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自覚は遅れてくるらしい

 かわいいは兵器だ。

 なんか、変な扉が開きそうだった。今。……いや、手遅れで、かつ、私がほしいものである気がする。

 求められてもそれは、私じゃなくて、私が演じた別の誰かで、求めたって叶いはしない。それで私は満足だった、はずなんだけど。

 蒼は、違った。いや、私が変わった?

 私が嫌いな私を、好きだと言ってくれた。

 私の本音が、嬉しいと言ってくれた。

 ああ、泣きそうだ。

 視界が歪んでいる。もう泣いているらしい、と気づいた。

 蒼は私の理想だった。好きなものがあって、好きだと思って、確固たる自分があって、それがとても、素敵だ。

 好きだ。

 かわいい。本当にかわいい。かわいいって見た目じゃないんだなって。正直舐めてました。蒼がリボン似合うのは、あくまでウィッグとかお化粧とかで見た目をそっち方面に近づけてるからだと思ってた。

 違うんだね。だって今、ネクタイをつけて、ズボンを履いて、髪は短くって、化粧も何もしていなくて、どこからどう見ても普通の男子高生なのに、かわいいと思ったんだから。今の状態でも普通にリボンが似合うと思ったんだから。

「茜音ちゃん? え、え、ごめんなさいごめんなさい。やっぱり今のなしで。……茜音ちゃん? え、え。どうしようどうしよう」

 泣いてたら、心配された。

 なんか嬉しい。

 ぐいぐいブレザーで拭うと、精一杯笑ってみた。

「ちょっと、気が抜けちゃった」

 初めて口にした気がする。

「そ、そうなの? それなら、良かった……?」

 首をひねる蒼がいるから、私は机に突っ伏して少しだけ休もうと思った。

 一月下旬、澄んだ空気が店内に吹き込んできた。


「晴斗君晴斗君。恋愛相談受ける気はない?」

 二月に入って、地獄の持久走が終わった。晴れやかな顔の茜音は晴斗にそう問うた。

「ない」

 女友達に言えよ、と眉を寄せる。まあ、出来ないから俺なんだろうな、と自覚はしているのだが。

「聞いてよ晴斗君。私が恋しちゃったかもしれないんだよ晴斗君」

「俺の名前を語尾にするな」

「そんなこと言わないでよ晴斗君」

「だから」

 不満げに黙る茜音とそんな茜音に呆れかえって何も言えない晴斗。

「大体、お前なら簡単に愛を知るんだと、俺は信じてたぞ」

「……本当?」

 若干馬鹿にすらしている晴斗に対し、茜音は真に受けてパッと表情を明るくした。

「そっか」

 噛みしめるように呟いて、それから芝居臭いくらいの驚きを顔に出して、深刻そうに目を憂いに染めた。

「バレンタインどうしよう」

「知らねえよ」

「晴斗君……は参考にならないや。……うーん」

 思いの外真剣に悩んでいる茜音に、少しアドバイスをくれてやろうと、晴斗は思った。

「その、好きな奴の友達とかにでも、好きなもん聞いてみりゃいいんじゃねえ? 別に本人に聞いたっていいし」

 それだ!と人差し指で晴斗を指さした。人にその指を向けるな、ともっともな指摘をする晴斗を無視して、茜音は蒼へアポを取りに行った。

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