第二話「オド・テンペスタ」
ミラビリス大陸のほぼ半分を支配する強大な王国。それこそが
アガスティア王国だ。一万年以上昔の話。神話の時代と称され、
人間と魔族が表立って対立していた大戦が長く続いていた。
この王国は数々の勇者を輩出して、魔王討伐の為に戦っていた。
もう一つの国はパヴィヨン帝国という。
「あそこの国は実力主義が浸透している。性格に難があろうと、
如何に不遇な生まれであろうと力を示せば地位の向上が出来る」
「あまり良い話は聞かないわよ。そんな暴れん坊を集めた国だし、
突拍子もない戦争を起こすかもしれないし」
レイラ・リヴィエールは顔をしかめた。実力がものをいう国、か。
力の無い人間にとっては生きずらい環境であることは明白だ。
食うか食われるか、それしかないのだから。
「二つの国は対立してる?」
キース・ローズとミシェル・レインウォーターに尋ねた。
「今は、対立はしていないな。帝国に飛び込んでいった王国の
人間も特に差別されているわけでは無いようだ」
「あぁ、彼の話ね。私も聞いたことがあるわ。好きそうだものね、
ああいう場所」
誰の話かレイラは全く分からない。だがそのうち顔を合わせるかも
しれない。
「さて、お前の出番だ、ミシェル」
「え、私?」
「お前以外に誰がいる。七の星の資格者のヒントぐらい提示できる
だろう、違うか?」
ミシェルはただレイラの心の赴くままに、とだけ伝えた。
「貴方が相応しいと感じたのならば、きっとそうなのでしょう。
ちゃんと分かるわ。こればかりは理屈じゃないもの」
その場に佇むレイラの視界を横切る光の粒子。それは魔力である。
レイラは魔術に関して才能があるようで、魔力を目視できる。
魔力、マナと称されるそれは人や扱う魔術の性質や属性などで色が
全く違う。レイラは感覚的に差を理解しているので、上手く他者に
説明することが出来ない。そのマナを目で追うと、一人の女性が
歩いていた。
「あの人…」
「レイラ?」
あの人以外のマナを感じる。どす黒い、気色の悪い堕ちたマナが
あちこちから。それだけは他の二人も感じ取っている様だ。
「脅威だのなんだのと言っていたのは、こう言う事か」
キースは目だけでなく、耳もそれなりに良いようだ。王国の現状に
ついて話していた。あちこちで何やら事件が起こっている様だ。
その一つにオド・テンペスタという現象がある。
オドとは世界を満たすエネルギーである純粋なマナの家とでもいう
べきものだ。その家が何らかの原因で崩壊し、噴出する現象を
そう呼ぶのだ。
「頻繁に、それも…」
遠くに見える光の柱。天にまで届くマナの柱がある。
「あんな大きいものはあり得ないわよねー」
「大きいだけで無くて、沢山起こってますけど!?」
「そういうことか。そりゃあ騎士団があちこちで動き回るわけだ」
王国騎士団がぞろぞろとやって来る。その中に混じっている女性
騎士の姿が目に入った。電流が走ったような感覚に陥る。
凛々しい女性騎士は細剣を抜いた。ミランダ・アシュレイという
名前で、王国騎士団では数少ない女性の一人。
「あの人だ!」
突如、王都を囲うように起こった複数のオド・テンペスタ。その
対応をする騎士団の中に見つけ出した資格者。レイラの直感が
彼女を見出したのだ。そしてこの事件はどうやら裏で意図を引く
存在がいるようで、黒幕の陰謀にレイラたちは巻き込まれる。
騎士団が向かった先とは別の場所から噴出するマナ。
オド・テンペスタを間近で見るのは初めてだ。
「止める方法ってあるの?」
「原因は色々あるのよ。それを解決するのが手っ取り早いわ。
だとしても…これだけの量が噴出する地点では無い筈なのだけどね」
建物も千差万別だ。城、宮殿、平屋、など種類がある。人によって
身長が異なる。山の標高も同じではない。同様にオドの大きさにも
差がある。特別に大きいオドはマグナ・オドと称される。それとは
比べ物にならないほどの小ささ。非常に小さいオドならば大陸の
あちこちに分布している。その大きさに見合わない量のマナが噴出
している。
「貴方としてはどう思う?ダンピーラさん」
キースの事を種族名で呼んだ。少しカチンときたような表情を
見せるが、すぐに元のポーカーフェイスに戻る。
「これだけの事を起こせる奴は、あちこちで見かけられるような
奴らではない」
キースの緋色の瞳が怪しく輝く。
「ただの魔力感知では把握できないか…ならば、こちらを
覗くしか無いな」
視界に見えるのは数多の炎。強弱も色も全く異なる。これは
全ての生物が宿す魂である。魂と根源と言う概念がある。どちらも
誰もが宿している。魂が完全消滅すると輪廻の輪から外れる。
根源とは世界のマナの部屋であるオドに似たようなものだ。
この根源と世界全てのマナを管理するオド…ミテラ・オドに直接
繋がっており、魔術を扱えるとされている。強さや得意とする属性、
それらは人によって異なる。非常に稀有な事だが複数の根源を
持つ人物もいる。
「キース、一時的でも良いからこのオド・テンペスタを
止めない?」
「…分かった。あれを破壊する」
「…はいぃ!?」
光の柱は天まで届くほど。そこにある魔法陣を破壊するのが一番
手っ取り早いらしい。