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体育祭準備

 夕食時、母に言われた。

「蒼、最近友達のことを沢山話してくれるね」

 いきなりすぎる言葉に、蒼は軽くむせた。手を止めて母を見る。至って真剣な顔だ。

「言われてみれば、そうだな。友達のことに限らず、学校のことについてよく話すようになった」

 父にまでそう言われてしまっては、そうなのだと納得するほかない。少々むずがゆい気分になり、蒼は恥じらいながら苦笑した。

「そうかな」

「ええ。そうよ。楽しそうでほんとに良かった」

 言葉通り顔を緩める母に、蒼はただ、照れ笑いを浮かべ、それを隠すように、夕食を口に運んだ。


 さて、茜音をかわいいと思い、どうしようもない感情を抱くこと早三日。

 体育祭の季節がやってきた。紅白の二チームだ。蒼のクラスは白である。

 元々、夏休み中に係になった人が練習していたりしたのだが、とうとう蒼のような係のない生徒にも役割が割り当てられることになった。九月二十八日に体育祭のことを考えると、まあ妥当だろう。

 学年ごとに参加する種目が決まっていて、種目は一学年二個クラスの中で分かれて参加するものに加えて全員が参加する種目が複数ある、といった感じだ。

 一年徒競走。組対抗綱引き。二年の大玉転がし。一年が仮装リレー。三年生の徒競走。二年がパン食い競争。部活対抗リレー。三年の借り人競争。二年の徒競走。一年の二人三脚。三年の騎馬戦。一、二年の合同ダンスで終了。

 で、一年生が参加する中でクラスの中で半数ずつ参加が二人三脚と仮装リレー。

「じゃあやりたい方に手ーあげてー」

 黒井が学級代表してる……! 茜音と共に、黒井が立派に学級をまとめている。勉強会で勉強をする態度を見ていた蒼としては感動ものなのだ。

 蒼は仮装リレーのときに手を挙げた。二人三脚は人と触れあってしまうので。投票は人数ぴったりだった。ちなみに皆は以下の通り。

 茜音、平井、村上、晴斗は二人三脚。黒井、伊藤、蒼は仮装リレー。

 あとで別クラスの空良と未空に聞いたところ、未空は二人三脚、空はリレーらしい。未空は希望して、空はじゃんけんで負けて、とのこと。

「じゃ、さっきも確認したけども一回ルールすり合わせるよ」

  仮装リレーのルール

その一、通常のリレーと同様、バトン(またはそれに準ずるもの)をテークオーバーゾーンにて繋ぎ、クラス全員の最終的なタイムを競うものである

その二、通常のリレーと同様、学年で参加人数が合わない場合はクラスの中で二回以上走る者を決めること

その三、走る者は全員仮装をすること

その四、仮装について、テーマなどは指定しないものとする。ただしクラスで統一した場合は加点となる

その五、バトンは衣装のうち一つの小物とし、渡されたバトンと自分のバトンを走行中に交換し、渡されたバトンは持っておくこと

その六、タイムのほか、よりエンターテイメント性に優れていたクラスには面白賞があるものとし、大幅な加点とする。また、この面白賞、最もタイムがよかった者に送られる最優秀賞共に獲得もあるものとする

その七、その五のほか、動きづらい服装と動きやすい服装の差を公平にするため、また怪我防止のため、事前に服装を体育祭実行委員が全員で確認する。この時怪我の心配がある衣装については許可を出さず、動きづらい衣装には加点があるものとする

その八、この競技は我が校にいる全ての人間が楽しむべく考案されたものである

つまり、走る人は仮装したまま行うリレーということだ。そこでテーマが一貫しており、面白ければよりいい、と。

「まずテーマ決めよっか」

 黒井が話を進める。

一条(いちじょう)さん、ノート書いてる?」

 書記の一条が近くの席に座りながら頷いた。

「じゃあ、なんか提案ある人ー」

 次々声が上がる。

「動きづらすぎないものがいいですよね」

「関係ないんじゃない。加点されるなら、むしろ動きづらい方がいいってことも」

「あ、じゃあ妖怪とかどうですか。顔をダンボールとかで作れば案外それっぽくなるから、服は自由かも」

「衣装も作りやすいかな」

「でも面白いかというと……」

「じゃあいっそ存在しない生き物で縛るとか。ちょっとくらい面白い奴いるだろ」

「黒井ってオカルト好きじゃなかったっけ」

「や、まあ、嫌いじゃないけど、いいの?」

「選択肢は沢山あった方がいいだろ」

「でもなんかダサくね」

「もっといい呼び名……。せめてフィクションとか」

「いいじゃんいいじゃん」

 というわけで、テーマはフィクションになった。伊藤と蒼はあまり発言するタイプじゃないので、川のようにするする流れる話に入ることなどしなかった。

「じゃあ、次はどんなのにするかだな」

「有名どころのがいいよね」

「で、衣装が簡単で面白い」

「河童」

「衣装作んのむずくね」

「つか面白いってなんだ」

「女装すれば絵面完璧」

「やだな」

「女子が男装して、男子が女装とか」

「男子のリスクが半端ないだろ」

「あ、ここには書いてないけど、先生はクオリティ高くても加点って言ってた」

「それを早く言え!」

 わあ、どんどん決まっていくー。

 伊藤と蒼はこっそり目を合わせ、思考が同じことに苦笑した。

「えーと、十五人だから……これでいいかな」

「じゃあ誰がどれやるか決めよう」

 候補は十五個。

「やりたいの決まった?」

「あ、僕まだ決まってない……」

「……オレ、余ったのでいいや」

「月待は?」

「僕も余ったので大丈夫です」

「じゃあみんなやりたいので手ー上げてね」

 投票の結果、キョンシー、悪魔、雪女、座敷童、のっぺらぼう、貞子さん、妖精、人魚、サンタさん、吸血鬼、トイレの花子さん、河童、骸骨が決まった。

 残りはゾンビと口裂け女。

 まだ決まっていないのは蒼と、男子生徒一人。

「どっちか女装になるけど」

 黒井は面白そうだと思っていることを隠そうともしない顔で二人に問いかけた。

「……僕、口裂け女やります」

 気づいたら平然とした顔でそういっていた。考えるより先に言葉が出ていた。

「マジ?」

「はい」

 なぜかハイになっている気がする。血が巡る。

「おーけー。じゃあ決まりね」

 蒼は発言するのが得意でない。

 今はでも、発言するのに勇気は使わなかったように思うし、嬉しいという気持ちと失敗しないように頑張ろう、という気持ち以外なかった。

 変なものだ。

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