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11 さようなら



二人のことを思うと、私がこの家から出ていくのが最善なことはわかっていた。

でも私は、もしかしたらネイトが私を選んでくれるのではないかという淡い期待を抱いてしまっていた。


そうして同居の解消を言い出せずに数日経った頃、私のそんな期待は早くも打ち砕かれた。

買い物帰りに大通りを歩いていると、喫茶店のテラス席で話す二人の姿を見かけてしまったのだ。

ユリアさんは人目もはばからず大粒の涙を流し、ネイトは彼女の手を握っていた。

その光景を見た瞬間私は悟った。

やはり二人はまだ深く愛し合っているのだと。

それからはどうやって家まで辿りついたのか、私は気が付いた時には広間のソファに座っていた。

これ以上二人の邪魔をしても自分が惨めになるだけ。

潔く身を引くしかない。

ネイトから私に出ていけだなんて言い出せないだろうから、私から言うしかないわ。

でも彼は優しい人だから、それでも罪悪感を抱いてしまうかもしれない。

これまで十分苦しんだのだから、これから彼にはなんの気兼ねもなく幸せになってほしかった。

だから私は決心した。

彼の記憶から私を消して、この国を去ろうとーーーーーー


私はネイトが帰って来るまでの間に魔法薬を調合して荷物をまとめた。

私の荷物は数着の洋服と薬草や小瓶など、かさばるものはなかったので、大きなバッグひとつで事足りた。

家から持って来たティーカップなどの食器は、さっきゴミ置き場に捨てて来た。

夕飯の準備も済ませたし、あとはネイトの帰りを待つだけね・・・。


日が落ちる頃、ネイトが帰って来た。


「おかえりなさい」

「あぁ。遅くなってすまない」

「ううん。先にシャワーを浴びる?」

「いや、今日は先にご飯をいただこう」

「そう・・・」


今日は野菜スープとチキンステーキを作った。

私はネイトのスープに魔法薬を入れてテーブルに並べた。


「うまそうだな」

「ネイトはチキンステーキが好きよね」

「あぁ。レイナのチキンステーキはこれまで食べた料理の中で一番美味いと思う」

「ふふ。大袈裟なんだから・・・」


私はネイトがスープを飲み終えたのを見届けてから話を切り出した。


「ネイト・・・私ここを出て行くわね」

「レイナ、急にどうしたんだ?」


ネイトが持っていたフォークを下ろした。


「彼女が生きて戻ったんだから、あなたは彼女といるべきだわ。私がここにいると二人で暮らせないでしょう?」

「私はそんなつもりは・・・」

「ネイトは優しいからこれまで言い出せなかったのよね?私はそんなネイトの優しさに甘えていたの・・・。ごめんなさい」


私は席を立って微笑んだ。


「ネイト、これまでありがとう。あなたと過ごせて楽しかった」

「レイナ待ってくれ・・・う・・・」


ネイトは立ち上がろうとして眩暈がしたのか、額に手を当てた。


「ごめんなさい。私の記憶を消す薬をそのスープに入れたの」

「な、なぜだ・・・」

「ネイトは優しいから、私が出ていくことになったら自分を責めるでしょう?」

「レイナ、違うんだ。私は・・・」

「ネイト、幸せになってね。さようなら」

「レイナ!!」


私はソファに置いてあったバッグを背負って家を出た。

これで良かったのよ・・・。

ただこれまでの生活に戻るだけ。

大丈夫、また一人で生きていけるわ・・・。



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