第一話「魔王に会いに行こう」
この世界は人間が支配する大陸と魔族が支配する大陸がある。
ミラビリス大陸が人間が支配している。
魔族が支配する大陸をティブルティナ大陸と呼ぶ。
舞台はミラビリス大陸。神話の時代が終わり、魔術の時代が始まった。
ミラビリスに存在する小国ディレイド小亜国に予言が下った。
「可哀想に…」
「仕方ねえさ。亡国の王族だろ。哀れむ必要なんてねえよな」
「しっ、聞こえるわよ」
城に入ることを許されない王族が特別に女王に謁見することが許された。
小亜国の女王アナスタシア・ディレイド。傍に控える女性は宮廷魔術師、
予言を伝えるミリティアと言う名前。
「ディレイドだけでなくミラビリスもまた魔族の脅威に晒されようと
している。ミリティアの予言の示す道へ進むが良い。お前が魔王に謁見し、
交渉するのだ」
「魔王に?」
亡国の王族であって、ディレイド小亜国の王族ではない。だが彼女は、
レイラ・リヴィエールは王族として扱われている。しかし城への出入りが
禁止されている。
「ただ、お前は言われた通りにするが良い。それだけが許されている。
ミリティア」
「七の星の資格者を集めるべし。二つの大陸は巨大で、強力な壁で
完全に隔たれてます。が、それも時がたちすぎて揺らいでるっぽい。
壁まで向かえば、入るだけっす」
大陸の最東端に位置する小亜国から最西端の境界の街へ向かわなければならない。
かなりの長旅になりそうだ。神話の時代の終わり頃、人間と魔族、それ以外にも
神族や精霊族を巻き込んだ大戦があった。かつての魔王と勇者、そして
精霊女王、女神の四者が共に戦争を終わらせた。異種族同士の争いを鎮めるべく
何者にも破壊できない壁を作り上げたのだ。その壁を越え、転生した魔王に
謁見し、交渉せよという話。一方的に用件を伝えられた後、早々に騎士に
よって外へ放り出された。彼らはシッシッとレイラを追い払うような仕草を
する。全く、もう少し丁重に扱って欲しいものだ。城門に一人の男が
立っている。彼もまた、レイラの生まれた亡国にいたらしい。長らく何かしらの
罪によって拘束されていたとか。
「相変わらず王族として扱っているくせに、雑だな」
「もっと言ってやって、キース」
キース・ローズ、混血。人間の母と魔族に類する吸血鬼の父との間に生まれた
人物だ。だが彼には吸血鬼特有の鋭い犬歯は見当たらない。あまり歯を見せて
笑わないのだ。彼の大戦は一万年以上も昔だ。長生きする彼も流石に
自分の目で見たことは無い。長生きとは言え、二百年程度。不老不死または
それに等しい寿命を持つ純血と比べれば短命。
「清々しただろ。ようやっと解放されたんだから。俺も、お前も」
「私は全然拘束されたって気分では無いけど。キースは分かる?
七の星の資格者って部分」
キースはふと遠くを見つめる。
「亡国を取り込んで、小亜国が出来上がった。あの国を前身としているなら
王族の守護者たちの称号の事だろう。水星騎士、金星騎士、火星騎士、木星騎士、
土星騎士、天王星騎士、海王星騎士。資格者か否か、王族のお前に決定権がある。
母なる青き星の祝福そのものである王族が、授けられる星の祝福だ」
七の星の資格者とはかつて存在した国が擁する七人の守護者、戦士たちに
与えられる称号である。それに相応しい七人を見つけ、そして魔王に会いに
行く。そう言う事だ。
「じゃあ、行こう」
「その前に…」
キースが引き留めた。せっかく行く気になっていたのに、出鼻を
挫かれたような気分だ。振り返って、何事かという表情を見せる。門が
開き、恐る恐る外に出て来た人物。ターコイズブルーの長髪はつい先ほど
見かけたミリティアと同じ特徴だ。
「ミッシェル!?」
宮廷魔術師は二人いる。そして双子である。ミッシェル・レインウォーター、
ミリティアの双子の姉。さらにキースの口から伝えられた驚きの事実。
「七の星の資格者が一人、神秘と抱擁の星の祝福を与えられた存在。
海王星騎士だ」
七の星の資格者の一人だったのだ。彼らの出現は突然なのかもしれない。
「宮廷魔術師が城の外へ出ても良いのか」
「女王も認めてるわ。面倒ごとは全部ミリティアに任せちゃった☆」
「妹が可哀想だ」
面倒な仕事をまとめて妹に押し付けた姉。妹のミリティアは
怒ってもいいだろう。仕事から解放されたミッシェルは海王星騎士として
役割を果たすべくレイラたちと共に魔王に会いに行く。キースは
コソコソと隠れながら、機を窺っていた彼女の存在に最初から気付いていた。
彼の目には死角が無いのかも。
「さぁ、行きましょう。私がしっかり道を示します。汝、星を探すならば
アガスティア王国へ渡るべし。さすれば星が見つかるでしょう。目的地は
汝の心の赴くままに!」