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9 原因のクッキー

「歓迎って。私何も…。」

「まあまあ、食べ終わったら詳しく説明させて。とりあえず冷めないうちにどうぞ。」


さあさあ、と勧めてくる陽一さん。

確かにオムライスからはとても良い匂いがするし、食欲がそそられる。

加えて私のお腹も再び盛大にグーと音を鳴らした。


「いただきます。」


少々納得いかない部分はあるものの、今はとりあえず目の前の美味しそうなオムライスを食べよう。私はオムライスをスプーンで一口掬って口へ運んだ。


「っ!!!美味しい!!!」


絶品だ。美味しすぎる。私が今まで食べてきたどのオムライスよりも美味しい。

私は目をキラキラさせて何度もうなづいた。前髪が乱れたが気にしない。

本当に美味しい。語彙力が足りない!でも美味しいしか言葉が出てこない!


「桃さん天才です!」

「褒めすぎよ〜。」

「そんなことないです!毎日でも食べたいくらいです!」

「まあ、嬉しい。何をサービスしちゃおうかしら。」



「そう、そのサービスが全ての引き金なんですよね。」


私と桃さんの会話に入ってきたのは、いつの間にか私のそばで、同じようにオムライスを頬張っている陽一さんだった。


桃さんは陽一さんに視線を移した。


「サービスが引き金ってどういうことかしら?陽一さん。」


陽一さんはもぐもぐと食べているオムライスをごっくんと飲み込む。


「もう説明始めちゃってもいい感じですか?俺としては食べ終わってからでいいかなって思ってたんだけど。」

「どちらでも構わないわ。というか単純に私が原因って言われているみたいで気になるのよね。」

「了解です。なら、食べながら聞いてもらおうかな。まもりちゃんも食べながらでいいから聞いてね。」


私にウインクをする陽一さん。

とりあえず私はコクンと頷いた。


「じゃあ、説明を始めますね。」


陽一さんは説明を始めた。


「まもりちゃんは特に霊感があるわけでもない正真正銘普通の一般人。でもそんなまもりちゃんが昨日の夕方、俺と茂樹が仕事してるところに出くわしたんだ。」


「その段階でまもりちゃんは、その日お連れする予定だった俺たちの仕事の対象、草原鈴子さんが見えていたんだ。いいや、見えているだけじゃない。会話して、触れて、お化粧までしてくれたんだ。俺としてはすごく助かったんだよね。」


陽一さんは私に向かってニッコリ笑った。

そして、そのまま視線を桃さんへ移した。


「たった数時間の間に今まで関わりのない世界の存在だったものが見えたり触れたり出来るようなるなんて普通ならありえない。不可能な出来事なんだ。でもそれが可能になる条件が二つある。」


指を二つ立てて、ピースのような指を作る。


「一つは、突然変異のご都合主義でまもりちゃんが不思議パワーに目覚めてしまった。まあ、これは非現実的だよね。まるで漫画やアニメの世界の展開だ。」


指を一つ畳む。


「もう一つは、向こうの世界。あの世のものを口へ運んでしまった。その中でも、あの世管理局の中枢で作られた食物を利用して作られたものだ。桃さん、これに心当たりがあるんじゃない?」


桃さんは、首を横に振った。


「ないわよ。心当たりなんて。うちの商品は現世のものを使用しているわ。昨日もまもりちゃんに提供したのは、カフェラテと、陽一さんが騒がしくしたお詫びに用意したクッキーだもの。」


陽一さんは、やっぱり、と呟いた。


「何がやっぱりなのかしら。」

「そのクッキーが原因だと思うんだよね。」

「あれは私が焼いたクッキーよ?」

「だと思うでしょ?実は昨日俺、あの世管理局に寄ったついでに、お土産に向こうのクッキーを置いて行ったんだよねー。バタバタしてたから桃さんにお土産っていうの忘れててさ。あとで言えばいいや、と思って桃さんが作ったクッキーの側に置いておいたんだよね。」

「え?」


桃さんは慌ててカウンターの中をゴソゴソと探し出した。


「……。ほんとだわ。よく見たら私のクッキーの横によく似たクッキーが…。」


桃さんは、片手は腰に。もう片手は額に当てて、下を向いた。


「私としたことが…。」


えっと、これは…私はどうしたらいいんだろう。

桃さんは、やってしまった…と困った顔をしているし、そんな桃さんをよそに陽一さんは楽しそうにニコニコ笑っている。


「あの、つまりどういうことでしょうか。」


おずおずと私が聞けば、桃さんが眉をハの字にして申し訳なさそうに口を開く。


「まもりちゃんごめんなさいね。私があなたに出したクッキーのせいで、こんなことに…。」

「こんなことって?何かまずいことになっちゃった感じですか?」

「うーん、問題がないと言えば問題がないんだけれど…いや、あると言えばあるかしら。」


どっちなんだろう。


「つまり、話を要約すると、まもりちゃんがあの世のものを口にしてしまったことで、あの世との距離が近くなってしまった。ということなのよ。」


あの世との距離が近い…ってそれってもしかして。


「私死んじゃうんですか?」

「ううん、それは違うわ。誤解を招くような言い方をしてごめんなさいね。」


桃さんは両手を振って否定してくれた。

よかった、すぐに死んでしまうってことではなさそうだ。


桃さんはそのまま説明を続けた。


「あの世の物や人が見えたり、聞こえたり、触れられるようになってしまったってこと。もっと単純に言うなら、少し霊感が強くなった、ってことなの。本当にごめんなさい。」


桃さんは頭を深々と下げた。


霊感!?突然のことに私は驚きが隠せなかった。

でもそれ以上に、申し訳なさそうに何度も頭を下げる桃さんの姿を見ていると、こちらが申し訳ない気持ちになってくる。桃さんはあの日、善意でクッキーをくれただけなのに。


「もっ桃さん謝らないでください!ほら、私こんなに美味しいオムライスをいただいていますし、昨日のカフェラテも絶品でしたし!謝らないでください!」


ワタワタと手をばたつかせる私。


「そうだそうだー!これで俺たちと一緒に働ける条件が揃ったし、桃さんナイス!」

「あんたは黙ってなさい!大体紛らわしいところにクッキーを置いた陽一さんにも問題があるのよ?」


桃さんは陽一さんを睨んだ。


「えー俺のせいだっていうんですかー!」

「あなたのせいとは言ってないでしょ。あなたも悪いって言ってるの!今後カウンター内…特にキッチン周りには近づくことを禁止するわ。」

「ええーっ!それじゃ、つまみ食いできなくなるじゃん!」


陽一さんは項垂れた。


「やっぱりたまに冷蔵庫から食材が減っていたのは陽一さんだったのね!そうだとは思っていたけれど。店自体出禁にしちゃおうかしら。」

「それだけは勘弁してください。」


プライドがないのか陽一さんは堂々と無駄に綺麗な土下座をした。


私はどうしたらいいんだろう。

困っている私を見かねたのか、桃さんがもう一度私の名前を呼んで深々と頭を下げた。


「変なことに巻き込んでしまって本当にごめんなさいね。」

「あの、先ほど霊感が強くなるっておっしゃっていましたが…。」

「ええ。」

「それは、ずっとですか?」

「そうなるわね…。これから不思議なものを見てしまう機会があるとは思うけれど、基本的には無害なものだから無視してするようにしてもらう生活になると思うわ。あ!もし困ったことがあったらすぐにお店に来てちょうだい。ほんと…それくらいしかできなくて申し訳ないんだけど。」


桃さんは申し訳なさそうに言った。


「え…はあ…。」


これからどうしたものか。というか、今話されていることだって、突然の展開すぎて正直私はついていけていないのだけれど。


少しの沈黙が流れる。先ほどまで軽かった空気が今はどんよりと重い。


桃さんは私の様子を見ながら、声をかけた。


「あの、少し聞いてもいいかしら?」

「はい、なんでしょう。」

「まもりちゃんはお仕事は何をされているのかしら?あ、気を悪くしたらごめんなさいね。お仕事場によっては、不思議なものが寄ってくる場合もあるの。例えば、病院とか冠婚葬祭関係だったりとか。」


びっくりした。桃さんまで変な勧誘をしてくるかと思ったけれど、これは純粋に心配をしてくれているだけのようだ。


「それは大丈夫です。なんというか、お恥ずかしながら最近退職したばっかりで、これから新しい職を探す予定でしたので。あ、他にも避けた方が良い職場等があったら教えて頂きたいです。



「それは好都合だね!!!!!」


重い空気をぶった斬るように元気いっぱいの声で割り込んできたのは陽一さんだった。

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