4 彼の提案
気がついた時には私は治療院のベッドにうつ伏せになっていた。
医師がすぐに背中の傷の手当てをしてくれたようで、一ヶ月もすれば完治するだろうと言われた。
医師が部屋から出ていくと、廊下で待っていたネイトが入ってきた。
「痛むか?」
「えぇ。でも大丈夫よ。麻酔薬を塗ってくれたから」
「そうか・・・。だがその傷じゃ一人で生活するのは無理だろう」
確かに、しばらくはベッドから起き上がれないかもしれない。
「誰か介護をしてくれる人を探してみるわ」
そうは言っても、私にはネイト以外に親しい人はいないのだけれど。
「私ではだめか?」
「え?」
「レイナにはずいぶんと世話になったからな。今度は私に恩返しをさせてくれ」
「お、恩返しだなんて大袈裟よ。無償でお薬をあげていたわけじゃないんだから」
「だが、君と過ごしたことで私は救われたんだ」
「ネイト・・・」
あなたがそんなふうに思っていただなんて知らなかったわ。
「でもあなたには騎士の仕事があるでしょう?」
「あぁ。だから君に王都に来てほしい」
「え?」
「私のアパートで一緒に住まないか?あまり広くはないんだが」
そ、そんなこと急に言われても。
友人とはいえ、いい歳をした男女が同じ部屋に住むだなんて・・・。
それに。
「気持ちは嬉しいけど、私と一緒にいるところを見られない方がいいわ」
私は魔女だから髪は黒いし瞳は赤い。
特にこの赤い瞳は魔導師特有の色だった。
「私も髪は黒いぞ?瞳の色は違うが・・・」
ネイトは綺麗な新緑の瞳をしていた。
「まぁ、瞳の色は隠そうと思えば隠せるんだけどね」
「そうなのか?」
「えぇ。最近は王都に行く機会がなかったから使わなかったけれど、瞳の色を変えられる目薬があるの」
「そんなものがあるのか。私は赤い瞳のままでも気にしないが」
ネイトは外見や人種で人を差別するような人ではないものね。
「じゃあ決まりだな。しばらくはこの治療院で過ごして、退院したら私の家に来てくれ」
「本当にいいの?介護なんてしたことあるの?」
「経験はないが、君を抱えて運ぶくらいは出来る」
「あははっ。力だけはあるものね。イタ・・・」
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫」
それから一週間治療院で安静に過ごした私は、退院して我が家に戻ってきた。
魔物はあの日のうちに討伐されたそうで、安心して帰って来ることが出来た。
魔物に壊された窓は、いつの間にかネイトが木の板を打ち付けて塞いでくれていた。
「必要なものは全部持って行こう」
「そうね。ティーカップも持って行こうかな」
今日はネイトも同行してくれている。
わざわざ馬車も用意してくれて、私が洋服や必要なものをバッグに詰めると、それをネイトが馬車へと運んでくれた。
「じゃあ行こうか」
「えぇ」
私はこうして、この日からネイトと王都で暮らすことになったのだった。