9 約束
「3日前にドナーベンで我が国の民が殺された・・・。荷馬車が王族の馬車に衝突したことに腹を立てた第三王子が、その場で一家を殺害したらしい」
団長は報告書を読み上げるとため息を吐いた。
「なんという酷いことを・・・」
「こちらから抗議文を出して王子の引き渡しを求めてはいるが、ドナーベンの国王は難色を示しているそうだ」
王族だからといって何をしても許されるのか?
「まだどうなるかはわからないが、引き渡しが行われる場合は騎士団を派遣することになる。お前もそのつもりでいてくれ」
「わかりました」
外交や遠征の際に派遣されるのは私が所属する第一騎士団だ。
もしかしたら近々ドナーベンに行くことになるかもしれないな・・・。
団長の執務室を出た私は、気持ちを切り替えるためにひとつ息を吐いた。
このような報告は日常茶飯事で、すべてに心を砕いていたら騎士団ではやっていけない。
この世は不条理なことばかりだな・・・。
訓練場に戻ろうとすると、鎧を着けたキースが走ってきた。
「ネイト先輩!第二騎士団との合同練習が始まりますよ!」
「あぁ。行こう」
廊下を歩いていると、キースが窓の外を見て顔を綻ばせた。
「見てください。桜が咲いてますよ」
桜・・・もうそんな季節か。
船の事故の知らせが届いたのもこの頃だったな。
あの時は桜どころではなかった・・・。
「先輩はレイナさんとお花見しないんですか?」
「レイナと?」
「だって女性は花を見るの好きじゃないですか」
「そうなのか?」
「そうですよ?ネイト先輩って・・・意外とモテなさそうですね」
なんだその目は。
「悪かったな」
しかし花見か・・・。
誘ってみてもいいかもしれないな。
夕食を終えて皿洗いを引き受けた私は、ふとキースの言葉を思い出してレイナを花見に誘ってみた。
「え?お花見?」
「あぁ。城の東側に国立公園があるんだが、池の周りが桜並木になっていてな」
「そうなの?いいわね!行きましょう!」
洗った皿を渡すと、レイナが綺麗に拭き上げて棚に戻した。
「来週末には満開になるだろうから、休みの日に行ってみよう」
「わかった!サンドイッチでも作って持って行こうかな?」
「あぁ。外で食べたら格別だろうな」
「ふふ、楽しみね!」
良かった。
喜んでくれているようだな。
「ネイトから誘ってくれるなんて初めてじゃない?」
「そうか?」
「そうよ!買い物以外で二人で出かけたことないじゃない」
「そうだったか・・・」
もしかしてキースが言っていた「モテなさそう」というのはこういうところか?
それからレイナは楽しそうにその日の装いや持っていく物を考えていた。
こんなに喜んでもらえるなら、これからはもっと二人で出かける機会を増やすか。
私は彼女の笑顔を見ながらそんなことを考えていた。




