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彼の記憶を消して、この国を去ろうと思います  作者: ぽーりー


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ユキside 幼馴染



俺には出来の悪い幼馴染がいる。

そいつは幼い頃から魔法をひとつも発動出来ないせいで、家族や周りから落ちこぼれ扱いされてきた。

だけど持ち前の明るさのおかげか友達は数人いたようで、学院時代はそれなりに青春を謳歌しているようだった。

ただあいつは魔法が使えないってのに警戒心がなさすぎて、男子生徒たちから自分がどういう目で見られているのかをまったくわかっていなかった。


スカンシュナでは一般の魔導師が緊急時や護身目的以外で人に対して魔法を行使することは禁止されているが、友人同士の遊びで魔法をかけ合うことはよくあることだった。

だから思春期になると、男子たちが魔法で良からぬことをしようとするのは必然で、その時にカモにされるのは防御魔法をろくに使えない女子生徒たちだった。

その中でも一番のカモはやはり落ちこぼれのレイナで、高学年になると下校途中にいたずらをされて泣いて帰って来ることが多くなっていた。

だから幼馴染である俺は仕方なくレイナと下校時間を合わせるようにして、防御魔法を使って毎日一緒に帰ってやることにした。




それから数年後、そんな弱っちいレイナが学院を卒業したらスカンシュナを出ると言い出した。

初めは止めておけと反対したが、もしかしたら魔導師のいない世界の方がこいつにとっては生きやすいかもしれないと思い直して、俺はレイナを送り出すことにした。

それからは俺も仕事に慣れるのに精一杯でレイナのことを忘れていたが、ある日レイドラントで魔女狩りが流行っているということを耳にした俺は、言いようのない不安に襲われた。

まさか被害者の中にあいつはいないよな・・・?

あいつは昔から他人の悪意にまるで気が付かないタイプだし、世事に疎い奴だから魔女狩りが流行っていることすら知らない可能性があった。

レイナの無事を確かめないと気が済まなくなった俺は、すぐにレイドラントへと向かって、間一発でレイナを助けることが出来た。




6年ぶりに会ったレイナの変わりように初めは驚いたが、応募した求人に落ちて凹むレイナは相変わらずの落ちこぼれ具合だったから俺はほっとしていた。

やはり俺しかこいつを守ってやれる奴はいないか・・・。

そう思って俺はレイナに結婚を提案してみたが、何故か逃げられてしまった。

そんなに嫌だったのか・・・?

俺は地味にショックを受けた。

結婚は俺の中ではアリだったが、あいつの中ではナシだったようだ。


帰りを待っていると、レイナが突然玄関から飛び込んできた。

レイナは手当たり次第の荷物をバッグに詰め込みだして、紛争中のレイドラントに行くと言い出した。

行っても何も出来ないくせに、好きな男の無事を確かめたいと決意に満ちた目で俺を見上げてきた。

いつまでも守る対象だと思っていたレイナが、自分の命も顧みずに行動しようとする姿に俺は衝撃を受けた。

やっぱりこいつは変わった。

レイドラントに行って、誰かと出会って変わったんだ。


俺はこいつのためにできる限りのことをしてやろうと思った。

転移魔法で一緒にレイドラントに行って捜索魔法を使うと、レイナの好きな男はすぐに見つかった。

騎士をしているだけあってガタイが良くて顔もまあ悪くはなかった。

立ち居振る舞いからして真面目で誠実そうな奴だし、及第点といったところか。

レイナとそいつが馬に乗って王都に向かうと、俺は紛争中のレイドラントとドナーベンの国境地帯へと向かった。

レイナが安心してこの国で暮らすためには紛争を止めるしかないからだ。

あの男は騎士だから、紛争が続くとまた駆り出されることになってレイナが悲しむだろう。

俺はそこら中にいた兵士と騎士を片っ端から催眠魔法で眠らせた。


祖国へ戻った俺は、魔力が枯渇したことによる禁断症状で20日間入院した。

胸元まで伸びていた黒髪は魔力切れの影響で毛先が白色に変色してしまったので短く切り揃えた。

退院してから数日後、レイナから一通の手紙が届いた。

両国間で和解が成立したことと、俺への感謝の言葉が綴られていた。

やっぱりあいつは気付いていたか・・・。

手紙には色々と落ち着いたら家に招待するとも書いてあった。

どうやら二人は上手くいっているようだな・・・。

レイナはもう二度とこの国に戻って来ることはないだろう。

嬉しいような寂しいような、妙な感情だったが悪くはなかった。

お前がやっと自分の居場所を見つけることが出来たんだから。



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