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第3話 努力の先にある希望-3-

 翌日、朝食を済ませたダレクはナウロを伴い、久々の王都へと繰り出した。最近は研究や訓練に没頭していたため、少しは気を抜いてリフレッシュする必要があると自分に言い聞かせての外出だ。ダレクは王都観光に胸を躍らせていた。


 ダレクの斜め後ろを歩くナウロは、彼の浮き浮きとした様子を微笑ましく眺めていた。露店が立ち並ぶ賑やかな通りに足を踏み入れると、香ばしい料理の香り、人々の活気に満ちた喧騒、カラフルな看板が目に飛び込んでくる。これら全てが、ダレクにとっては初めての体験に等しかった。数年前に王都を訪れた際は、父ドライの友人に紹介されるためだけの訪問で、こうして民衆の文化に触れることはなかったからだ。


「賑やかだな。うちの領都にもこういった場所はあるのか?」

「ここほどの活気はないにしても、似たような場所はあります」


 「ふむ、次はそっちにも行ってみたいな」とダレクは軽やかな足取りで露店を見渡しながら答えた。鮮やかな色合いの野菜や果物、そして香辛料が所狭しと並べられ、その香りが彼の鼻をくすぐる。商人たちの元気な掛け声が響く中、ダレクは思わず足を止め、目を輝かせて品々を眺めた。


 「こんなところもあるんだな……時々こうして気晴らしに来るのも悪くないかもしれない」と、ダレクは街の賑わいを楽しんでいる様子だった。いつも厳しい訓練や勉学に追われていた彼にとって、このような息抜きは新鮮で、ストレスから解放されたような表情を浮かべている。


 そうしてしばらく歩いていると、ふと目に留まったのは立派な書店だった。王都でも評判の高い書店で、ダレクの心は自然とそちらへ引き寄せられた。


「……書店、か。せっかくだから、少し覗いていこう」


 何かに導かれるように足を向けるダレクに、ナウロは苦笑しつつも、黙って後に続いた。


 店内に入ると、ダレクは真剣な眼差しで魔法関連の書物を手に取り、ページをめくり始める。リフレッシュするための散策のはずが、結局は勉強に繋がってしまうダレクの姿に、ナウロは微笑みを浮かべながら静かに心の中で言った。


 やっぱりこうなるんだな……、と。


 ダレクは周囲の喧騒などまるで気にせず、次々と書物を手に取ってはページをめくり始めた。魔法理論、錬金術の可能性、古代魔法の検証など、興味を引かれる本を次々と手に取り、彼の集中力はどんどん深まっていく。外の世界が消え去ったかのように、知識を吸収することに没頭していた。


 しばらくして店主がやや申し訳なさそうに近づいてきた。


「お客様、恐れ入りますが、店内での閲覧は程々にお願いできればと思うのですが……」


 その言葉にダレクは我に返り、少し驚いた顔をしたあと、すぐに気まずそうに微笑んだ。


「ああ、すまない。つい夢中になってしまったな……」


 ダレクは続けて、「これらの本を全部まとめて屋敷に送ってもらえないか?」と言って、懐から煌びやかに装飾された貴族であることを表す手帳を取り出して見せた。


「エラナル伯爵邸だ」

「お貴族様でしたか、これはこれは大変失礼いたしました。すぐにご用意させていただきます」


 店主はすぐに対応し、本を丁寧に包み始めた。


 ダレクは少し照れ臭そうに息をつき、「さて、もう少し街を見て回ろうか」とナウロに笑いかける。ナウロもその様子に微笑み返し、「そうですね。せっかくの散策ですから、他にも色々とみて回って楽しんでいきましょう」と応じた。



 ダレクとナウロは、昼食を求めて飲食店が立ち並ぶエリアに足を運んでいた。そこには、王国で親しまれている一般的な料理を提供するレストランから、他国の料理やスイーツを楽しめる店まで、多種多様な飲食店が並んでいた。今回、ダレクたちは個室で食事をとることができる高級店を選んだ。ダレク自身は大衆文化や生活に偏見を持たないが、ナウロとしては護衛の観点から個室の店でないと都合が悪いらしい。


「……美味いな。普段はこうして外で食事を楽しむことは少ないから、新鮮な体験だ」


 間仕切りの向こうから聞こえてくる街の喧騒を耳にしながら、アツアツの鉄板に乗った肉料理を口に運ぶダレクは、貴族としての役割から一時的に解放されて、目の前の時間を心から楽しんでいるようだった。


 食事を終えたダレクは、会計をするナウロの隣で店の外の様子に目を向けていた。外から怒声混じりの喧騒が耳に届き、何かしらのトラブルが発生したことが伝わる。彼の立場上、ナウロの側を離れることができないため、ダレクは落ち着かない様子で会計が終わるのを待っていた。エラナル領内ならいざ知らず、ここでは単なる観光客に過ぎないダレクの中には抑えきれない野次馬的な好奇心が芽生えていた。


「終わったか。行くぞ」

「先ほどから騒がしいですが、何かあったんですか?」

「何かあったことしかわからないから見に行くんだ」


 ダレクはナウロを引き連れ、足早に騒ぎの元へと向かう。そこでは二人の男が一人の女性に激しく詰め寄っていた。女性の後ろには、ダレクと同じくらいの年齢の少女が怯えた様子で女性のスカートの裾を掴んでいる。二人の男は剣を持っているものの、装備には統一性がなく、薄汚れた見た目は騎士には程遠いことから、ダレクは彼らがハンターだろうと推測した。そんな中、ダレクは二人に詰め寄られている女性に向かって声をかける。


「ヤエル、何があった?」


 一日暇を与えていた王都出身のメイド、ヤエルだった。ヤエルはダレクから声をかけられた瞬間、驚いた表情を見せたものの、すぐに表情を整え、事情を説明し始めた。その間、ナウロは二人の男から話を聞き取っていた。男たちは最初こそ強気な態度を見せていたが、ナウロの鋭い威圧感に圧されてか、しぶしぶと素直に状況を説明したようだった。結果として双方の意見が出そろい、全貌が明らかになる。


 ヤエルの妹が男の一人にぶつかり、手に持っていた飲み物を足にかけてしまったらしい。男たちは「最近買ったばかりで、それなりに値のする靴だから弁償しろ」と主張した。ヤエルは靴の代金を支払う意思を示すが、男の提示した金額があまりにも高すぎるため、「それはおかしいのではないか」と反論。このやり取りの中で、男たちは怒声を浴びせ、ヤエルも怯まずに自分の意見を主張し、口論に発展した。ということだった。


「つーか、お前らは何なんだよ。そこの女と知り合いらしいが、お前らが代わりに払ってくれんのか? 身なりからしていいとこの坊ちゃんだろ? 払えないなんてことはないよな」


 男は割り込んできたダレクに標的を変えて、強気に出てきた。焦ったヤエルが「このお方は関係ない」と言いかけたが、ダレクはそれを制止して言う。


「わかった。払おう。ただ、生憎今手元にはその金額がないんだ。申し訳ないが、我が家に後ほど受け取りに来てもらえるだろうか。迷惑をかけたようだし、ささやかなもてなしもさせてもらいたい」


 満足そうに顔をほころばせた男たちに、ダレクは懐から手帳を取り出して、示すように見せて言葉を続けた。


「エラナル伯爵邸だ。警備隊の者に尋ねれば、すぐにわかるはずだ」


 その瞬間、男たちの顔色は一変し、先ほどまでの自信満々な態度は消え失せ、彼らは慌てて言葉を重ね始めた。


「あ……えっと、濡れたけど、拭けば問題なく使えるし、やっぱり大丈夫です」

「いやー、はは。すみませんね。それでは、これで」


 「失礼しました!」と声を上げ、男たちは野次馬を押しのけて逃げ去っていった。ハンターの装備についての知識が乏しいダレクは、確かに高いなと思ったものの、彼らの主張が正しい可能性を捨てきれなかった。ダレクが貴族であることを知った男たちの態度が急変したことからも、彼らが吹っ掛けていたことは明らかだった。その様子は周囲の野次馬たちにも伝わったようで、ヤエルに非があると誤解されなかったことに、ダレクは安堵する。


「ダレク様、お手を煩わせてしまい、誠に申し訳ございませんでした。このご恩は、どのようにお返しすればよろしいでしょうか」

「恩とかそういうのはいい。それより、妹と楽しめ。明日からはまた仕事なんだから」

「ダレク様のお心遣い、深く感謝いたします」


 「ほら、ノエルもダレク様にお礼を言いなさい」と、ヤエルは妹のノエルを促す。ヤエルのスカートを掴んで後ろに隠れていたノエルは、少し緊張した様子でダレクの前に出てきて、頬を赤らめながら恥ずかしそうに一礼した。


「ダレク様、この度は本当にありがとうございました」

「気にするな。いつもヤエルにはお世話になっているからな。今度、ヤエルが暇なときには何か土産でも持たせるから、楽しみにしていろ」


 ダレクとナウロはその場を後にし、他のエリアを巡りながら観光を楽しんだ。屋敷へと戻ったダレクは、書店から届いた魔法関連の書物を次々と手に取り、熱心に読みふけり、魔法の知識を着実に蓄えていった。


 そして、翌日が訪れた。ダレクは高揚感を胸に秘め、ヤエルの案内に従いながら、待ちに待った魔法学会の会場である王立魔法研究所本部の大ホールへと足を運ぶ。煌めく陽光の中、建物の荘厳な姿が彼の視界に飛び込むと、その心は期待に満ち溢れ、興奮と不安が入り混じる中、ダレクは会場の扉を押し開けた。

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