10 婚約者
ネイト視点
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レイナ視点
数日後、キースと訓練場に向かっていると、物騒な会話が聞こえてきた。
「また魔女が襲われたらしいな」
「あぁ。すれ違いざまにナイフで切り付けられたらしい。今月に入って7件目だそうだ」
「魔女なら魔法で自分の身くらい守れそうなもんだけどな?」
あれは王都の警備を担っている第三騎士団の者たちか・・・。
「ネイト先輩、今の聞きました?最近魔女が通り魔に襲われているみたいですよ?」
「そのようだな・・・」
「レイナさんにも気をつけるように言っておいた方がいいんじゃないですか?」
「あぁ。帰ったら伝えておこう」
レイナは外出時には瞳の色を変えている。
正体がバレることはないと思うが、用心するにこしたことはないだろう。
今日は遅くなっちゃったわね。
早く帰って夕飯の準備をしないと。
アパートの階段を上がると、廊下に見知らぬ女性が立っていた。
誰かしら?
玄関の鍵を開けようとすると、後ろから彼女が話しかけてきた。
「あなた・・・こちらの家に住まわれている方?」
「え?そうですが・・・」
「ネイトは、ネイトをご存知ありませんか?」
「え?ネイト?」
この人ネイトの知り合いなのかしら?
「知ってます。ネイトもここに住んでますよ?」
「そうなんですね!良かった・・・」
「あなたは・・・」
「あ、すみません。私は」
「ユリア!?」
え??
後ろを振り返ると、驚いた様子のネイトが立っていた。
「ネイト!!」
「ユリア・・・本当に君なのか・・・?」
「えぇ。私よ」
「なぜ・・・」
「船の事故で外国に流れ着いて、記憶を失っていたの・・・」
「記憶を・・・?」
え?
船の事故って・・・。
「ネイト、彼女は・・・」
「レイナすまない。先に食べていてくれ。私たちは少し話をしてくる」
「え、えぇ」
ネイトは彼女を連れて行ってしまった。
どういうこと??
船の事故って・・・まさか彼女は亡くなったと思っていたネイトの婚約者なの・・・?
彼女は青い瞳をしていて、肌も透き通るように白くてとても綺麗な人だった。
それからご飯を作って待っていようかと思ったけれど、二人のことが気になって何も手につかなかった。
私・・・やっぱりネイトのことを・・・。
二時間ほど経った頃、ネイトが帰ってきた。
「おかえりなさい」
「あぁ・・・」
ネイトは浮かない顔をしていた。
彼女と何を話したんだろう。
「ネイト、さっきの人は・・・」
「あぁ。ユリアだ・・・婚約者の」
「やっぱり・・・彼女生きていたのね」
「あぁ。船の事故で記憶を失っていたらしい。外国の治療院に入院していたが、一週間ほど前に記憶が戻って、今日レイドラントに戻ったと言っていた」
「そう・・・」
良かったわね、と言うべきだろうけど、その言葉がどうしても口から出て来なかった。
「これからどうするの?」
「それはまだ・・・。彼女も記憶が戻ったばかりだからな」
「そうよね・・・」
「夕飯はもう食べたのか?」
「いいえ、まだよ。ネイトは?」
「私は今日は遠慮しておく。レイナは食べてくれ」
「わかった・・・」
それからネイトはずっと何かを考えている様子で、シャワーを浴びた後は早めに寝室に入ってしまった。
彼女が生きていて嬉しいはずなのに、素直に喜べないのは私のせいかしら・・・。
私がここに住んでいるから、ネイトは彼女と暮らすことが出来ないんだもの。
これまで私はネイトの役に立てているんだと思っていた。
でも彼女が戻った今、私はもう邪魔者でしかないのよね・・・。