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狭間にも見れない夢

 ゆらゆら、ゆらゆらと揺れる風景。寄せては返す、それはさながら波のように。

 ふわり、ふわりとたゆたうわたしの意識は、波の間から再び浮かんできた。


 今度見えたのは別の光景。

 わたしが子供をあやして寝かしつけている。

 子供が寝息を立て始めてもしばらくわたしはじっとしていた。

 ガチャリ、とドアの鍵を回す音が聞こえて、わたしは玄関へ向かう。

 お帰りなさいを言うために。

 ただいま、と言って帰ってきたのはわたしの一番大切な人。

 彼が着替える間にわたしは料理を温める。

 椅子についた彼に、今日の料理も美味そうだ、と言ってもらってわたしは幸せを噛み締める。


 でもこれは幻。


 わたしが望んでいた幸せな家庭。彼と築いていきたかった夢。

 彼が着ているのは、スーツ。ユニフォームじゃない。

 鞄は右手に持っている。左腕は治っていない。


 だからこれは幻。


 この幻は、わたしが望んだ夢と少し違う。

 少しだけ、けれど決定的に、違う。

 だって――

 だって仁は――


 ――困った笑顔のままだから。


 彼がこんな顔のままで、家庭は築けない。

 彼のこの表情を変えるために。

 大切なものを返すために。

 もう一度、もがいて、苦しんで、最後に彼が心から笑えるように。

 わたしは全てを捧げたのだから。

 わたしの命と。

 わたし自身の夢さえも。


 ハッピーエンドであるはずのわたしの夢を手に入れるには、どうすればよかったんだろう。

 わかっている。そんなエンドは用意されていなかった。

 なかったから、答えもない。


 だからわたしが望んでいた、わたしの夢は。

 幻ですらあり得ない。


 でも、ちょっとだけ。もし仁の心からの笑顔が見られるのならば――

 わたしは幻の中で生きていけるのに。


 ねえ仁。

 あなたは、ちゃんと苦労できてる?

 あなたは、無理に、笑ってない?

 

 ハッピーエンドが手に入らないのなら、せめて――

 せめてあなたの夢だけは、叶いますように。

 祈りの中で、幻に飲み込まれるように、わたしはまたまどろみながら沈んでいった。

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