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市川隼人という人間に出会ってしまったのは、もう2年前だっただろうか。
きっと、一目惚れだった。君を知るたびに、もっとずっと、「好き」が深まった。
好きになって、仲良くなって。
「柳、もっとこっち来てよ。」
「柳までそれ言う?!」
「教科書忘れちゃったから、見せてくれない?この埋め合わせは絶対するから!!」
そんな市川に誘われた男子バレー部のマネージャーなんて、やるしかなかった。
好きな人の役に立てる、市川の役に立てる。そう思ったら、遠い遠征も苦手な早起きも頑張れた。
今日まで、は。
「柳、聞いて。」
「俺、彼女できたんだぁ。」
そんなの、聞いてないよ市川。私たち仲いいじゃん、隠し事なんてないくらいにお互いのこと話し合ってたじゃん。
初めての隠し事がこんな、恋愛だなんて。そりゃないよ、ねぇ。
ただ学校であえて、「おはよう」「じゃあまた明日」って言って、くだらないことで馬鹿みたいに笑い合う、それだけでよかったのに。
部活をしている姿を誰よりも近くで見れる、それをサポートできるってだけでよかったのに。
市川に、愛されたいと思ってしまった。
きっと、そんな下心を神様は見透かしたんだね。そんな神様なんていらないよ。
ただ、私の恋愛成就を黙認してくれるだけでよかったのに。
今は出てこないで、涙。今は泣くところじゃない。
素直に、ただ一言、おめでとうって言えればいいだけなのに。どうしてこんなに口が震えるの。
「そっか、好きな人いたなんて知らなかったな。」
「お、おめでとう、市川。」
それと、甘い夢をありがとう。