12 赤い瞳の彼女
レイナ・・・なぜだ。
なぜこんなことを・・・。
どうにかして薬を吐き出さなければ!
喉の奥に指を突っ込んでみたが、生唾が出るばかりで薬を吐き出すことは出来なかった。
くそ・・・。
このまま私はレイナのことを忘れてしまうのか?
先程から意識が朦朧としていた。
いや待て・・・あれを飲めばもしかしたら・・・。
私はふらつきながらもキッチンの棚を開けて茶色い小瓶を探した。
これだ!
私はキャップを開けて薬を一気に喉に流し込んだ。
頼む、効いてくれ!!
「う・・・」
気が付くと、私はキッチンの床に倒れていた。
どうしてこんなところで寝ているんだ?
昨日誰かといた気がするが、誰といたのかは思い出せなかった。
まるで長い夢を見ていたかのようだな・・・。
立ち上がってテーブルを見ると、そこには二人分の食事が並べられていた。
やはり私は誰かといたのか?
夢ではなかった・・・?
これは?
テーブルの上には中身が空になった小瓶が転がっていた。
私はこれが何かを知っている気がした。
とんでもなく苦い薬が入っていたはずだ・・・。
そうだ。
これを飲んだ時に彼女が笑ったんだ。
でも霧がかかったように彼女の顔は思い出せなかった。
でもあれは確かにユリアではなくて・・・。
そうだ!
赤い瞳・・・彼女は赤い瞳をしていた。
ということは魔導師の女性ということになるが、私に魔導師の知り合いはいないはずだった。
そんなことを考えていたら出勤の時間が迫っていたので、私はサッとシャワーを浴びて家を出た。
「ネイト先輩!おはようございます!」
城の正門をくぐろうとしたところでキースが声をかけてきた。
「いつもより早いな?」
「はい!今日は早く目が覚めたんで」
「そうか」
「ふぁ〜。今日は天気がいいですね!」
キースが背伸びをしながら空を見上げた。
「明日も天気がいいみたいですよ?良かったですね?」
「なぜだ?」
「なぜって、明日はレイナさんとお花見に行くんですよね?」
「レイナ・・・?」
「え?」
「レイナとは誰だ?」
「先輩、何言ってるんですか?」
「・・・もしかしてレイナとは、赤い瞳をした女性か?」
「そ、そうですけど。どうしたんですか先輩!変ですよ?」
「記憶が無いんだ。彼女の記憶が・・・」
「え・・・?」
「もしかして彼女は魔導師だったのか?」
「そ、そうです。魔女さんでした・・・。もしかして、レイナさんの魔法で記憶が無くなっちゃったんですか?」
「そうかもしれない」
「そんな・・・レイナさんはなんでそんなことを・・・」
「わからない」
彼女が故意に私の記憶を消したのか?
「あ・・・。もしかしたら、ユリアさんが生きて戻ったから、レイナさんは・・・」
数日前にユリアが突然生きて戻った。
そして私たちは昨日カフェで話し合って・・・。
「先輩!レイナさんの家は知らないんですか?確かロドアナ山って言ってましたよね?」
「ロドアナ山?」
そうだ・・・。
私は長いことあの山に通っていた気がする。
誰と会っていたかまでは思い出せないが、そこで庭仕事や薪割りをしていたことはうっすら覚えていた。
「すぐに行ってください!手遅れになる前に!」
「しかし訓練が・・・」
「こっちは上手いこと言っておきますから!」
行けと言われても、顔も思い出せない彼女と会ってどうするんだ・・・?
でももしかしたら・・・会えば何か思い出せるかもしれないか。
「わかった。キース頼んだぞ!」