8 ネイトの同僚
ネイト遅いわね・・・。
時計の針はすでに0時を回っていた。
訓練の後に同僚と飲むとは言っていたけど、こんなに遅くなるとは思わなかったわ。
もう先に寝てようかな、とソファに横になると、玄関の開く音がした。
あ、やっと帰って来た。
「レイナすまない」
「どうしたの?」
玄関のランプをつけると、ネイトが赤髪の男性を肩に担いでいた。
「こいつが酔い潰れてしまってな。仕方なく連れて帰った」
「そ、そう」
置いて帰るわけにもいかないものね。
「じゃあベッドに寝かせてあげて。すぐにシーツを取り替えるから」
「あぁ。頼む」
彼をベッドに寝かせた私たちは、静かにキッチンへと移った。
「ネイトお酒臭い・・・」
「すまない。こんなに遅くまで飲むつもりはなかったんだが」
「盛り上がっちゃったのね?」
「あぁ。あいつに付き合うといつもこうなる」
「今のうちに解毒薬を飲んでおいた方がいいわよ?」
「解毒薬?」
「えぇ。万能な薬でね。アルコールの分解も早めてくれるから、これを飲んでおけば後に残らないの。一口だけでも飲んでおいた方がいいわよ?」
そう言って茶色い液体の入った小瓶を渡すと、ネイトが眉間に皺を寄せた。
「見るからに苦そうだな・・・」
「ふふ。ネイトは苦いの嫌いだもんね」
「あぁ。だが一口いただこう・・・。うっぷ」
「あははっ。吐き出さないでよ?高い薬なんだから」
苦味に耐えられなかったのか、ネイトはすぐに水で口をゆすいだ。
「彼にベッドを貸しちゃってるし、ネイトがソファを使う?私は床で大丈夫だから」
「いや、私はベッドの下で寝るから大丈夫だ」
「そう?腰が痛くならない?」
「ははっ。そんなにやわじゃない。シャワーを浴びるから、君はもう寝てくれ」
「わかった。おやすみ」
「うぅ・・・」
なんだか寝苦しい・・・。
うっすらと目を開けると、赤い髪の毛が視界に飛び込んできた。
え??
なに??
気が付くと、ネイトの同僚の男性が私の上に覆い被さっていた。
「きゃあっ!」
どうして彼がここで寝てるのよ??
思わず押し退けると彼がソファの下に落ちてしまった。
「いてぇ〜・・・」
やっちゃったわ・・・。
「あ、あの」
私が声をかけると、彼が驚いて振り向いた。
「へ??あんた誰・・・ってその目」
あっ!
朝だから瞳の色が戻っちゃってたわ!
私が慌てて顔を隠すと、ネイトが広間に入ってきた。
「レイナ!どうしたんだ??」
「あれ?ネイト先輩??」
「キース!お前なんでここにいる?」
「それは俺が聞きたいですよ!」
「お前が酔い潰れたから私の家に連れて来たんだ」
「え?そうだったんですか?」
キースと呼ばれた彼はバツが悪そうに頭を掻いた。
「で?寝室で寝ていたお前がなぜここにいる?」
「え??いや・・・何もしてないですからね??」
「レイナ、本当か?こいつに何もされてないんだな?」
「う、うん。気が付いたら彼が私の上に・・・」
「キース、どういうことだ?」
「いや、わかんないです!俺寝ぼけてたのかも!トイレに行ったような気はするんですけど」
それを聞いたネイトが呆れたようにため息を吐いた。
「レイナすまない。私がこいつを連れて来たせいで・・・」
「だ、大丈夫よ。びっくりしただけだから」
「ネイト先輩、彼女誰ですか?恋人ですか?」
な、変なこと言わないでよ!
「ち、違います!私たちはただ同居しているだけで」
「先輩そうなんですか?でも彼女・・・魔女さんですよね?」
魔女・・・。
面と向かって言われたのは久しぶりかも。
「魔導師だからなんだ?一緒に住んではいけないのか?」
「いや、そういうわけじゃないですけど・・・」
「キースさん!このことは秘密にしておいてください。私はネイトの従姉妹ということにしてここに住まわせてもらってるんです」
「従姉妹?」
「えぇ。瞳の色を変えてここで生活してるの。だから、ネイトが魔女と暮らしてるってことは誰にも言わないでくれる?」
「レイナ、そんなことを気にしなくても・・・」
「そういうことですか・・・わかりました。俺口だけは堅いんで、誰にも言いませんから安心してください」
「ありがとう・・・。あ、お腹すいたでしょ?朝ごはんを作るから、二人とも食べてから出勤してね」
私は話を切り上げてキッチンへ逃げた。
夜中に目薬をさしておくんだったわ・・・。
それから朝食をとりながら話してみると、キースさんは気さくでとても話しやすい人だった。
彼はネイトの二歳年下の24歳で、ネイトが一番可愛がっている後輩なのだとか。
ネイトの婚約者が亡くなってから同僚のみんなで心配していたようだけど、最近はネイトがとても元気になったと騎士団でも噂になっているそうだ。
「レイナさんのおかげだったんですね!ネイト先輩のお世話をしてくれてありがとうございます!」
「いや、お世話になってるのは私の方だから」
「俺また遊びに来ていいですか?レイナさんのご飯めっちゃ美味いんで」
「キース、調子に乗るな。レイナの料理をただで食べられると思うなよ?」
「ははっ!先輩怖いっす!」
良かった・・・。
周りの人たちが認めるほどネイトは元の姿に戻ってきてるんだわ。
このまま彼女の死から立ち直ってくれたらいいけど・・・。
「キースさん、いつでも食べに来てくださいね」
「ほら!レイナさんは良いって言ってるじゃないですか!」
「レイナ、こいつは甘やかすとだめなタイプなんだ」
それから本当にキースさんは、時々夕飯を食べに来るようになったのだった。




