2 頼れる友人
それから一週間後、彼はまた私の店を訪れた。
あの薬がよく効いたようで、また一週間分買いに来たというのだ。
「最長で二週間分をお売りすることも出来ますよ?」
「いや、一週間分で結構だ。山に来ると気分転換にもなるしな」
「そうですか・・・。確かに緑を見ると落ち着きますもんね」
「あぁ。こんなところに住んでいる君が羨ましいよ」
「ふふ。実際に住んでみると不便なものですよ?」
「そうか、ははっ。ないものねだりということだな」
一週間前よりだいぶ顔色が良くなったわね・・・。
それから彼は毎週のように店に来るようになった。
そのうち世間話をするようになり、彼が店の雑務を手伝ってくれたりして、半年が過ぎる頃には私たちは親しい友人になっていた。
「すっかり体調も良くなって、お薬ももう必要ないんでしょう?」
「あぁ。食欲も睡眠もよく取れている」
「じゃあもうここには来なくてもいいんじゃない?王都から2時間もかかるのに、毎週来るのは大変でしょう?」
「休みの日はこれといってすることもないしな。こうやって外に出て体を動かしている方がいいんだ」
そう言って彼は額の汗を拭った。
「まぁ私は、ネイトが来てくれた方が助かるんだけどね」
「そうか?少しでも役に立てているのなら良かった」
彼はやはり騎士団に所属しているそうで、見た目通りの力持ちだった。
いつも畑仕事や薪割りを手伝ってくれて、私は大いに助かっている。
今だって家の周りの柵を補強してもらっているところだ。
この山は滅多に魔物は出ないけれど、たまに一角獣などの小型の魔物が出ることがあるので、私は家を丸太で作った柵で囲っている。
ネイトはそれを太くて新しい丸太に挿げ替える作業をしてくれていた。
「こうやって手伝えば私もレイナの手料理が食べられるし、一石二鳥だな」
「ふふ。私の料理が美味しいだなんてあなた舌がおかしいわよ」
「君は自己評価が低過ぎるな。王都で店を出せば繁盛するに違いないのに」
「あははっ。もう笑わせないでよ!」
「本気なんだが・・・」
「あはははっ」
こうやって人と触れ合うのは久しぶりだった。
祖国を出てレイドラントに来てから5年、私はずっとこの山に一人で暮らしてきた。
たまに来る客と話すことはあったけれど、それも月に一度や二度の話で。
まさかこの国で友人が出来るだなんて思ってもみなかったわ・・・。
「今日は食べて帰らないの?」
「あぁ。今日は同僚と飲む約束をしていてな」
「そうなのね。楽しんできてね」
「あぁ。ではまた」
「えぇ。また来週」
私はいつの間にかネイトが来てくれる日を心待ちにしていた。