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5 再会

「不思議なお店だったな。」


あれからカフェラテとクッキーをいただいて、店を後にした私。

また来ますね、って言うと、桃さん…って呼んでも良いのかな。


彼女は「いつでも来てね。」って入り口まで送り出してくれた。

幸いにも雨は止んでいたし、水たまりに反射している夕暮れの路地裏はとても綺麗だと思った。


カフェラテ美味しかったし、また行こう。今度はいつ行こうかな。

そんなことを考えながら歩き始めると、聞き覚えのある声が聞こえた。


「こんな格好じゃ行けないわ!」

「と言われましても。」

「こんなおばあちゃんになって、あの人に合わせる顔がないもの!こんなに痩せて、髪もボサボサで…。私だって分かってもらえないかもしれないわ!」


声のする方へ歩いてく。

小さな路地の角を曲がった場所には、ベンチと花壇だけの小さな公園があった。

そのベンチに座っているのは、おばあさん。

そしてベンチの向かいで、やれやれ、と額に手を置いているのは…


「あ、さっきの男子高校生くんだ。」


ポツリとつぶやいた私の言葉は、どうやら男子高校生くんに聞こえていたようだ。

彼は私の方を向いた。眉間に皺を寄せて、目を細めてじーっと見ている。


もしかして睨まれてる?私何かしたっけ…。


「あ、さっきのお客さんですか。」


「こーら。茂樹。その目つきは良くないぞー。お嬢さんが困ってるじゃん。」


ポンと後ろから肩を叩かれる。

思わずビクッと肩が跳ねる。誰!?


勢いよく振り向くと、そこには先ほどまで喫茶店で私を勧誘してきた青年がいた。彼の手には、駅前のチェーン店の季節限定のドリンクが握られていた。


「ごめんねーお嬢さん。この子、近視なのに頑なに眼鏡嫌がっててさー。だから睨んでいる訳じゃないんだよ。あ、よかったらこれ飲む?」


彼は新作ドリンクを持ってウインクをした。


「いえ、結構です。」

「そ?」


彼はストローを口に持っていき、ドリンクを飲んだ。


「うん!今回の新作は当たりだね!美味しい。」


上機嫌で鼻歌混じりな彼に、男子高校生くんが声を張り上げる。


「陽一さん!何呑気に飲み物買いに行ってるんですか!」

「えー、だって長引きそうだったからさ。」

「陽一さんが協力してくれないからじゃないですか!」

「そうやって人のせいにしない。ほーら、そんなにプリプリ怒ってたら、鈴子さんが怖がっちゃうよ。」

「っー!!」


茂樹、と呼ばれている男子高校生くんはグッと言葉を飲み込んだ。

彼の目の前でベンチに座ったままのおばあさんは、俯いたままだ。


「えーっと、その、どうしたんですか?」


私が声をかけると、彼は私にすっと手のひらを向けた。


「いえ、あなたには関係ないことなので。」


関係ないって…でもおばあさん困ってる様子だし…。


「何かお困りみたいですし、力になれたらって思ったんですけど…。」

「お気遣いだけで結構です。」


ピシャリと言い放たれる。

ここまではっきり言われると「そうですか」って帰るしかないし、普段の私だったらそうしたかもしれないけれど、今日はそうはいかないと思った。


なぜなら、目の前のおばあさんが、俯きながらもぽたりと、涙が溢れ落ちたのが見えたから。


私は男子高校生くんの静止を無視して、おばあさんの目の前まで足を進め、しゃがんでおばあさんと視線を合わせた。


あ、やっぱり泣いてる。おばあさんの頬には涙が伝った跡が残っている。それに服にも涙の滲みができてる。


「私でよければお話聞かせてください。」


おばあさんは少しだけ顔を上げて私の顔を見ると、コクンと小さく頷いた。


「夫に会いにいきたいんだけど、こんな見た目だから…。会えなくて。」


確かにおばあさんはノーメイク、髪もやや乱れている。


「わかりました。少しお時間いただけますか?」

「え、ええ。」


私は自分のカバンからメイクポーチを取り出した。

外出用だから最低限しか入れてないけど、それなりに整えることはできるはずだ。


「私のでよければ、軽くお化粧しても良いですか?」

「良いの?」

「ええ、もちろん。」


私はニッコリ笑みを浮かべて、化粧ポーチから化粧品を取り出す。

おばあさんは顔を上げて私の顔をじっと見た。

私は彼女と目を合わせて頷く。


「ではいきますね。」


それからおばあさんの顔をにメイクをする。

もとからそんなにお化粧は得意でも不得意でもない極々平凡な私だ。

いつも自分がやってるのと同じように…と言っても、今あるものでは最低限のメイクしかできないけれど、おばあさんと会話をしながら彼女の好みを聞きながらメイクをすすめた。


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