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第一章 不幸な公爵の息子 (2)

タイトルが一番難しいです。

ジオン王国暦1091年8月25日


ライオン砦では、2か月に一度、5日間にわたる実技演習が行われた。


この演習は全校生徒が参加し、トーナメント形式で進行されるもので、多くの実技評価の中でも最も高い点数が与えられる重要な分野だった。


そのため、生徒たちはそれぞれ真剣に演習に臨んだ。


貴族の生徒は、貴族としての誇りと名誉を守るために全力を尽くし、平民出身の生徒は、少しでも良い成績を収め、卒業後により高い地位の騎士になることを目指して必死に努力していた。


また、貴族の生徒たちは、特に目立つ才能を持つ者をそばに引き入れるため、演習の進行を注視していた。

そんな中、唯一場違いな顔をして溜息をついているクラウゼルだけが例外だった。


「うわっ、くそっ!」


演習用の鉄製の鎧を身に着けたクラウゼルは、他の騎士見習いが校庭に集まっている中、一人だけ本館の裏庭に立ち、大声を上げていた。顔は青ざめ、足は震え、歯をガチガチと鳴らしていた。


2か月ごとに行われるこの全校生徒の実技演習は、クラウゼルにとってすでに10回目の経験だった。


ベテランと言える回数ではあるが、彼は経験に関係なく学校で最も弱い存在だった。そのため、この演習は彼にとって地獄のようなものでしかなかった。


クラウゼルは、入学してから1年7か月間、アカデミー生活を送っていたが、「自分の認識」によれば、何一つ成果を上げられていなかった。1年生相手でも、相手が怪物のように感じられるほど戦うのが苦痛で、同級生や3年生に至っては強すぎて恐怖を感じるほどだった。


いや、彼にとって勝敗など初めから関心外だった。ただ「恥ずかしいこと」が問題だったのだ。


クラスや学年を問わず全校生徒が参加するこの大規模な実技演習は、非常に屈辱的だった。


誰と戦っても負けることを前提としている彼にとって、全校生徒が見守る中での演習は耐え難い屈辱だったのだ。


ライオン砦の生徒の中で、誰も知らなかったが、実は彼は権威あるカーシオン公爵の一人息子だった。どれだけ実力が低くても、プライドだけは高かった。


ミリエという伯爵家の気まぐれな令嬢のせいでアカデミー生活そのものが辛かったのに、それに加え、2か月ごとに全校生徒の前で屈辱を味わう演習は彼にとって非常に辛かった。


さらに、2年生になり、すでに半学期が過ぎていた。1年生の時は先輩たちだけの注目だったので何とか耐えられたが、今は一応上級生としての体面があり、この演習はその体面を完全に打ち砕いていた。


「うう……。」


そう考えると、クラウゼルは肩を落とした。


今さら「体面」を気にする必要もないことに気づいた。


すでに「学校で最も情けない奴」というレッテルを貼られている人生を送っているのは、1年生も全員知っているようだった。


実際、2日前に廊下で会った生意気な1年生が、「なんだこの陰気臭い奴は?」と言いながら肩を押して通り過ぎていったこともあった。


「お前たちはそれでも未来の王国を背負う騎士になるつもりかああっ!」


どうしてだ! いったいどうして! なぜだ!


アカデミーでは毎日騎士道精神を唱えながら教育を進めているというのに、教育を受けた生徒たちはなぜ最後まで精神を叩き直せず、未熟な子供のように弱い者をいじめることしかできないのか!


「これも全部、あの忌々しい女のせいだ! 卑劣な女め、卒業したらぶっ潰してやる!」


クラウゼルが他の生徒たちからいじめられる原因はミリエにあった。


新入生当初、ミリエはクラウゼルが自分を奉らず、通りすがりの犬を見るように無関心な態度を取ったことに不満を抱き始め、やがて公然といじめを始めた。


伯爵家の令嬢である彼女がそんな態度を取ると、周囲の生徒たちもその流れを読み取り、クラウゼルを一緒になっていじめたり無視したりするしかなかった。


クラウゼルは歯を食いしばり、ミリエに対する復讐心を燃やしていた。


卒業して公爵家の後継者として認められたら、必ず正体を明かし、彼女の美しい顔を笑いながら徹底的に潰してやると心に誓っていた。


しかし、卒業までにはまだ1年と5か月という長い時間が残されていた。


「家に帰りたい……。」


「あと1年5か月、どうやって耐えればいいんだ?」と思いながら、ついには力を失ったクラウゼルは、目の前の大木にしがみつき、ぐったりと力を抜いた。


その時だった。


「ふむ、セシリアは気になるのです。先輩はここで何をしているのですか? セシリアはもうすぐ演習が始まると聞いていますけどねえ。」


情けない姿でぼんやりしていたクラウゼルは、背後から聞こえてきた声に驚いた。


自身の名前を自ら呼びながら三人称で話す、どこか特異な口調。この場にいるのは自分だけだと思い込んでいたクラウゼルは、大慌てで振り返った。


そこには、成長した後の姿が非常に楽しみになるような、美しい少女が桃色のボブカットを揺らしながら立っていた。一方にまとめられた髪がまるで角のように見えたが、大きな目を丸くして見上げるその表情は何とも愛らしかった。


彼女の名前はセシリアだった。


ミリエと同じく伯爵家の令嬢でありながら、彼女はクラウゼルを「先輩」と呼んでくれた。


『この子は……!』


悪魔のようなミリエとはまさに対極にある天使のような少女ではないか!


クラウゼルは今まさに初めて話を交わすセシリアを見て拳を握りしめた。


一方ではミリエを徹底的に打ちのめし、もう一方ではセシリアの髪を優しく撫でることを想像するだけで夢のようだった。


どれだけの王子でも貴族の令嬢を勝手に扱うことは不可能だが、卒業後のことを考えながら妄想にふけるクラウゼルは、冷静さを完全に失っていた。


「うふふふ。」


「…先輩はお一人で何をしているのですかねえ?」


不気味な笑みを浮かべるクラウゼルを不審に思いながら問いかけるセシリアの主力武器はフランベルジュだった。


現在は細い腰に装着された鞘の中に収められ、特有の恐ろしい刃が姿を見せていない状態だった。


可愛い見た目に似合わず、強大な殺傷能力を持つフランベルジュを腰に装備している少女の姿は、見る者をぞっとさせた。


それはクラウゼルが彼女の演習シーンを何度も目撃していたため、より現実味を感じていたのだった。


遅れて正気を取り戻したクラウゼルは、彼女がなぜ自分に近づいてくるのか、その理由に疑念を抱き、緊張していた。


『何をたくらんでいるんだ!』


たとえセシリアがミリエと同等の権威を持つ伯爵家の令嬢であっても、ミリエが敵対している自分にわざわざ優しく接する理由があるとは思えなかった。


そもそも、貴族とは互いの関係を重視するもの。


こうして行動することで、ミリエとわざわざ距離を取る必要などないはずだ。


この女も何かしらの企みを持っているに違いない!


すぐに確信したクラウゼルは、セシリアを天使として見ることができなくなり、青ざめながら数歩後退した。


そんな彼の様子にセシリアは理由がわからず首をかしげるばかりだった。


「まあ、何にせよ問題ないですねえ。ちょうどセシリアは演習に参加するところなので、一緒に行きましょう。」


語尾を少し伸ばす癖がある彼女の話し方は、一見すると外見と相まって可愛らしいが、実際に相手をしているクラウゼルは少し煩わしいと思っていた。


「な、なぜ私と一緒に行こうというのですか!」


クラウゼルはセシリアが自分を罠に陥れるため、美人局のような策略を使っているのだと考え、大きく警戒した。


もちろん完全なる誤解だったが。


どうしていいかわからないクラウゼルをじっと見つめていたセシリアは、ポケットをまさぐりながら一枚の紙を取り出した。それは今回の演習の対戦表だった。


セシリアはその表の一部を細い指でトントンと叩きながら言った。


「最初の対戦が、たまたま先輩とセシリアの試合ということですよ。


遅れたら一緒に失格になると思いますけどねえ。」


「な、な、な、なんだってええええ!」


クラウゼルは悲鳴のような驚きの声をあげた。


ライオン砦の最高の偶像と称えられる「4人の美少女」。


彼女たちは容姿と文武両道を兼ね備え、その武芸も「最強の4人」に次ぐ水準だと評価されていた。


そんな相手と対戦だなんて! しかも400人近い人数の前で!


恥をかくに決まっているではないか!


「へえ?」


大声で叫びながら怯えたかと思えば、真っ青に硬直してしまったクラウゼルの姿は滑稽だった。セシリアは大きな目を輝かせ、クスクスと数回指で彼をつつき、やがて彼の腕を引っ張った。


「さあ、行きましょうね。」


これまで一応は訓練に参加してきたため、クラウゼルの体は以前より引き締まっていたが、もともと細身の体型だった。


身長は170センチを超え、セシリアより20センチほど高かったが、鍛えられたセシリアが彼を引きずって行くのに苦労はなかった。


「お願いですから、自分で歩いてくださいよお!」


とはいえ、少し汗をかきながら頑張る様子を見ると、彼女もやはり少女なのだとわかった。



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