あなたが神と共にあらんことを
告白から一ヶ月が経った。
僕は今日、ある人に会いに行く。
一応知ってはいたんだ。そこにいるって。勇気が出ないし、今更なにを話すんだと思って、会いには行かなかったけれど。
夕暮れに染まる街で、見慣れた姿を見かけて、僕はその人の名前を言った。
「琴葉」
悩むように足が止まって、意を決したみたいに、彼女は振り返った。
「蒼君」
潤んだ目で、僕をそう呼んだ。久しぶりの声だった。
「久しぶり。……えと、なに、話せばいいかな」
まずはそうだ、謝らなくちゃ。
「ごめん。もっとね、話したかったし、話すべきだった」
傷つけ、傷つけられた人として。
かつて親友だったその子は、やっぱりもう、親友じゃなくなっていた。
「それは、私の方だよ。相談しちゃ、駄目だった」
困り笑いをして、泣きそうな目で彼女は言った。
「重いものを押し付けちゃったのは、僕の方だから、その、琴葉はなにも悪くないよ」
「蒼君は優しいね。……まだ『茜色のカラコン』してるんだ」
「僕にとってね、琴葉は、忘れたくない人だったから。カラコンつけたままでいいように、自分が手の届きそうなレベルでいて、校則の緩い高校を選んだんだよ」
それだけじゃない。僕は琴葉のアルビノ特有の目の色を綺麗だと思った。だから少しでも真似したかった。
「そうなんだ」
「それでね……。中学の頃、僕と琴葉に足りなかったのは、歩み寄ること、関係に固執しないことだったんだ」
『白黒つける必要なんてないだろう。恋人と婚約者の違いはつけるべきだと思うがな。なにせ人生がかかってるから。だが、私と蒼ちゃんの縁はそうじゃない』
親友は告白した人された人の間柄に相応しくない。そういう風に考えて、お互いに迷子になって、そのうち傷つくのが、傷つけるのが怖くて、気づいたらもう二度と近づけない距離になった。
『もし、傷つけた人も、傷つけられた人も、後悔していて、その上で、互いに歩み寄れば、あるいは和解できるのかもしれない』
「それで、今僕と琴葉が話せているのは、お互いに相手が大切で、話したいと、相手を理解して、歩み寄っているからだと、思うんだ」
「……でも、もうさ、私達が元に戻ることなんて、できないじゃん。蒼君は、そういうところ、割り切れちゃうでしょ?」
琴葉は、僕のことを僕以上に理解してくれる。その通りだ。樋口さんのときのようにはいかない。
「だから、ごめんねって、さよならって言いたかったから」
高校に入学したとき、僕はまだ中学生のままだった。女の子になることを、諦めようとしていた。
「僕、琴葉のおかげで将来の夢も、趣味も、見つけられたんだ。役者になりたい」
「そうなんだ。良かったね」
素直に祝福してもらえたことが嬉しい。
この場でこうして、話せるのが嬉しい。
ずっと、嬉しい。
「僕は、ちゃんと女子高生になれたよ」
「……良かった……」
予想に反して、琴葉は少しだけ、涙ぐんだ。ふにゃふにゃになった。
それも一瞬だ。
「私も、夢が出来たよ。好きな人も、出来た」
「良かった。……本当に」
今の琴葉になら、伝えてもいいだろうかと思った。彼女にはもっと前を向いて、成長してほしいから。
「僕は、女の子を好きになったよ」
「……そうなんだ。女の子として?」
「うん」
「そうなんだ。……私に足りないものを持ってた人なんだ」
「ううん。多分、ただ僕と琴葉が幼かったからだ。琴葉、あのね、僕は感謝をしたい」
「私もだよ」
ああ、良かった。琴葉はもう、高校生だ。
引きずっていない。
「ありがとう」
「ありがとう」
言い合って、それで、少しだけ名残惜し気に、お別れするんだ。
「さようなら」
「……またね、じゃ、駄目なんだよね。これ以上触れ合うのは、毒だもの。……グッバイ」
背を向けて、歩き出した。
これでいい。これがいい。僕たちは、高校生にならなくちゃ。




