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第4話 努力の先にある希望-4-

 会場の扉を開くと、まず目に飛び込んできたのは巨大なビジョンだった。空中に映し出された映像は、魔道具によって展開されている。この魔道具は50年ほど前に発表され、複数の魔法陣を内蔵し、魔石を動力として動作する。以来、魔法学会では研究発表の際にこのビジョンが用いられてきた。


 魔道具の進化は目覚ましく、ビジョンのような特殊なものから、日常生活を支える実用的なものまで幅広く普及している。会場の照明や音響もすべて魔道具により制御され、現代社会を大きく支えているのだ。


 ダレクは、会場中央の正面からビジョンが見渡せる席に座った。彼の両隣には、ヤエルとナウロが腰掛ける。開始まであと1時間。まだ空席が目立っていたが、魔法研究者や、ダレクのように学会を見学に訪れた者たちが次々に入場してくる。ダレクは学会が始まるまでの暇を潰すため、空間魔法に関する書籍を読み始めた。


 30分ほどが経過したころ、会場はほぼ満席になり、空席もわずかとなった。ヤエルの隣に、中年の男性が腰を下ろす。


「お隣、失礼します」


 男性は一礼し、ちらりとダレクの方を見た。その視線は彼が手にしている書籍に注がれていた。


「おや、それは『空間魔法の実現が及ぼす戦略改革』ですか?」


 その言葉にダレクは顔を上げ、目を輝かせた。思わぬ出会いに興奮を隠せない。


「ご存知なんですか! 空間魔法はまだ非常に限られた規模でしか実現されていませんが、もし実用化されれば、世界は劇的に変わります。僕はそのスケールの大きさに興味があって、よく空間魔法に関する書籍を読んでいるんです。この本は空間魔法の考察に加えて、タイトルにある通り、戦略的な影響についても書かれているんです。さらには転位魔法にまで言及されていて、これは貴重な資料です。あなたも空間魔法にご興味が?」


 熱のこもった言葉に少し面食らいながらも、男性は微笑を浮かべた。


「ええ、実は私がその本の著者なんですよ。ニール・ファスエルと言います。まさか、自分の書籍を読んでいる方に出会えるとは思いませんでした」

「なんと……! 昨日偶然見つけて購入したものなのです。これは何とも運命的と言いますか、お会いできて光栄です! あ、自己紹介が遅れました。私はドライ・エラナル伯爵の息子、ダレク・エラナルです」

「今日は私も発表する予定なんです。空間魔法の最新の成果についてお話ししますので、ぜひご覧になっていってください」


 ニール・ファスエル。ファスエル子爵の弟であり、王立魔法研究所で主に空間魔法に関する研究を行っている。優秀な研究者として一部で名の知れた存在であり、本日の学会では最終発表者となっている。


 ダレクはヤエルと席を交換し、学会が開始されるまでニールとの会話を楽しんだ。大人びた印象を受けるダレクは、その間、誰の目から見ても年相応に見えただろう。


 やがて、学会が始まった。魔石を用いた非魔道士による魔法発現、複数人での単一魔法陣の形成、既発現魔法の魔法陣への干渉の影響など、どの発表もダレクにとって興味深い内容だった。しかし、特に彼の興味を引いたのは、やはりニールによる空間魔法の発表だ。


 ニールは壇上で、空間に干渉し、独立した空間――『亜空間』を作り出す実験について語った。現在は、握りこぶし大の物質を亜空間に収めることに成功しているという。今後、さらに大規模な亜空間を実現することが目標だ。これが実用化されれば、軍事的な用途だけでなく、商人の荷運びなどの物流に革命的な変化をもたらすだろう。


 ダレクは、発表を聞きながら手元で忙しくメモを取っていた。学会が終わると、彼はそのメモを大事に懐にしまい、満足げな表情でヤエルとナウロを伴って移動する。


「ダレク様、発表はいかがでしたか?」


 発表を終えて、他の研究者たちと談笑していたニールは、近づいてくるダレクに気づき、声をかけた。彼の周囲にいた研究者たちも自然とダレクに目を向けた。


「皆さん、はじめまして。ダレク・エラナルと申します。先ほどの発表を拝見しましたが、どれも非常に興味深く、学ぶことが多かったです。魔法に強い関心を持っておりまして、今回の学会に参加させていただきましたが、素晴らしい経験となりました。以後、お見知りおきを」


 ダレクが貴族らしからぬ丁寧な口調で話しかけると、研究者たちはおっと驚いた表情を見せた。普段、貴族がこのように学会に参加しても、研究者に直接話しかけることは稀だったため、ダレクの積極的な態度に皆が感心していた。


 その後、ダレクは当たり前のように研究者たちの談笑に混ざり、彼らと議論を交わし始めた。会話の内容は高度で、ついていけない場面が多かったが、それでもダレクは意欲的に質問を投げかけ、コミュニケーションを取っていた。


 その様子を見守っていたナウロは、「剣の訓練、続けてくれるかな……」と若干の不安を抱いていたと後に語る。ダレクはそれほどまでに魔法に傾倒していた。

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