2 喫茶店の覗き
「へえ、路地の方ってこんな感じになってたんだ。知らなかった。」
普段入らない道へ入ると、そこには個人経営っぽい小さなお店や、昔ながらの家が立ち並んでいた。
やっているのかやっていないのか、わからないようなお店が多い中、一際目を引いたのは、一つの小さな喫茶店だった。
「喫茶…スズメ?」
可愛らしい名前にぴったりの、レトロな小さな喫茶店。
茶色を基調としていて、小さくまとまっているその雰囲気はスズメという名前がしっくりくる。
内装はどんな感じなんだろう。
私はお店の窓からこそっと店内を覗いてみた。
すると、驚くことに、店内には先ほどの青年の姿が見えた。
青年はカウンター越しに、可愛らしいエプロンが特徴的な女性と話していた。女性の見た目は、50代くらいだろうか。ショートカットで、ふっくらした見た目のその人は大きな口を開けて笑っていた。
時々、バンバンと青年の肩を叩いており、青年と仲が良さそうに見える。
「カウンターの中にいるということは、店主さんかな?」
なんて思わずポロリと口からこぼれた瞬間だった。
店内の女性と目が合った。
「あ。」
まずい。今の自分の姿は、側から見ればジロジロと店内を見渡す不審者そのものだ。
どう切り抜けようか、軽く会釈をして窓から離れて駅にダッシュしようか…なんて考えていると、女性はニッコリ笑って、私を手招きした。
「入っていいってこと…だよね?」
私はペコリと頭を下げて、喫茶スズメの店内に入った。
ドアからはカランコロンとベルの音が鳴っていた。
「いらっしゃいませ。」
女性は、ニッコリ笑って声をかけてくれた。
よかった、不審者だとは思われてないっぽい。
「こんにちはー!!」
ついでに青年も、店の入り口にいる私に向かって片手を振りながら元気よく声をかけてくれた。
「こっこんにちは。」
ペコリと頭を下げて私はぎこちない笑みを浮かべた。
「外、雨降ってきたでしょう?濡れてないかしら。あ、タオル持ってくるから、お好きな席にどうぞ!」
「だっ大丈夫です。お構いなく。」
「いいえ、女の子が体を冷やすのはよくないわ。座って待っていてね。」
女性は店の奥からタオルを持ってくると、私に渡してくれた。
「どうぞ。」
「ありがとうございます。」
「いえいえ。メニューはここにあるので、注文が決まったらまた呼んでね。私はそこにいるから。」
ニコニコ笑いながら、女性はカウンターの方を指差した。
私はペコリと会釈をすると、女性は鼻歌混じりにカウンターの中へ戻って行った。