18 大切な友
王都に着くと、ネイトは私をアパートに降ろして城へと向かった。
ここで待っていてくれと言われたけれど、私は落ち着いて待っていることが出来なかった。
状況次第では、またドナーベンに行くことになるかもしれないとネイトが言っていたからだ。
両手を握りしめながら広間を歩いていると、一時間ほどでネイトが戻って来た。
「ネイト、キースさんには会えた?」
「あぁ。キースも少し前に戻っていた」
「そう。良かったわね」
キースさんに会えたというのに、ネイトの顔色は優れなかった。
「ネイト?」
「レイナ・・・私は少し休んだらドナーベンへ向かう」
「え・・・」
「必ず戻る・・・約束する」
「そんな、危険よ!足だって怪我してるのに!」
「だが誰かが仲間を助けに行かないと」
「だめ・・・だめよ・・・」
やっと会えたのにまた行ってしまうなんて・・・。
ネイトに何かあったらと思うと怖くてたまらなかった。
行って欲しくなくて彼の上着の裾を掴むと、ネイトが私の頬を両手で包み込んだ。
「やっと君に会えたんだ。絶対に死なない・・・。だから私を信じて待っていてくれ・・・」
私を見下ろすネイトの目を見た時にわかった。
これ以上私が何を言っても彼の決意は変わらないのだと。
それなら、私は彼の意思を尊重するしかなかった。
「約束よ・・・?必ず無事に戻って来て・・・」
「わかった。約束する」
そう言ってネイトが私の涙を拭った時。
ドンドンドンッ
誰かがドアを叩く音がした。
ドンドンドンッ
「ネイト・・・誰か来たみたい」
「そのようだな」
ネイトが玄関を開けると、キースさんが飛び込んで来た。
「ネイト先輩!状況が変わりました・・・ってあれ?レイナさん??」
キースさんが目をぱちくりさせていると、ネイトが彼の肩を掴んだ。
「キース、どうしたんだ??何かあったのか??」
「あ、そうでした!先輩、俺たちドナーベンに行かなくてもよくなりました!」
「な、どうしてだ??」
「ドナーベンと停戦することになったんです」
「停戦?」
「はい。国境で戦っていたドナーベンの兵士とうちの騎士たちが全員意識を失って、戦闘不能になったらしいんです」
え??
「原因はわからないんですけど、もしかしたら魔法か何かで眠らされたのかもしれないとの報告が」
まさか・・・。
「それで、近くに駐屯していた補給部隊が仲間の回収に向かったので、俺たちはとりあえず待機することになりました」
「そうか・・・」
じゃあ、ネイトは行かなくても良くなったのね。
良かった・・・。
私がその場に座り込みそうになるのをネイトが支えてくれた。
「大丈夫か?」
「えぇ・・・」
一度に大勢の人を眠らせるなんて、そんなことが出来る魔導師はそうはいない。
きっとユキの仕業だわ・・・。
「それより先輩、レイナさんが戻って来て良かったですね」
「あぁ」
「レイナさんのこと思い出したんですか?」
「いや、まだ・・・」
「そうですか・・・」
「ごめんなさい。私さえいなくなれば済むと思ったの・・・」
私が頭を下げると、キースさんが私の肩にぽんと手を置いた。
「これはレイナさんだけのせいじゃないですよ。ネイト先輩にも原因はあります」
「え?」
「ネイト先輩がもっと早くにレイナさんに気持ちを伝えていれば、こんなことにはならなかったんですから」
キースさんがネイトをじとっと見つめると、ネイトがため息を吐いた。
「そうかもしれないな」
「これからはちゃんと気持ちを伝えなきゃだめですよ?二人とも!」
「はい」
「あぁ」
キースさんは一通り小言を言うと城へと戻って行った。
「ふふ。キースさんっていい人ね」
「そうだな・・・。私たちはいい友に恵まれたな」
きっとユキのことを言っているのだろう。
ネイトは今回の件がユキのやったことだと気付いているのね。
「二人にはお礼をしないといけないわね」
「あぁ。落ち着いたら家に来てもらおう」
「えぇ」