態度で腰に手を当てて立っていた。
「…………はい」
僕、ハイトは内心でため息をつきながら声に応える。
村長の娘である彼女の誘いを断ることなど一村民に過ぎない僕にできるはずもない。
前世からの教訓だ。長い物には巻かれよ、さもなくば全て失う羽目になる。
……もっとも、そんな教訓なんてものがなくてもどうしたって僕にララの誘いを断ることなどできやしないのだけれど。
僕が生まれたこの世界には魔法や魔物といったファンタジーが当然のように存在している。
そして、ララの両親はとても優秀な冒険者だった。
ララはそんな優秀な二人の才能を確実に受け継いでいるようで、生まれながらにして異常な才能を持っていた。
魔法も剣術も、大人の冒険者すら容易く凌駕する能力。そしてそれを鼻にかけて、周囲の人間を見下しまくっている。
つまり、何が言いたいかというと、
「……あの、実は今日は少し用事が」
「は?ハイトの癖に私に意見するつもり?私より優先する用事ってなに?」
「……」
断ったところで、どのみち力づくで同行する羽目にはなるということだ。
「今日は森の奥のオーガを倒すところを見せてあげるわ!あんたはいつも通り荷物持ちしながら見てなさい!」
「……はい」
掴まれた手首をなんとなしに見つめる。
彼女が本気で僕のことを掴んだとしたら、僕がその手から逃れる術はない。というかたぶん手首の骨が玩具みたいに砕ける。
物理的に僕とララにはそれだけの力の差があるし、精神的な話をするのであればどうして何の才能もない凡人が才能溢れる美少女の自分の誘いを断る意味が分からないと本気で思っている。
──はっきり言って、頭がおかしい。
村長の娘で、才能に溢れた彼女を誰も叱らず、甘やかしまくった結果がこれだ。
優秀な自分は周囲から手放しで称賛されるべきで、何を言っても受け入れられると勘違いをしている。
過度にちやほやと自尊心と承認欲求を肥大化させるだけさせておいて、扱いきれなくなった彼女を村の大人達はいつからかやんわりと無視するようになった。
散々自慢と無茶な命令に付き合わされてきた子供達は口にこそ出さないが、当然のように彼女のことが嫌いだ。
そして、ララ本人も自分がうっすら嫌われているという自覚はあるものの、どうして嫌われているのかが本気で理解できていないしそれを誰かに尋ねるには彼女のプライドは大きくなりすぎた。
だから、村で唯一自分を無視しない僕に妙に絡んでくる。
魔物の討伐に付き合わされて、直接言葉にはしないが褒めろと言葉以外の全てで要求してくる。
改めて考えても酷い貧乏くじを引かされているのではなかろうか。長い物に巻かれておけば、今度はうまくいくと思ったのに。
「君達、少しいいかい?」
人生設計に一抹の不安を覚えながら半ば引きずられるように手を引かれて歩いていると、馬車の止まる音が聞こえた。
視線を向けると馬車から身なりの良い男性が下りてきて声をかけ、そして続ける。
「村長のところに案内を頼めるかな?」
男性は王都からの使者だった。
要件はララが聖剣に選ばれたため勇者として魔王を討伐してほしいというもの。
「で、明日には王都に行くことになるから準備しておきなさい」
夜、当然のようにアポなしで我が家に押し入って、紅茶のカツアゲをしながら一通りの説明はし終えたとばかりにララはそう言った。
その言葉にも態度にも疑問を感じている様子は一切なかった。
やっぱり、人生設計を間違えたかもしれない。




