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4 気になります?一緒に働きます?

しばらくして、湯気を立てた温かいカフェラテが運ばれてきた。

運んできたのは先ほどから『桃さん』と呼ばれている女性だ。

彼女は花が描かれているコーヒーカップを丁寧に私の前に置いた。


「さあ、どうぞ。」


彼女は目尻に小さな皺を刻んでニコッとウインクをした。


「良いんですか。」

「もちろんよ。さあ、カフェラテが冷めないうちにどうぞ。」


ふふッと笑みをこぼし、軽く一礼をすると彼女はカウンターの中へ戻って行った。

私はペコリと会釈をして、それからカフェラテを手に取った。カップがとても温かい。そして良い香りだ。

すーっと胸いっぱいカフェラテの香りを吸い込み、一息。ああ、幸せだ。


まずは一口、こくりとカフェラテを口に含む。まろやかな口あたりでとても美味しい。私、ここの常連になっちゃうかも。


あまりのおいしさに、口元を押さえてうんうんと何度も頷いてしまった。

これはゆっくり味わって飲まなくては。いや、それよりもおかわりをした方が早いかな。


なんて考えていると、青年の声が耳に入ってきた。


「じゃあ、地道な張り紙募集しよう。桃さん、この辺に適当に募集のポスター貼るからね!いいよね?」


私はコーヒーカップを持ったまま、青年にチラリと視線を移すと、彼はどこから取り出したのか紙とペンを持って何かを描き始めた。


そしてあっという間に描き上げると、それを店内の壁に勢いよく貼り付けた。


『あなたも一緒に働きませんか?急募!!あの世管理局 迎えにいこ課で待ってます!』


……あの世管理局?

如何わしい宗教勧誘だろうか。しかも添えられているやたらファンシーなイラストが気になる。

スズメの頭に天使の輪がついているって、なんかシュールな仕上がりだなぁ。



「気になります?」


いつの間にか青年が私の方を見て、ニッと笑った。


「えっ。」


しまった。ジロジロ見ていたのがバレてしまった。

何か答えなくては。


「えーっと、宗教勧誘なら別の方を誘った方が…。」


「違うよー。えーやっぱりそんな風に見えちゃうかー。大体『迎えにいこ課』っていうネーミングが洒落っぽい上に胡散臭いんだよなー。ふざけているようにしか見えない。」


青年は腕を組みながらうんうんと頷きながらペラペラと話す。


「こーら、陽一さん。局長の悪口は言わない。査定に響くわよ。」

「失礼しましたー!」


とか言いつつも、青年は全く悪びれもない。

いたずらっ子みたいに笑っている。



そこへカランコロンと音を立てて喫茶店のドアが開いた。

新しいお客さんだろうか。


思わず音のした方向へ視線を移すと、少し小柄な青年が勢いよく駆け込んできた。彼もまたスーツを着ていた。


「いた!陽一さん!こんなところで油を売ってないで早く来てくださいよ!今日中にあと3件もあるんですよ。」


彼はハアハアと息切れをしている。額から玉のような汗がポタポタと流れており、髪の毛はあっちこっちへ踊っているようにいろんな方向へ跳ねている。外は雨だからか、スーツはびっしょりと濡れているが、彼は暑いのか腕まくりしており、活発そうな見た目は運動部に所属している男子高校生のようだ。


そんな彼、ここではとりあえず名前もわからないから男子高校生くんとしよう。

男子高校生くんは、キッと青年を睨みつけた。


しかし青年は一つも怯むことなく、むしろ飄々としながら男子高校生くんに手を振った。


「頑張ってー。俺は休憩中ー。」

「何言ってるんですか!良いから早く来てください!」


おっと、男子高校生くんの額に青筋が浮かんでいる。これ絶対怒ってるよ…。


「えー今回の案件は君一人で十分でしょ。」

「そういうわけにはいかないんですって。嫌だって駄々捏ねられてるんですから。」

「それは君の交渉次第でしょ?説明の仕方に問題があるんじゃないの。」


ブチっと音が聞こえるくらい男子高校生くんがイライラしている。

体温が上がっているのか、雨に濡れたスーツや髪の毛から湯気が立っている。


一触即発とはこういう状況のことを言うんだろうか。


男子高校生くんはズンズンと足音を立てて青年に二、三歩近ずくと青年の腕を掴んだ。


「良いから!行きますよ!じゃないと課長に苦情入れます。陽一さんの減俸を要求します。そしてもう朝起こしてあげませんから!」


ブッと思わずカフェラテを吹き出してしまった。

なんだその朝起こしてあげないって。


「最後のは困るなあ。しょうがない。桃さん、また来るね。」

「はーい。」


青年はポケットから小銭を出すと、カウンターに置いて男子高校生くんに引きずられるように店の外へ出て行ってしまった。まるで突然来た嵐があっという間に過ぎ去ってしまったようだ。


カウンターの中から女性が苦笑している。


「騒がしくってごめんなさいね。カフェラテ、冷めちゃったかしら?いれ直すわね。」

「いえ、お構いなく…。」

「遠慮しないで。」


しばらくして出てきたカフェラテには、『騒がしくしたお詫び』と書かれたメモと共に、クッキーが添えられていた。


私は女性に向かってペコペコと頭を下げると、彼女はフフッと笑ってくれた。


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