19 本物の気持ち
それからネイトが髭を剃りたいと言うので、その間に私はご飯を作ることにした。
家にあるもので作ったからパスタだけになってしまったけれど、お風呂から上がって来たネイトは嬉しそうに席についた。
そしてフォークを持ったのだけれど、いつまで経ってもパスタに手をつけようとしなくて。
「ネイト、どうしたの?お腹空いてない?」
「いや・・・」
「他のものを作りましょうか?」
「違うんだ・・・。ただ・・・食べるのが怖くなってしまった」
「え?」
「これを食べたら君がいなくなってしまうんじゃないかと・・・」
「ネイト・・・」
私が記憶を消す薬なんか使ったからトラウマになってしまったの・・・?
「ネイトごめんなさい・・・。もうあんなこと絶対にしないから、安心して?」
私はなんということをしてしまったの・・・。
ネイトがユリアさんのことで立ち直って、やっと食事や睡眠をとれるようになったのに、私があんなことをしてしまったせいで・・・。
「無理して食べないで・・・。私屋台に行って何か買ってくるわね」
そう言って私が席を立とうとすると、ネイトが私の腕を掴んだ。
「大丈夫だ。座ってくれ」
ネイトはフォークにパスタを巻きつけて口に運ぶと、新緑の瞳を細めて微笑んだ。
「美味いな・・・」
「・・・ありがとう」
ネイトごめんなさい・・・。
これからはもっと美味しいものをいっぱい作るわね。
あなたが私の料理を毎日食べたいって思ってくれるように・・・。
食事を終えると、私たちは広間のソファに移った。
ユリアさんがエンファ島に行ったことは王都に帰って来る時に聞いていたけれど、そうなった経緯をネイトは詳しく話してくれた。
私がカフェで二人を見かけた時、彼女がネイトに好きな人が出来たことを告白したらしい。
そしてその時にはもうネイトの中でも彼女は過去になっていたという。
私はそうとも知らずに、二人がまだ愛し合っているのだとばかり思っていた。
あの時ネイトとちゃんと話し合っていれば、私たちはあのまま一緒にいられたのかもしれない。
「そうだ。君に渡したい物がある」
「え・・・なに?」
ソファで待っていると、ネイトが小さな紙袋を持ってきた。
中の小箱に入っていたのは、とても綺麗な金のネックレスだった。
「これは?」
「カフェの帰りに買ったのを覚えている。きっと君に買ったんだと思う」
「私に?」
「あぁ。このルビーが君の瞳にそっくりだから間違いない」
あの日にネイトが・・・?
「正直に言って、まだ君のことを思い出したわけではないんだ・・・。でもきっとこの気持ちは本物なんだと思う」
ネイトはそう言ってネックレスを私に着けてくれた。
「ありがとう」
私が微笑みながら顔を上げると、ネイトが真剣な目で私を見つめていて・・・。
「レイナ・・・私は君を愛している」
そう言って私の前髪を耳にかけた。
すぐに私も愛してるって返したかったけれど、ネイトが私のことを好きだなんて信じられないほど嬉しくて、言葉が言葉にならなくて・・・。
嗚咽を漏らしているとネイトが抱きしめてくれた。
「これからは後悔しないように毎日気持ちを伝える・・・。だから私のそばにいてくれ」
「・・・うん・・・一緒にいる・・・。私も、あなたを愛してるわ・・・」
こんなに心が満たされたのは生まれて初めてだった。
これまでの人生で私は色んなことを諦めてきた。
愛する人に愛されることも・・・。
ネイトはなかなか引かない私の涙を拭って微笑んだ。
「もう泣くな。目が腫れてしまう」
「うん・・・」
それからネイトが同居していた時のことを教えて欲しいと言うので、覚えている限りのことを彼に話した。
そうして話し込んでいると、気が付いた時には就寝の時間になっていた。
「レイナ、続きは明日話そう」
「そうね」
私がシャワーを浴びてソファで寝支度を整えていると、寝てしまったと思っていたネイトが寝室から出てきた。
「まだ起きてたの?」
「あぁ・・・。レイナ、こっちに来てくれ」
「え?どうしたの?」
私はネイトに手を引かれるままに寝室へと向かった。




