6 決断
それからあっという間に二週間が過ぎた。
ネイトと過ごす日々は穏やかで楽しくて、傷が癒えてもこのままここで暮らしていけたらいいのに、とふと思ってしまったけれど。
いつまでもネイトに甘えておくわけにはいかなかった。
私は夕食を終えたタイミングで話を切り出した。
「ネイトありがとう。明日家に帰るわ」
「もう帰るのか?」
「えぇ。傷も塞がったし、普通に暮らしている分には大丈夫だと思う」
「そうか・・・」
「本当にありがとう。今度お礼をさせてね」
「いや。私も・・・帰ったらレイナの料理が食べられるのかと思うと訓練にも精が出た」
「あははっ。じゃあまた機会があったらご飯を作りに来るわね?」
「いいのか?」
「えぇ。この家すごく居心地が良くて気に入っちゃったから、また来るわ」
「気に入ったのか?」
「もちろん!すごく快適だもの」
「そうか・・・」
ネイトはなぜか険しい顔をして黙り込んでしまった。
「どうしたの??」
「レイナ・・・」
「なに?」
「もし君が良ければ、このままここで一緒に暮らさないか?」
「・・・え?」
「これからも君に料理を作ってほしい」
「えっ・・・そんなに私の料理が気に入ったの?」
「あぁ。毎日食べられたらどれほど幸せだろうと思う」
ちょっとやめてよ!
はたから聞いてたらまるでプロポーズみたいじゃない!
・・・ネイトにはそんな気これっぽっちもないだろうけど。
「君はあの店を閉めるのは嫌か?」
「い、嫌ではないけど・・・」
私は別に薬屋をやりたくてやっていたわけじゃない。
私には魔法が使えないから、魔法薬を売って生計を立てていただけで。
「嫌じゃなければ考えてもらえないか?これからは生活費をレイナに渡すから、それでやりくりしてもらえたら・・・」
だからそれ結婚生活なんだってば!
自分が何を言っているのかわかってるの??
・・・・わかってなさそうね。
「本気なの?一人で暮らした方が気が楽なんじゃない?」
「いや。君と過ごしてみてわかったんだ。ずっと一緒にいても窮屈どころか、とても居心地が良かった」
「そ、そうなんだ・・・」
私も同じことを思っていたけれど。
「すぐに返事はしなくていい。店のことも心配だろうから、とりあえず明日は家まで送ろう」
「あ、ありがとう」
次の日、私は久しぶりに我が家に帰ってきた。
それから数日間は掃除や庭の手入れに勤しんでいたけれど、一通り綺麗になってやることがなくなってしまうと、心にポカンと穴が空いたように感じた。
これまでは一人で過ごすことが当たり前だったから特に何も感じなかったけれど、ネイトと過ごす日々を知ってしまったら、急に今の生活が虚しく思えてきて。
何をしても物足りなく感じてしまう自分がいた。
「はぁ・・・」
ネイトの提案を受け入れるべきかしら?
でも結婚前の男女が一緒に住むだなんておかしわよね?
だってもしネイトに好きな人が出来たらどうするの?
その時には部屋を出て行かなきゃならないのよ?
でもネイトってそう簡単には人を好きにならなそうだけど・・・。
そんなことを考えながら悶々とした日々を過ごしていると、一週間ぶりにネイトが家を訪れた。
「体は大丈夫か?不便はないか?」
「ネイトは私の親なの?」
「こんな山奥で一人で暮らしていたら心配になって当然だろう?」
「これまではそんなこと言ってなかったじゃない」
「そ・・・そうだな」
ネイトが気まずそうに頭を掻いた。
「ねぇ、ネイト。一緒に住もうって話だけど、あれって今でも本気?」
「あぁ、本気だ。レイナさえ良ければ」
「そう・・・」
決断するには勇気がいった。
私はこの時すでにネイトに惹かれ始めてしまっていたから。
これ以上一緒にいたら、彼を好きになってしまいそうで怖かった。
でも彼が一緒に暮らしたいと言ってくれるのなら、私には断る理由もなくて。
「じゃあ・・・お世話になろうかな」
「いいのか!?」
「えぇ。あとで後悔したとか言って追い出さないでよね?」
「そんなことするわけないだろう?」
私はこうして、ネイトと王都での生活を再開したのだった。